第11話 召喚された前勇者武田信虎

 アマエリヤ帝国が俺達を召喚した国だ。

 その帝都の王城から召喚の儀をとり行ったザルーダの爺さんと逃げ出して、エルフの隠れ里にある爺さんのキノコの家にやっとの思いでたどり着いた。

 そのキノコの家の地下室でザルーダの爺さんが話し始めた。


 世界は多元宇宙と言われるだけにいろんな世界があり、並行している世界もあれば、お互いが波のように干渉しあう世界、そうこの世界と俺と真が住んでいる世界とが5百年に一度の割合で通過し干渉する世界もあるそうだ。

 通常は何事も無く通過するのだが、この世界の魔法に精通した人がある一定の条件を付与した魔法の網を広げたところ召喚することが出来るようになった。

 しかし今回の魔法の網にかかった魚が俺達だったようだ。

 それで、令和の今からおよそ5百年ほど前、1521年に召喚の儀式で呼び出されたのは甲斐の守護武田信虎だった。


 足利尊氏が1336年に建武式目の制定を持って室町幕府が起こり、さしもの室町幕府も今から5百年前1520年前後には群雄割拠して戦国の動乱期に突入しようとしていた。 

 永禄3年(1560年)桶狭間の戦いで大軍の今川義元を寡兵の織田信長が打ち破ったのが有名だが、それよりも39年も前の1521年今川氏輝が家臣福島正成に命じて甲斐の国へ1万5千人の大軍で侵攻させた。

 それを迎え撃ったのが戦国武将で誉れも高い武田信玄の父武田信虎、当時は28歳だった。

 彼の配下は僅かに2千人、それだけの少人数で敵を撃退し、敵将福島正成の首まであげたのだ。


 彼が意気揚々と帰城しようとしたところで召喚されたのだ。

 武田軍の勝ち戦が大混乱に陥った。

 直ぐに血縁の者で容姿の似た者が影武者に仕立てられた。

 当然影武者の正体を配下の者は知っている。

 暴き立てようとした配下の者を殺した。

 その後は名将が残虐非道な支配者となったのはこんなからくりがあったのだ。


 遂には1541年、武田信虎48歳の年に武田信玄の手で影武者は甲斐の国を放逐された。・・・影武者を亡き者としようとした武田信玄の手を逃れるために自ら逃げ出したのが真相らしい。

 影武者は1574年、天正2年81歳まで生きていた。


 召喚された方の武田信虎は流石は名将、乱れた国家を平定して魔王城に赴き魔王をエルフ族やドワーフ族と共に封印した。

 武田信虎は帝王としてこの世界に君臨したのだった。

 亡くなる前に彼は4人の息子に帝国を分割して分け与えた。


 その四か国には、アマエリヤ帝国の正当な王位継承者しか持つことのできない宝剣シルバーソード(日本刀)・兜・鎧・軍配の四つの宝が分け与えられていた。

 5百年も経つと、その四つの宝が失われているのだ。

 この分割された四つの国に与えられた四つの宝を探し出して集めて、復活する魔王を倒して欲しいと言うのだ。


 俺はそんな話を真剣に横で聞いていた真の顔を思い出しながらザルーダの小屋の狭いベットで寝ていたがとても寝ていられない。

 寝返り一つできない狭いベットのせいもある。

 俺は狭いベットを抜け出して馬小屋の藁で寝ることにした。


 星空が見えるような馬小屋の藁の中で考えた、ザルーダの爺さんが説明していた俺や武田真が召喚についてだ。

 召喚魔法はあっても現在送り返す魔法が無い。

 それに送り返す魔法があっても5百年に一度の条件がネックになっている。


 それに召喚の条件から、どうも血筋的に武田真は武田信虎、武田信玄の末裔・・・(確かに前世の県の武道館の先生方もそんな話をしていた。)で武田家のお姫様だった。

 魔法の網の召喚の条件が武田家の血縁の者で、できるだけ大男で力がある者だそうだ。

 武田家の末裔の真を俺が抱いて飛び退った時条件が重なり合って召喚されたらしいのだ。・・・俺は巻き込まれたようなのだ。


 一人の人間を召喚しようとしていたザルーダには、二人の人間を召喚するのは大変だったのだろう、それで召喚の儀式の間で魔力切れを起こしてひっくり返っていたのだ。

 真と共にこの世界で四つの宝を集めて魔王を倒すしかないのか?

 真の顔を浮かべたら下半身がもぞもぞする。

 いかん無理に眠った。


 何時の間に眠っていたのか馬小屋の星空の見える天井から朝日がさしてきて起こされた。

 馬小屋の馬はそれなりに大きいが、この世界の住人の大きさに合わせたような大きさで、俺が知っている前世のポニーよりも少し大きいくらいの馬だ。

 俺の乗っていた馬はそれよりさらに大きいアラブ種のような馬で、檻を引いていた馬は北海道のばんえい競馬に出場しそうなでかい馬だ。


 馬もある程度大きくなると魔獣にもなるそうだ。

 アラブ種のような馬は鹿児島で良く乗り回したし、ばんえい競馬は亡くなった北海道の祖父とよく見に行った。・・・祖父は博才(博打の才能)が無かったのか帰りは渋い顔(いつも渋い顔だが一緒に暮らしているうちに差が分かるようになった。)をしていた。たまに勝った時は祖母に土産を買っていた。


 朝起きだすと馬小屋を掃除して、馬達に餌をやりブラッシングしている時に真が顔を出した。

 朝食だと俺を呼びに来たのだが、真は俺の横で黙って同じようにブラッシングを始めた。

 真に声を掛けたいのだが、昨夜のことがあって顔を見られない、顔を見たら俺の顔が真赤な熟れたトマトになりそうだ。・・・北海道の祖父の時は自然児で野山を駆け巡り、鹿児島の時は高校入学で勉強や図書館に籠っていたので、同いおないどしのこんな美少女と話をした事がない。

 馬の足音といななき、そして二人のブラッシングの音だけが馬小屋に響いた。

 あまり遅いのでアリアナが呼びに来た。


 アリアナが呆れていた。

 彼女は身長120センチで見た目は小学校2年生ほどに幼く見えるが、長命で平均寿命が300歳のエルフ族なので実年齢は俺達より上の24歳だ。・・・人類の1年の成長はエルフ族では3年かかるのだ。俺達16歳と同年に見えるエルフ族は50歳近いのだ。・・・それを聞いたら怖くなった。

 80歳位に見えるザルーダは240歳なのだ。・・・本当に化け物だ。

 俺は基本年長者を敬う体育会系の考え方なのだが、見た目小学校2年生のアリアナを年長者と敬えない。・・・それでも年上だと思って敬うか。

 アリアナの後ろからついて歩く、年上として敬ってる?

 豆類ばかりの朝食だった。

 狩りをして肉類が食べたい。

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