第23話 結婚式⁉

 俺と真は魔法を使う為の器官の儀式を終えてエルフ族の隠れ里に戻ってきた。

 エルフの隠れ里に戻って来られたのは良いのだが、残雪と山の噴火活動によってこれから3ヶ月もの間、里から出られない状態になってしまったのだ。

 その間俺達は遊んでいたわけではない。


 魔法を使う為の器官の儀式を終えての問題点として俺は使える魔法の数が、真は魔力量が不足しているのだ。

 真は8番目のエルフ族の巫女としてエルフ族の隠れ里の中央の社に安置された緑の魔石に魔力を流しこみ魔力量の増加に勤めている。


 俺は魔法の使える数を増やすためにザルーダの爺さんの家で魔法大全を書き写させられているのだ。

 以前俺は一度魔法を使う素養として魔法大全を読んで勉強しているので、第一巻目の魔法の入門編である百科事典を書き写しているうちに難しく書いているだけだと分かってきた。

 ザルーダの爺さんに要約しては駄目かと聞くと、駄目だと言われた。・・・その意味は直ぐ分かった。直ぐでもないか、一冊の本を書き写すのに一週間ほどかかったのだから。


 ザルーダの爺さんが俺に

「書き写した本をもとの本と読み比べてみろ。」

と言われて読み比べ最後のページを読み終わると、俺が書き写した本が輝いて頭に飛び込んできたのだ。

 何と書き写した本の知識が入ってくる。・・・う~ん書き写した本は無くなってしまった。これも魔法世界の不思議なところか⁈


 その書き写した本の知識によって魔法が使えるようになり、さらには魔法を使える器官を押し広げて魔力量が増えたのだ。

 魔力量の増大と共に魔法を使える幅が広がった。・・・面白い!高校入試の時のように寝るのも惜しんでのめり込んだ。

 一冊、一冊と書き写していく速度が速くなり、その都度魔力量の増大と魔法の使える幅が広がるのを感じた。


 本を書き写している間にキラキラしたものが飛んでいるのが見えるようになった。

 目を酷使しすぎたのかもしれない?

 後でザルーダの爺さんに聞いたら驚かれた。

 キラキラしたものは妖精で、魔法を使う時に支援してくれるという。

 決して振り払ったりしないように注意された。

 

 本を書き写すのに飽いたら重い素振り用の木刀を振り、時にはエルフ族の隠れ里の中を駆け巡る。・・・これも高校受験の時と同じだ。

 そんな日々が続いた。

 魔法大全の最終巻を書いているとキラキラしたものが、小さな人型に羽が生えているのが見えた。

 纏わり付いて五月蠅かったが振り払っては駄目だと言われているのでじっと我慢した。


 最終巻を書き終わって読み比べているうちに、精霊魔法の項目があり、そのページごとにキラキラして見えていた小さな人型の妖精が立って偉そうにしている。

 その精霊魔法の主精霊の名前を呟くと偉そうにして立っていた妖精が俺の体の中に入ってきた。

 最終巻を読み比べ終わると同様に本も頭の中に入って来たのだ。


 ザルーダの爺さんにそのことを告げると普通の魔法よりも上位の精霊魔法まで使えるようになったと驚かれた。

 雪解けや噴火が終わるまでもう一度魔法大全を書き写すことを命じられたのだ。 

 今までは書き写した本は読み返すと頭に入って知識となって無くなるのだ。

 今回はいくら読み返しても無くならないので、書き写した魔法大全は俺の物になるそうだ。

 再度書き写しているとその項目ごとに担当の妖精が現れて詳しく説明までしてくれる。

 妖精が直接頭に語り掛けてくるので理解が早い。


 結界に降り積もっている雪の量もかなり減ってきた。

 ただ火山灰が水を含んでコンクリートのようになっている。・・・エルフの里の住人は手慣れたもので魔法で分解して塵のようにしている。最初は驚いたが今では慣れてしまった。

 山の噴火の煙も治まり地震の回数も減ってきた。

 その間に俺の魔法も使える幅が増えて自信がついた。


 俺と真が顔を合わせるのは一週間に一度、俺も手伝ってエルフの隠れ里の中央の社に安置された緑の魔石に魔力を流す時だけだ。

 その時は、真は一応巫女なので、俺も真も話しをしてはならないと言われている。

 最初の頃は真の腰に手を添えて魔力を注ぐと、やはり魔力暴走を起こして真も俺も社の床に二人で抱き合うように寝ころんでいた。

 それが、一月経ち、二月経つと魔力暴走が起こらず、魔力の調整が出来るようになってきた。・・・魔力暴走が起きなくなると抱き合って寝られなくなったので何か寂しい!


 そんな日々がとうとう三月も経つと、火山の噴火活動も納まって、いつもより遅い雪融けが始まった。

 俺も魔法大全の全12巻の二度目を書き写し終わった。

 今日は俺と真が、週に一度エルフの隠れ里の社に安置された緑の魔石に魔力を注ぐ日だ。


 ついでにザルーダの爺さんから俺が魔法大全の二度の書写を終えたことと、真がおよそ三ヶ月以上の間、エルフ族の第8の巫女として活躍した、この魔法の授業の最終日で卒業の儀式を行うと言われた。

 俺は卒業の儀式だからと前世の三月三日雛祭りのお内裏様の男雛のような服装にさせられた。

 頭にはえいと言われる黒い帽子のようなものに、手にはしゃくまで持たされた。・・・纓はそれも立纓りゅうえいと呼ばれる親王様の服装だ!いくらなんでも恐れ多いだろう。

 そんな服装をした俺が緑の魔石が安置された社に入ると、緑の魔石の前に二つの席が設けられている。

 俺が指定された席に緑の魔石に魔力を流すつもりで緑の魔石の方に向かって着くと反対の玄関向きに座れと言われた。


 しばらく待つと玄関から真が入ってきた。

 真から魔力が溢れているのか輝いて見える。

 真の少し上気して顔が薄っすらと赤い。

 真が俺に気付いたのか、いつも通りの口角を少し上げてニッと笑った。


 真の服装もお内裏様の女雛のような服装だ。

 頭には天冠と言われる黄金に輝く冠を被り、手には桧扇と言われる松や公白梅が描かれた扇を持っている。

 ただ腰にはシルバーソードと呼ばれる宝剣を下げているのが少しミスマッチだ。

 真は俺の左側、向かって右側の席に座った。

 本当にお内裏様だな!


 ザルーダの爺さんが神官のような服装になって、何やら祝詞のような物を読み上げる。・・・俺は真の女雛のような美しさに気を取られていて何を言っているのか分からなかった。

 ザルーダの爺さんの後ろには三人官女役の巫女が続いていた。

 中央の年嵩の女官から盃を受け取り、長柄銚子から酒を注がれる。


 三々九度の要領で酒を飲まされて、はたと気が付いた。・・・け、けっ、結婚式だ!俺と真の結婚式だった。

 ザルーガさんが左大臣の格好をして、右大臣にソルジャーがなっている。

 俺酒に酔って幻覚を見ているのか。

 エルフ族の隠れ里の住民全員に祝福されて、皆に担がれるように新居に俺と真は放り込まれた。


 酒に酔い、可愛い真に酔っている。・・・俺って思っている以上に酒に弱いようだ。

 目の前が暗転した。


 朝日と小鳥のさえずりで目を覚ました。

 ベットの中に素裸の俺と真がいた。・・・覚えていない!

 真が目を覚ました。


 真の少しつり上がった目がもっとつり上がった。

「もう!大変だったんだからね!

 酷い目に遭った!」

と怒っている。・・・俺覚えていないんだけど、あんな事やこんな事していたなら覚えていたかった。


「ねえ!聞いてるの淳一!

 家に入って抱き付くから、キスでもするのかと期待した私がバカだった!

 家に入るなり抱き付いてそのまま酒のせいで寝ちゃうんだもの。

 その後着替えの為に裸にするのも大変で、裸にしたのは良いけど着替えさせることもできなかったのよ!

 私が着替中に、淳一が酷そうにしていたので慌てて介抱しようとしたら、抱き付いて離れなかったのよ!

 残念だけど、その後は何も無かったわ!

 抱き付いたまま、安心したように淳一が寝ているので起こさなかっただけよ。」

と言って怒っていた。・・・ごめん!今からでも頑張るか!


 隣で裸で寝ている真を抱き寄せて、まだ口を開こうとするのでキスで口の蓋をした。

 初めてのキスは、魔法を使える器官の儀式の最終日、器官が出来た事の喜びの余りお互いに抱き合ってキスをした。・・・待てよ真が俺の事を「好きだ。」と聞いたことはあるが、俺が好きだとは一言も言っていない!不公平だな!


 俺は真の耳元で

「俺は真の事が好きだ。心から愛しているよ。」

と囁いたら、真が真赤な顔をして俺の体を手で押した。

「人の気配が家の周りじゅうにするは、楽しみは今晩ね!」

と言って普段着を着はじめた。

 そういえば気配がする。

 俺も慌てて普段着を着た。


 ザルーダの爺さんやザルーガ、ソルジャー、七人の巫女が我が家に入ってきた。

 ザルーダの爺さんが代表して、

「ご結婚おめでとうございます。」・・・おい、ザルーダの爺さんが仕掛けたんだろう!床入りの儀はしたが・・・はまだなんだが。


「実は事後承諾ですが、結婚の義式を行ったのには理由があります。 

 一つ目はマアシャルのように勇者様、真様を奪って世界の帝王になろうとする者が今後も現れる可能性があること。

 二つ目は隠していらっしゃるでしょうが、宝剣シルバーソードを既に手に入れていることです。・・・鞘が光っているのですよ。

 宝剣を手に入れたことにより、アマエリヤ帝国の皇帝の地位に就くことができるのです。

 猶更、勇者様を手に入れようとする者が出る可能性があります。

 勇者様と淳一が結婚する事は一種の保険のようなものです。」

等と言われたのだ。

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