第29話 ダンジョンの発見

 少年盗賊団を捕らえたことにより俺達の新たな拠点、アジトとして少年盗賊団の岩場の砦を使うことにした。

 実は今年の長い冬で子供のできにくいエルフ族でも、娯楽のないこの世界で長い夜の唯一の楽しみの子作りにふけったのかベビーラッシュがおきた。

 それは結界のせいもあるが、せいぜい200人程度の住人が暮らしていける狭いエルフの隠れ里においてエルフ族のベビーラッシュによる人口増加は食糧事情の悪化をまねくことになる。


 この食糧事情を抑える為に岩場の砦周辺において適当な開墾場所が無いか相談を受けていた。

 それもありまた、拠点をつくると言っても砦付近の状況が分からないといけないので地図作りの為に岩場付近を歩き回っているうちに偶然ダンジョンを見つけたのだ。


 最初は地図作りの測量中に、親子連れのドルウダを見つけたことに端を発する。

 ドルウダの肉は上手いが繁殖力が旺盛で、一匹の雄に数頭の雌がつがいになり雌一頭が一回の出産で5、6頭もの子供を産む。

 体のデカイ雄に、一回り小さな雌が10頭ほどいる。

 ざっと見ただけでも50頭以上のドルウダの群れになるようだ。


 こいつらが今は子供だが成長して群れとなって岩場の砦を襲ったらと思うと背中に冷たい汗が流れた。

 そのドルウダの群れを俺達が追っていく。

 アリアナがプチ結界魔法を使って結界を張った。

 これで鼻や耳の良いドルウダでも俺達の臭いや足音が聞こえないのだ。・・・う~んこいつは便利だ!北海道の爺さんが生きていたら何と言うだろう?


 砦周辺の樹林地帯の中、ドルウダの後を追っていくと視界が開けて風光明媚な湖のある場所に出た。

 ドルウダはその湖の水を上手そうに飲んでいる。・・・この湖には水スライムや古代魚の類はいない安全な水のようだ。

 その湖の側の少し小高くなった岩場に巣穴を造ったのか、ドルウダの群れが入って行く。


 岩場には人一人がやっと通れるような隙間が開いており、それを巣穴の出入口にしてドルウダの群れが1頭ずつ長い列を作って入って行くのだ。

 これならばいくら数の多いドルウダでも巣穴の出入口で待ち伏せすれば簡単に倒せる!

 巣穴に入ったドルウダを生木を燃やして燻りだすか!

 そう思ったが、その巣穴の出入口に体のデカイ雄が寝転んで守っているのでチャンスをうかがう。


 しばらくすると雌にでも呼ばれたのか、体のデカイ雄は周りを見回した後に巣穴へと入っていった。

 待っているその間に真やアリアナ、シンディは他の出入口が無いかの探索も兼ねて生木を集めてきた。

 他の出入口はないようなので巣穴の出入口に、その生木の薪を積み上げて火魔法で火を付けてくすぶり上がる煙を風魔法で巣穴へと送った。


 この狭い出入り口では巣穴から出てこれるのは一頭ずつだ!

 燻されてもなかなか出てこない。・・・う~んこの巣穴余程広いのかもしれない!

 小一時間ほど待つが出てくる様子がない。


 かの宮本武蔵が京都の名門武道家、吉岡一門との三度の戦いが有名であり、その中でも特に一乗寺下がり松で大勢の吉岡の門弟を破っている。

 その時に、多数の敵にあいまみえる時は待つよりも討って出て、切り崩すべきだとも言っている。


『虎穴に入らずんば虎子を得ず』

とも言うではないか。


 俺は燃えて煙をあげる生木を次々と巣穴に放り込みながら巣穴の奥へと向かった。

 俺の後ろにザルーダの爺さんが続く、杖の代わりに孫悟空が持つような長さが変わる如意棒を持って入ってきた。

 アリアナは短い所謂いわゆる魔法のステッキを持って明り魔法で明るい光の玉を作って周りを照らしている。

 この二人の魔法使いを守るようにシンディが続く、殿は真だ、彼女も結界魔法を使えるので腰の愛刀ではなくアリアナの持つているような短いステッキを持っている。

 巣穴の出入口周辺は燻した煙で呼吸も出来ないような状態であったが真のプチ結界魔法で俺達の周りは新鮮な空気で満たされている。


 ドルウダの巣穴だと思っていたこの洞窟は50メートル程進んだ所で明らかに人の手で造られたようなトンネルになった!


 床や壁、天井までもが石のタイルが敷き詰められた場所にきたのだ。

 人工のトンネルまではドルウダと遭遇しなかった。

 それにあれほどドルウダを燻りだすために煙を送り込んでいたはずなのにこの洞窟の出入り口付近から人工のトンネルの入り口付近まで燻された煙くい状態だったが、人工のトンネルに入ると煙く無くなっているのだ。


 人工のトンネルの中はどうなっているのか判らないが明るい。

 天井の一部の石が発光石と言うものが使われていて明るいそうだ。・・・う~ん貴重な石だが取り外すと落盤事故が起きそうだ。

 そのトンネルに俺達は足を踏み入れる。

 トンネルに入ろうとすると、俺を押し戻すような

『グニャリ』

とした少し抵抗があったがトンネル内に入ることが出来た。


 続いて入ってきたザルーダの爺さんが興味深げに床や壁の天井の石のタイルを見て触っている

「わしもこの年になって初めて入ったが、こいつはダンジョンというやつだ。

 通常若いダンジョンは2層か3層で、古くなるほど階層が増えて10層以上に及ぶものもあると聞く。

 10層以上のダンジョンは危険だダンジョン主の魔獣が神獣と呼ばれるほどに育つのだ。

 普通のダンジョンで生まれた魔獣はダンジョンから抜け出せないが、神獣と呼ばれるほどに育つと自由にダンジョンから抜け出して旺盛な繁殖力で同族の魔獣を生み出してスタンピード(魔獣暴走)を起こすことがあるのだ。

 逆にどうも今回の様にドルウダの家族がねぐらにして、ダンジョン内の魔獣と子供をつくっても同様の事が起こる可能性がある。

 今年の冬にあったドルウダの大軍に襲われたが、このダンジョンが元凶かも知れない?」


 等と言いながら壁の石のタイルにザルーダの爺さんが爪を立てると傷がついた。

「このダンジョンは若そうだ、古いダンジョンの壁などはより堅牢になって爪を立てることすらできないのだ。」


 その説明を聞き終わるやいなやドルウダが襲ってきた。

 6本もある足を器用に使って走ってくる。・・・う~ん!ただ足音がでかいのだよ気配を消しても足音でわかる。

 ドルウダは一番大きな雄で前世のベンガル虎の雄と同じ3メートル近くもある。

 こいつが襲ってきたのだ迫力がある。


 実は俺、地図作りの旅の間、北海道の爺さんの遺品の猟銃を持って来ている。

 その猟銃を素早く構えて

『ドーン』

という発射音と共に打ち出された弾丸がドルウダの額を撃ち抜く。


 ドタリと糸が切れたようにドルウダが崩れ落ちる。

 それを合図にしたように次から次へとドルウダが現れて向かって来る。

 そのドルウダを倒しているうちに気が付いた不思議なことに倒れて残っているドルウダと淡雪の様に消えるドルウダがいる。


 淡雪の様に消えるドルウダの中には、ドルウダの大きめの魔石を残すものや宝箱を残すものまで現れた。

 淡雪の様に消えるドルウダの方が圧倒的に多い。


 次から次へときりが無い!

 猟銃はあまりのドルウダの多さに銃弾の装填ができず。

 5頭倒したところでやめた。

 今は水魔法で氷の槍でドルウダを貫き、それでも向かって来る奴は愛刀で切り倒していく。


 最初は火魔法を使おうとしたがザルーダの爺さんに止められた。

 酸欠が怖い。

 このダンジョンに入る前は煙で燻そうとしたが、このダンジョンの空調が効いているのか煙が無くなった、それでもダンジョン内で火魔法でドルウダを燃え上がらせた場合、ダンジョンが真空にしてその火を消そうとするかもしれないからだ。

 土魔法も使うと土魔法の原料となるダンジョンの壁や床を壊してしまうので、その影響で落盤事故の危険性があるので止められた。


 それで氷の槍だ。


 ただ水魔法の水は湿度の関係がある。

 無から有を創り出すのが魔法だが、それも限界がありできるだけ湿度の高い方が水魔法で沢山の水を創り出すことが出来るからだ。


 ダンジョンの通路で熱い(氷の槍を使っているので熱くは無いか)戦いを繰り返しているうちにザルーダの爺さんが扉を見つけて

「この中に入るぞ!

 この部屋の主を倒したらセーフティゾーンになって体を休めることが出来る。」

という。


 真が真先にその部屋に飛び込んだ。

 ザルーダの爺さんやアリアナたちも続く、その部屋の中から魔法を使う明かりと

『ザシュ』

というものを切り裂く音が聞こえる。

 俺が最後に部屋に入り扉を閉める。


 部屋の中には、何と部屋の主は体長5メートルはあるかと思えるドルウダで、そいつが体から血を流して真達と闘っている。

 そのドルウダが大きな口を開けて真を一飲みする勢いで襲いかかる。

 真は体を捌いてドルウダの首に愛剣を振り落とす。


『ゴトッ』


という音とともにドルウダの首が床に落ちると部屋の主のドルウダが淡雪のように消えて体に合わせたのか少し大きめのドルウダの魔石が残った。


 部屋の主が消えると部屋の中央に宝箱が出現した。


 宝箱を開けるかどうか迷ったが開けて見た。・・・宝箱はフェイクで、宝箱自体が魔物だったり、中に割と強い魔物が隠れていたりする事もあるそうだ。

 宝箱の中身は、刃こぼれした銅の短剣が1本だけだった。

 所謂いわゆるハズレの宝箱だと思ったが、中に魔物がいる事もあるのだ有り難く頂いていく。


 この部屋の主の魔物を倒したのでこの部屋を出るまでは安全だそうだ。

 思い思いに部屋の中で休む。

 俺は愛刀の手入れと北海道の爺さんの愛用の猟銃の手入れを行う。

 ザルーダの爺さんは不思議な者を見るように見ている。


 魔法のリフレッシュで人体もだが武器類も元の状態に戻るのだという。

 俺は猟銃の薬莢を拾っているので、リフレッシュをかけて弾丸に戻そうとしたが、汚れが落ちただけだった。・・・う~ん!ずるは駄目か‼それでも火薬部分は再生したようだ!問題は弾だ。

 ひと眠りして食事をとった後、再度ダンジョンの探索を開始することにした。


 部屋の扉を開ける。

 通路には俺達が倒したドルウダの死骸や淡雪の様に消えたドルウダの後に残った魔石や宝箱があるはずだった・・・。

 残っていたのはドルウダの死骸だけだ、魔石や宝箱は無くなっていた。

 ザルーダの爺さん曰く、ダンジョンに吸収されたそうだ。

 ドルウダの死骸も時が経てばダンジョンに吸収されるそうだ。


 物を収容する魔法の袋を持ってきたが倒したドルウダの数が多すぎる、それにドルウダの死骸を入れておけるほどの収容能力は無い。

 解体して魔石だけでも手に入れようとしたらドルウダが襲ってきた。

 こいつらは殺すと淡雪の様に消えるドルウダで魔石や宝箱を残した。


 部屋に入って出てくる間に魔石や宝箱も消えていたのでしばらくするとダンジョンに吸収されて消えてしまう。

 それで残っている魔石や宝箱を魔法の袋に放り込んでいく。

 戦いとドルウダの解体して魔石を取り出したり、落ちている魔石と宝箱ゲットにいそがしい!

 ドルウダと戦っているうちにダンジョンの1層目が終わりそうだ。

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