第21話 試練

 俺と真はエルフ族の隠れ里の周り山脈、その中で一番高い山にある乳白色の泉に裸で浸かって七日七晩修行すると

『魔法を使う為の器官』

ができるという。

 その儀式を行う為にお遍路さんの様な白装束に身を包み、ザルーダの爺さんに連れられて結界の外に出た。・・・結界の外に出るのもこの魔法を使う為の器官が無い俺達では結界に弾かれて出られないのだ。

 春の初めで雪融けは進み始めたが、エルフの隠れ里が高山にあるため、まだ寒くて残雪も多い。


 ザルーダの爺さんがエルフ族の隠れ里を囲むようにそびえ立つ山脈の一番高い山を指差して

「あの山までいくのだ。

 山頂には乳白色の泉が湧き出している。

 そんな場所はそこ以外にないので行けば解る。

 儀式がうまくいけばエルフ族特有の耳と魔法を使う為の器官を得る事ができる。

 その器官が出来ればエルフ族の隠れ里の結界をお前達だけでも通ることができるようになる。

 残りの日数は13日で、それ以上は御山がお怒りになる。

 時間が無いので急いでいくのだぞ。」

と言われて、挨拶もそこそこに残雪の残る山を登る。


 残り13日だ。

 目的地の乳白色の泉までは3日程の行程だ。

 往復と修行の期間を考えればギリギリの日程だ。

 歩き始めて最初の日に真が履き慣れていない草履とカンジキで足に豆をつくってしまった。

 その日の夕食を焚火をしながら取っている時真が足を気にしているので気が付いた。

 真の足の治療をして見たがこれではとても歩けない。


 翌日残り12日目。

 肌を合わせてはいけないのは泉の中だけなので、泉に着くまで俺は足に豆をつくった真を背負って行く事にした。

 必要な物は魔法の袋に入れて、最初は背負られるのを嫌がっていた真を無理やり背負う。

 俺は獣のように真を背負って風のように峠の雪道を駆け抜ける。


 そう言えば、北海道の祖父の家の温泉でエゾヒグマに襲われた裸の従姉の百合さんを背中に担いで家まで走ったことがある。・・・その時は怒られたが、今は真に「ごめんね、ごめんなさい。」

と謝られている。


 しかし背負った真の息が俺の首筋にかかる。・・・甘い何とも言えない吐息が俺のうなじをくすぐるのだ。

 もう無心になるために足に力が入って峠の雪道を駆け登ってしまったのだ。

 予定の宿泊地点をだいぶ過ぎてから野宿することにした。


 夕闇が迫るなか食後のお茶を飲みながら山の頂から景色を堪能する。

 やはり真に意識を持って行かれまい、滑落しまいと思って足元を見て景色まで見る余裕がなかった。

 山々が連なりはるか遠くに俺達が脱出したアマエリヤ帝国の帝都の城が見える。

 その手前にも小さくポツンと城が見えた。

 この城の城主が俺達が倒した皇弟サイクーンの居城だったそうだ。

 今では皇弟サイクーンの長男が治めているそうだ。

 本来エルフの隠れ里はこのサイクーン公国の一部になるそうだ。

 山並みが黒々としてきて、その二つの城に明かりが灯る、幻想的な風景だった。


 残り11日目。

 俺は今日も真を背負って走る。

 真の胸のふくらみが背に当たり、真の息がうなじにあたる。

 真の大腿を持つ手に力が入る。

 むらむらするが走ることに意識を集中する。

 遂に山脈の一番高い山の山頂にある乳白色の泉に着いた。


 この付近だけ雪が無くて暖かい、ここが修行の場だ。

 活火山で乳白色の泉から湯煙が上がっている。

 泉と言うより温泉だ。

 泉の底には乳白色の土が堆積されている。

 時々温泉の湯が沸きあがり透明な水が乳白色に少し濁ることから乳白色の泉と呼ばれているのだ。

 翌朝からここで修行を開始する。


 残り10日の朝、修行初日

 暗いうちから起きだして朝食の準備をする。

 この朝食を食べた後は七日七晩食事が出来ない。

 そう思うと保存の携行食も美味しく感じる。


 朝日が昇ってきた。

 その朝日に修行の成功を祈る。

 これから10日後には山が怒るということは、火山が活動を初めて温泉に浸かっていられなくなるのだろう。

 俺は泉の側の岩の上に衣装を脱いで折り畳み、その上に魔法の袋を乗せて少し乳白色に濁った泉に素っ裸になって入る。

 少しぬるいぐらいで、俺が入ると乳白色の堆積した土が舞い上がる。


 真がまだ衣装も脱がないで、真赤になってモジモジしている。・・・可愛い!

 いかん!修行がもう始まったのだ!

 心を無にして自分を見つめる。

 無理だどうしよう。・・・法華経の経典をもらっている、それに親父の実家は日蓮宗だ。

 お題目の

「南無妙法蓮華経・・・」

と低く唱える。


 俺のお題目を聞いて心が決まったのか、真も衣装を脱いで近くの岩に折り畳み一糸纏いっしまとわぬ姿で泉に入ってきた。

 スタイルのよい真に目を奪われた。

 初日からこれでは身がもたん!

 必死にお題目を唱える。・・・しかし何で法華経なのだろうか?武田家は臨済宗で禅宗だから般若心経では?俺の親父の檀家は日蓮宗なのでまあ良いか!日蓮宗は輪廻転生も解いている。召喚の儀式も一種の輪廻転生なのかな?・・・何でもいいそんなことを考えて真の事から意識を外す。


 残り9日目の朝、修行2日目だ。


 眠い、空腹を感じる。

 喉がとても渇く、乳白色に濁った泉の水を飲む。・・・甘露甘露生き返った!それに空腹感が吹き飛んだ。

 それでも眠い!

 法華経をどこまで読んだか分からない。

 法華経の経典は長いが最初から読み返す。


 真も眠気と空腹そして喉の渇きで酷そうだ。

 乳白色の泉の中に顔が沈んだ。

 そのために乳白色に濁った泉の水を飲んだが驚いた顔をしている。

 空腹感は無くなった、食糧を渡されなかったわけだ。


 残り8日目、修行3日目。


 眠い!難行苦行が続く、喉が渇けば乳白色の泉の水を飲み、空腹を覚えれば乳白色の泉の水を飲めばよいのだが、眠い!眠い以上の問題が発生した。

『Nature call』

と大声で叫びそう、そう

「自然が私を呼んでいるのだ。トイレがしたい!」

 そう言えばザルーダの爺さんが修行の間は何があっても外にでてはいけないと言われている。


 泉の中で用を足せと言われたが、用を足したこの水を飲むのか!

 それに向かいの真もなんか苦しそうだ。

 泉の水を一口飲んでから用を足した。

 向かいの真も意を決して泉の水を飲んでから、何かホッとしている。

 それでも可愛いな!

 いかん煩悩が!


 残り7日目、修行4日目


 前日に引き続きと言う感じで、眠さに耐えている、用を足しても泉の水が飲めるようになった。

 しかし眠い寝落ちしそうだ。

 寝落ちすると向かいに座る真のように溺れる。

 ほんの少しの間ぐらいでも熟睡は駄目なのだ。

 熟睡すると泉の乳白色の土が沈んで、今の真のように溺れてしまう。・・・笑っていられない、俺も何度か溺れかけた。不思議な乳白色の土だ。


 残り6日目、修行5日目。


 修行は残り今日を入れて3日だ。

 それは、いきなりやってきた。

 身を焼き尽くすような熱気と、身を貫く様な性欲だ。・・・これか!


 向かいの真も熱気に冒されたのか顔が赤い、身を貫く様な性欲で体をくねらせている。

 真の熱気に冒された顔に色気を覚え、性欲に耐えてくねらせる体にエロチシズムを感じる。・・・これで眠気は吹き込んだが下半身が異常にうずく。


 いかん!いかん!

 必死に法華経の題目を唱える。

 真も唱和する。


 残り5日目、修行6日目。


 俺も真も目が得物を見るように爛々と輝く。

 真が欲しい!

 真の体に武者振り付きたい!

 思うさま真の体を味わいたい!

 唱える法華経のお題目がそんな欲望の声に変わって聞こえる。


 苦悩と欲望がせめぎ合う。

 俺も真も立ち上がりかけるが、すぐ腰を下ろした。

 いかん!いかん!いかん!

 苦しい時間が過ぎる。


 残り4日目、修行7日目。


 この日の一晩を越えれば魔法を使える器官ができる。

 狂おしい程の性欲の高まりを感じる。

 俺の一物は怒張して、真を貫きたがっている。

 真も岩にしがみついて苦し気にあえいでいる。


『千丈の堤も蟻の一穴から』

という、ここで蟻の一穴ならぬ真の一穴に俺の怒張した一物を差し込めば、今までの苦労が千丈の堤のように崩れ去ってしまう。


 苦しみの中で俺も真も耐えながら夜を迎えた。

 夜闇の中で真が輝きはじめた。

 苦悶に体を捩る。

 俺の体も輝きはじめた。


 今までの欲望による苦しみではなく、体の細胞一つ一つが変化していくのを感じる。

 凄まじい痛みを感じる。・・・召喚された時の体をいろんな方向に引っ張られるような痛みの倍ほどの痛みだ。痛みで意識がもっていかれそうだ。

 真は岩にしがみついている。

 手を離すと泉の中に倒れそうだ。


 残り3日目、七日七晩の修行最終日

 苦しみが続くなか、朝日が昇ってきた。

 太陽が昇るにつれて痛みが和らいでいく。

 太陽の明かりとともに体が教えてくれた、どうやら魔法を使う為の器官が形成されたようだ。

 真も気が付いて自分の体を触っている。

 真が俺を見て、昔のように口角を上げてニッと笑った。

 エルフ族特有の耳の形になっていないが上手くいったようだ。


 二人で登る太陽に手を合わせて儀式の無事終了と魔法を使う為の器官の形成されたことに感謝して手を合わせた。

 そして何方どちらともなくお互いが歩み寄って、唇を奪うように吸い合った。


 二人で抱き合って唇を奪い合うように吸っていると少し乳白色の泉がボコボコ言い始めた。

 泉が俺達二人に焼いているのか?・・・そう言えば泉が熱くなってきた。

 やばいほど熱くなってきた。

 俺と真は慌てて泉からでる。

 泉から出るとボコボコがグツグツと煮たり始めた。

 俺と真の茹でタコならぬ、茹で人間が出来るところだった。

 泉の水が乳白色から赤黒く変わり始めた。


 俺は素裸の真を抱き上げて泉に出たところで寒風が吹いた。

 硫黄の匂いが急にきつくなった。・・・有毒な火山ガスが噴き出してきた。

 それのおかげで、体の熱も気持ちの熱も急に冷めた。

 山が怒るまでは、あと3日あるはずなのに泉が沸騰して地鳴りもし始めた。


 ここにいては危ない、俺は俺と真の分の白装束と魔法の袋を手に持つと素っ裸の真を抱えたまま駆け出した。

 素っ裸の美女を抱えて走るのはヒグマに出会って北海道の従姉で百合さんを抱えて逃げた以来だ。

 そこも温泉だった。どこかデジャヴュを感じる。

 有毒な火山ガスのこない所で白装束を着て、小さな地震の振動に追い立てられようにしてまたエルフの里を目指して真を抱いて走り始めた。

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