12th 最後の別れといきますか

ぼくたちはタクシーに戻り、運転手さんに用を済ませたことを告げた。

それは良かった、外は冷えますからね、早くお帰りになる方が良い、と運転手さんは微笑んだ。

ネットで予約したホテルの名を告げると、タクシーは走り出した。


「見つからなかったですね」


水田さんは少ししょんぼりしている。

無理もない。結局、ぼくたちは、弾丸で北海道までやってきて、ミュージックビデオのロケ地巡りをしただけだ。


「あとはどうやって輪廻を探せばいいのか……」


思わずこぼした水田さんの言葉に、思わぬところから声が入った。


「お客さん、輪廻っていうのは人の名前ですかね?」運転手さんが言った。


「そうです。わたしたち、真駒輪廻っていうアーティストのファンなんですよ。それで、ロケ地めぐりみたいなことをしていて。彼本人もいまこの真駒内にいるんじゃないかとわたしたちは考えているんですけど」水田さんは答えた。


「そうでしたか。申し訳ないけど、わたしはその方のことは知らなくて」そういって運転手さんはハンドルを切る。「でも、わたしにとっては、少し印象深い名前だなあと思って」


「どうしてですか?」


「札幌っていうのはね、実は、彫刻の街なんですよ。街中いろんなところに野外彫刻がたくさんあってね、真駒内公園周辺もいくつか彫刻があります。彫刻巡りをなさる旅行の方をお乗せすることも結構あります。そんななかでね、気に入っている彫刻がひとつありまして」


「気に入っている彫刻――?」


「お客さんをお乗せした後、わたしが戻ってくるのがだいたい真駒内駅のロータリーです。次のお客さんをお乗せするまで、『ひとやすみ』するんです。そのロータリー、駅正面に石の台座に乗った円形の彫刻作品があります」


そういえば、来る途中にぼくたちも目にしていた。

あの彫刻のことか。


「あの彫刻の名前は――『ひとやすみする輪廻』というんです。偶然でしょうけれど、お名前に縁があるでしょう? 真駒輪廻さんのファンの方というのであれば、ロケ地巡りついでにご覧になっていくのもよろしいんじゃありませんか」


思わず、ぼくと水田さんは顔を見合わせた。


「運転手さん、よかったらその彫刻のところまで向かってもらっていいですか?」

「ええ、お安い御用です」


ぼくは、なんとなく、これが正解だという気がした。

そして、その予感は間違っていなかった。


彫刻の前にたどり着き、ぼくたちはタクシーをおろしてもらった。水田さんがアプリをチェックすると、位置情報に反応してポップアップの通知が表示された。


――ダウンロードできるビデオが1件あります。保存しますか?


それは、5分ほどの映像ファイルだった。

ぼくたちは、その映像をすぐさま視聴した。


その映像には、真駒輪廻が自殺する瞬間の映像がおさめられていた。

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