第36話 ドワーフ族を連れて砦へ

 火山の噴火活動によって壊滅的な被害を受けたドワーフ族の里から負傷したドワーフ族の生き残りを連れ出して一ヶ月もすると、戦闘ウサギの血の効果とザルーダの爺さんやエルフ族の巫女や巫女見習達の献身的な治療のおかげで、さしもの重症者も体調を取り戻した。

 傷も癒えたドワーフ族の里の村長が今後の身の振り方や助役の裁定の儀式を行うことについて相談を受けたのでこれを許可した。


 ドワーフ族の里から連れて来た助役については、裁定の儀式を受ける身でありながら、ここでも性懲りもなくドワーフ族の若い娘どころか、エルフ族の巫女見習の尻まで追いかけたので俺は奴を金属の檻に放り込んだ。

 今までは俺が法律だったが、一応前世の刑法のようなものを作ったので、俺の庇護下にいる間はドワーフ族も守ってもらうということで奴を収監したのだ。


 さすがはドワーフ族、奴は土魔法で金属の檻を壊して抜け出してまた若い娘の尻を追いかけた。

 木の檻にしたら火魔法で燃やしてまたまた若い娘の尻をおいかけた。・・・ダメだこれは犯罪者であり病気だ。


 私見だが俺は前世の精神耗弱者等の減免は考えていない。・・・う~ん人は口々に平等というわりには被疑者に甘く被害者につらく当たる考え方だからだ。また特に死者の人権は亡くなった時点で無くなるという考え方はどうなのだろう?


 若い娘からの多数の訴えがあり、もう一度奴をドワーフ族の里まで連れて戻ろうかとういうところまで問題が大きくなったところで、重傷者の中の村長が体調を取り戻した。

 奴の今回の所業について村長に奴をドワーフ族の里まで連れ戻るかを相談したところ、奴のドワーフ族の里における悪行が判明している分も合わせて裁定の儀式を行うことが決定した。


 生き残ったドワーフ族の里民総員による裁定の儀式が始まった。

 通常ならば成人男性のドワーフ族のみが裁定の儀式を行うのだが、今回の様にドワーフ族の里が壊滅的な状態に陥った為、老若男女を問わず全ての村民が参加することになった。

 俺達が拠点としているドワーフ族の里の出入り口付近の小高い丘の中央付近の広場で生き残ったドワーフ族の里民34名が彼を取り囲むように座る。

 議長はドワーフ族の里の村長が務める。


 俺達はそれをその外から見学だ。・・・奴が部外者は去れと騒ぐのが面倒だから遠巻きに見ている。当然の措置だ。

 ただ、若いエルフ族の巫女見習達の中で奴に知りを追いかけられたり、押し倒されたりした者は裁定の儀式に呼び出されて証言することになっているが・・・これはこれで大勢の前で証言する等、微妙な問題でだれも証言する勇気はない。


 裁定の儀式が始まると奴はアマエリヤ帝国の帝都で豪遊を繰り返していたなどと証拠が無いと言って喚いていたが、奴の妻が犯罪を証明する書類を持っており、奴の娘が若い娘達に成り代わり若い娘達に対する悪行も暴き立てた。


 奴に対するドワーフ族の里民総意の裁定が下りた。

 今では自然の牢獄となっているドワーフ族の里の金山における無期の強制労働だ。

 ドワーフ族の里は火山活動で奴が大好きな

『金』

が産出されるようになっている。


 奴はこの金山で鉱山奴隷として一生働くことになったのだ。

 奴の裁定が行われたところで、奴には気の毒だが俺が持っているアマエリヤ皇弟ソンダイク・ジンクーンが持っていた奴隷の首輪を取り付けた。

 俺の命令に逆らわないことが第一条件で、鉱山での労働とドワーフ族の里から出れないという条件を付けた。

 奴を連れてドワーフ族の里へと連れて行った。

 奴はドワーフ族の里に入ると、トボトボと金鉱が剥き出して出た金山へと歩いて行った。


 裁定の儀式の次なる議題はドワーフ族の里を直ちに再興するか、火山活動がおさまるのを待ってから行う、待つとすれば何処で待つかが問われたのだ。

 ドワーフ族の里を直ちに再興することは現段階では無理と判断された。

 今まで暮らしていた場所が今回の災害で住む場所を失ったとはいえ離れがたかったろうが余震が続く中では建物を再建してもすぐ倒壊する危険があるからだ。


 問題は待つとすればどこで待つかだ。

 先に逃げ出した村民と同じようにドワーフの国に逃げ込むか、ドワーフ族の里のほど近い小高いこの丘で待つか、俺達の拠点の砦で待つかということで紛糾した。

 ドワーフの国に行けば過酷な人頭税や重税に苦しめられることになる。

 またドワーフ族の里の出入口に近いこの場所は小高い丘とはいえドワーフ族の里の生き残り34人では守り辛く、貴重な鍛冶技能を持つドワーフ族は盗賊団のような奴隷商には垂涎の的なのだ。

 満場一致ということにはならなかったが金属加工の技術者を求めている俺達の砦に向かう事になった。

 裁定の儀式に参加した者は決定したその裁定に反することは出来ないということで全員が俺達の拠点の砦に向かう事になったのだ。

 

 重症者が完全治癒した裁定の儀式からさらに一ヶ月後、裁定の儀式で決定した通り俺達の砦に向かう事になった。

 その前に彼等の今後の生活用の物資や鍛冶仕事の鉱物を持ち出すため、ドワーフ族の里に助け出した34人が一度戻ることになった。

 ドワーフ族の里に入り、鍛冶仕事用に金山から掘り出された金を持ち出そうとすると奴が邪魔しようとするが俺が命令すると奴の奴隷の首輪で阻まれた。


 ドワーフ族の里で集めらた今後の生活用品や鍛冶仕事用の鉱物類が山のように積み上げられた。

 馬車や荷馬車はドワーフ族が乗るため、これらの生活用品や鉱物類は俺の魔法の袋に全て入れた。

 魔法の袋自体が国宝級の物ではあるが、俺がちょくちょく使っているのをドワーフ族の里の皆が見て知っていたのでこれらを中に入れていった。・・・う~ん、ただ俺が持っていると尋常じゃない収納能力になるなのだ。


 試しに俺以外の者がこの魔法の袋を持つと魔力量に応じて、魔法の袋の中に入っていた物が吐き出されてしまう。

 人によってその量が違うが、魔力量を測るうえで一つの目安になりそうだ。


 ドワーフ族の里の出入り口付近の丘の上に建てた仮設の病院や宿泊施設、その側の露天風呂の施設等は今後の事も考えてそのままにした。

 仮設の病院や宿泊施設は鉱物資源を取りに来た際の宿屋や、一時的な鉱物資源の集積場や馬の置き場に出来るからだ。


 ドワーフ族の里から怪我が癒えて割と元気になったドワーフ族の鍛冶職人達とともに俺達の拠点の砦に向かって進む。

 ドワーフ族の里の住民は馬車や荷馬車に分乗させて向かっている。

 道路については俺達がドワーフ族の里まで来る間に木を切り開いたりしてきたが、その後応援の為のエルフ族の巫女や巫女見習が来ただけで1ヶ月以上もの間、道路を使っていないそれで元の木阿弥状態になっている。


 生茂った樹木で行く手を阻まれ、引き続いて起こっている余震の影響か道路がうねり崩れている場所も多い。

 今回は木魔法が得意なエルフ族の他に、土魔法を使うのが得意なドワーフ族が同行している。

 ドワーフ族の里に向かって来るときにあれ程苦労した道路が見る見るうちに再生され出来上がっていく。


 ただ乗っている馬車や荷馬車は酷いものだ。

 最初の休息でドワーフ族が全員馬車や荷馬車に振動を軽減する装置等無い為、道路を走る車輪からの直接の強烈な振動で気分が悪くなり病人に逆戻りしてしまった。


 それでも元気なドワーフ族の鍛冶職人に板バネとコイルについて説明すると、馬車や荷馬車の車軸に板バネやコイルを使って前世でも通用出来る程のショックアブソーバー(振動を軽減する装置)を作ってしまった。

 それにコイルを見て、座席にコイルを多用したクッションを作り馬車や荷馬車の居住性を向上させた。


 これで快適な旅になった。

 快適になったとはいえ道造りをしながらだ、土魔法の得意なドワーフ族が一緒だったが体力を回復中の重症だった怪我人を働かすわけにはいかない、それでやはり帰りも1ケ月近くかかってしまった。


 ドワーフ族の里に行く途中通行の妨げになった大木を木魔法で切り倒して置いたが、その木々が良い具合に乾燥されていたので、その木を使って簡易の宿屋を所々に建てながら帰たのもあるのだが・・・。

 エルフ族の巫女達も木魔法は得意で、簡易の病院を建てる時に手伝ってくれたのであっという間に建てることができた。


 最初の宿泊施設は掘っ立て小屋のような簡素なものでドルウダの家族の襲撃で破壊された。

 当然返り討ちにして翌日の食卓に上がった。

 しかしこれではだめだと、建物の土台や防御の壁が土魔法が得意なドワーフ族の御陰で石造りの堅牢なものが出来た。


 簡易の宿泊所のベットも今までは乾いた葉を集めたマットレスがドワーフ族の鍛冶職人の御陰でコイルを多用したマットレスも作ってくれたのだ。

 このマットレスも俺の魔法の袋の中に入れて運んでいる。

 俺はコイルを多用した快適なマットレスは使用していない。

 怪我が癒えたとはいえドワーフ族の里の住民やエルフ族の巫女や巫女見習から使ってもらっている。


 何でもそうだが

『だんだん良くなる法華の太鼓』

ではないが、旅が終わるにしたがってマットレスが上等になり、簡易宿泊所の建物が簡易と言えない程、大きくて立派になっていったのは御愛嬌である。


 旅も終わり懐かしの砦が見えてきた。

 ドワーフ族の里の往復で3ヶ月以上もかかってしまった。

 季節も移り変わりもう春が終わり、この世界にもいる蝉が鳴く夏の季節だった。

 砦の付近の田や麦畑が黄金色に輝きはじめ、畑にも野菜が色付いて見える。

 今年は豊作の秋になるだろう。


 連れて来たドワーフ族の里の住民は34名と少なかったが老若男女を問わず、彼等は優秀な鍛冶師であり鉱山を見つける山師でもある。

 彼等は砦付近の山々に手分けして分け入り鉱山を探した。

 どうやら有力な銀山と鉄鉱石の出る山を見つけたらしい。

 銀山の近くに彼等の為に鍛冶工房が建てられて鍛冶村が出来上がっていった。



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