第28話 クラスメイトのエッチな服装を期待してウキウキで出向いたら、そこで待っていたのは幼馴染だった件について

「で、これはどういうことかしら?」

「それは俺のセリフだ」


 日曜日、おなじみの駅前。

 クラスメイトのエッチな服装を期待してウキウキで出向いたら、そこで待っていたのは幼馴染でした。

 なんだこのラノベのタイトルみたいな状況。


「私は玲愛に誘われてここに来たのだけれど」

「俺も同じくだけど」


 その時、全く同じタイミングで互いのスマホが震えた。


【安里玲愛】

 ごめんなさい、急に体調を崩してしまって……。申し訳ないんですけど、代わりにお二人で遊んできてください! チケットは清美さんに渡してありますので!


「はあ……。なるほど。められた、というわけね」

「……どういうことだ?」

「ああ、違うのよ征一君、そんなに興奮しないで。今の嵌められた、というのは決して厭らしい意味で言ったのではないのよ」

「んなこと分かっとるわ! お前は俺が万年発情してるとでも思ってんのか」

「おかしなこと言うのね。動物の中でも、人は特定の発情期がない珍しい生き物なのよ。時期を問わず年がら年中交尾できるのだから、いわば万年発情期の生物と言っても過言ではないわ。ウサギと同じで性欲旺盛なのね、征一君」

「俺だけに語り掛けるな。その理屈なら全人類に言え」


 後、お前のそのエロに対する造詣ぞうけいの深さはなんなんだよ。

 エロ博士でも目指してんのか。


「それで、嵌められたってのは一体どういうことだよ」

「……」

「どうした」

「いえ、人の口から嵌めるだの嵌めないだのの単語を聞くと、やっぱりちょっといやらしいなと思って」

「俺と話すときだけでいいからその話題から離れてくんない? 一人で考える分には止めないから」


 閑話休題。


「つまりね、征一君。玲愛はもともと、私たち二人を引き合わせることが目的だったということよ」

「今日ドタキャンするところまでが、あいつのプランだったってことか?」

「そうよ。じゃないと完全にダブルブッキングじゃない。あなた、今日はどこに行く約束をしていたの?」

「いや、特には決めてなかったな。その辺をぶらぶら散策するって感じで」


 玲愛が買った、どエロい服を見せてもらう予定でした。


「まあ大方、エッチな誘惑にほいほい乗せられてきたんでしょうけど」

「なんで分かったの!?」

「あなたが貴重な休日をわざわざ誰かのために割くなんて、それくらいしか考えられないもの」

「わ、分かんないだろそんなの。一応俺、玲愛に告白されてるんだし……」


 ここで引き下がるのは何となく男としての沽券こけんにかかわる気がして、思わず反論する。


「ふうん……。じゃあ普通にデートに誘われても、ここに来ていたのかしら?」

「それは……来てない、けど……」

「ほらみなさい」

「なんでお前が勝ち誇った顔するんだよ」

「してないわよ、勝手なこと言わないでちょうだい」


 いや、してるって! すっげえ嬉しそうな顔してたじゃん、今!

 ちくしょう、鏡があったら突き付けてやりたいくらいだぜ。


「ともかく、玲愛の狙いがなんだったかは、この美術館に行けば分かるんでしょうね。まったく、玲愛から誘ってくれたからちょっと嬉しかったのに……。今度会ったら文句を言ってやらないと」

「すっかり仲良しだな、お前ら」

「まあね。一度心を開くとちょろいのよ、私は」

「自慢げに言うことか?」


 とはいえ、あれだけつんけんしていた二人が仲良くしているのは喜ばしい。

 俺が骨身と時間を削って奉仕した甲斐があったというものだ。


「さ、行くわよ征一君」

「行くのか? ここで解散でもいいと思うけど」

「何言ってるのよ」


 人差し指と中指で挟んだチケットを振りながら、清美は言った。


「この美術館のチケット、日にち指定制で結構高いんだから。無駄にしちゃったら勿体ないでしょ?」

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