第12話 ラスベガスのケリー

 私は、1997年の正月にボストンのマサチューセッツ工科大学の大学院に留学しながら、寿司屋で週末にアルバイトをしている高校のクラスメートの吉本を訪ねた。彼は、二年前に某一部上場企業を辞めて渡米し、アメリカへ移住しようとしていた。


 久々に会った吉本は、生き生きとしていた。やはり、アメリカに単身乗り込んで頑張っているやつは意気込みが違う。私は、アメリカの永住権の取得のために、寿司職人の仕事ができないかと考えていた。


 到着した日、私は彼のアパートに荷物を置かせてもらい、吉本の働くDOUMO SUSHIに連れて行ってもらいご馳走になった。彼の家に戻って、ボストンの寿司職人事情について聞いたが、残念なことに供給過多というだった。また、料理が好きでなければならないと言われた。


 吉本には、お前はシンクタンクで働いていたのだから、その線で仕事を探したらどうかとアドバイスを受けたが、腰の問題もあるし、あんな忙しくて煩雑な仕事は、金輪際やりたくないと答えた。


 翌日、私はバークリー音楽大学を見学した後、プラネタリウムに行った。列を作って待っていたのだが、ふと後ろが気になった。振り向いてみると20代前半の可愛い白人の女の子が立っていた。私は、軽躁だったので、気安く女の子に声をかけるなど何でもない。


 私のニックネームは、カックンで日本人であると言って、彼女の名前を聞いた。彼女は、ケリーだと答えた。今度は、彼女が何の仕事をしているのかと聞いてきたので、日本でシンクタンクの仕事をしていると答えた。


 そして、私は、近い将来日本での仕事は辞めて、アメリカにきて仕事をしようと考えていると言うと、どこで何の仕事をするのかと、また聞かれた。それについては、まったく未定なんだと答えると、今、ラスベガスのまちが急成長していて、彼女は当地で看護士になるための勉強をしていると言う。


 そして、あなたも一度、ラスベガスを見に来ればとアドバイスをもらった。彼女は、親切な人で私の片言の英語を聞いて、ゆっくりと簡単な英語で話してくれた。私は、「ラスベガスには、ぜひ行ってみたい」と答えた。


 彼女の後ろには、もう一人、可愛いヒスパニック系の女の子がいて、私たちの会話を興味津々で聞いていた。彼女は、ケリーの友達で名前をジュリアと言い、デザインの勉強をしていた。私は、彼女たちに友人が働いている寿司屋に今晩行かないかと提案した。そして、おごるよと言うと彼女たちは本当に!?と言って喜んだ。


 カフェで二人とつたない英語で話して、夕方、彼女たちをDOUMO SUSHIに連れて行った。吉本は、私が女の子を二人を紹介すると驚いていた。お前、彼女たちとどこでどうやって、知り合ったんだと聞くので、プラネタリウムの列の後に彼女たちがいたんだよ、まあ、ナンパやと答えた。白人の方がケリーで、ヒスパニックがジュリアだと教えた。吉本は、お嬢さん方ご機嫌いかがですか?俺の事をヨッシーって呼んでね、と言った。


 ケリーは、スーパー上機嫌よと答えた。私は、吉本に明後日、ラスベガスに行くわと言った。すると、彼は、え?お前、ニューヨークから帰国するんじゃないの?と驚いた。私は、ま、詳しいことは、仕事の後に話すとだけ言って、ケリーとジュリアにテーブルに運ばれてきた熱燗の日本酒をおちょこに注いで乾杯した。


 私は、彼女たちにいつラスベガスに帰るのかとたずねた。すると、明日、ニューヨークまでアムトラック鉄道で行って、飛行機で帰ると言う。私は、明後日、ラスベガスに行こうと思うけど、また会えるかなとケリーに聞いた。答えはオッケーだった。そして、お寿司のお返しにケリーの日本人の友人で、大学で経営学を学んでいるジョニー高橋君に連絡してあげるとケリーは言った。

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