第40話

 いつものお昼休み、僕は上原さん、相沢さん、千尋の四人で歓談しながら昼食をとっていた。


「遠山くん、私も一緒にお昼していい?」


 話し掛けてきたのはクラスメイトの石山沙織いしやまさおりさんだ。髪の毛はロングで顔立ちはキリッとしていて、背が高めの美人系の女子で以前、中村さんと話しているのを見掛けたような気がする。


 突然のことだったので僕は少し驚き返事をするまで間が空いてしまった。


「うん、もちろん構わないよ。みんなも別にいいよね?」


 他のみんなに確認をするが特に反対されることも無かった。


「石山さんどうぞ」


「あ、遠山くん私の名前知っててくれたんだ? 嬉しい」


 普段、話をしたことも無かったし石山さんがそう思うのは仕方がないだろう。


「もちろん僕はクラスの全員の名前はちゃんと覚えてるよ」


 図書委員で他の学年やクラスの生徒と接することが多い僕は自分のクラスの生徒の名前くらいは全て覚えている。


「遠山くんは前まであんまりクラスの人と関わらないから、他の人はどうでもよいのかと思ってた」


 そう言われると恥ずかしい話だけど、以前は本当にどうでもいいと思っていたのは確かだ。でも、それが原因で僕は誹謗中傷に上原さんを巻き込んでしまった。


 集団の中で一人浮いた存在は周りから見れば異端なのだ。結局のところ地味にしていようが黙っていようが目立つのだ。


 だから今は一人一人の関わりは大事にしていこうと思っている。


 もちろん倉島や谷口のように明らかに悪意を持つ人間には、僕も関わるつもりは無いが。


「確かに前はそう思ってたけど、今はそんなことはなくてみんなと仲良くしたいと思ってる。ここにいる上原さんや相沢さん、千尋のお陰でそう思えるようになったかな」


「私が最初の頃に話し掛けてた時は本当に関わるのを避けてたでしょ。すごい塩対応だったもん。ね? 遠山」


 それを言われると申し訳ないと思う。上原さんと話すようになった最初の頃は目立ちたくないから避けていたことは間違いなかった。


「あれは今思うと申し訳ないと思ってるよ。上原さんごめん」


「ううん、別に気にしてないから」


 上原さんがそう言ってくれて僕は助かる。


「でも、本当に佑希は変わったよね。これも上原さんの献身的な気持ちで接したお陰かな?」


 千尋のいう通り、僕は上原さんと関わるようになってから変わってきたと思う。高井の時もそうだけど、相手に塩対応されても上原さんは諦めずに声を掛けてきてくれる。そのお陰で高井も心を開いたんだろう。


「もう、沖田くん、石山さんの前で恥ずかしいじゃない」


 上原さんは変に褒められて恥ずかしそうだ。


「なんかここのみんなは楽しそうで羨ましい」


 僕たちのやりとりを見て石山さんは呟いた。


「そういえば石山さんはどうして今日ぼくたちのところに?」


 僕を含め他のみんなも疑問に思っているであろうことを千尋が質問をした。


「うーん、そうだね……いつも楽しそうにしてて羨ましいなぁって思って。沖田くんや上原さん、相沢さんと仲良くしたかったし。もちろん遠山くんもね」


 そう言って彼女は僕を上目遣いで僕を見つめてくる。


 彼女のその瞳は僕に好奇心を抱いているような、値踏みをしているようなそんな少し不快な感じを受けた。


「そういえば高井さんはみんなと一緒にお昼を食べないの? いつも一人のようだけど?」


 高井が僕たちと仲良くしているのを知っているらしく不思議そうに尋ねてきた。


「高井さんは読書がしたいからって、昼休みはずっと一人なんだよ」


 図書室での上原さんに対する高井の塩対応の時から話し掛けている彼女は、高井のことを最近はよく理解している。


「そうなんだね」


 教室の隅で一人読書をしている高井に送った石山さんの視線は、ただのクラスメイトに送るそれでは無かった。


 石山さんが来てから相沢さんが僕たちの会話に一切参加していないことが気になった。石山さんと相沢さんは仲が悪いのだろうか?



◇ ◇ ◇



 昼食を一緒に食べて以降、昼休みに石山さんが僕たちと一緒に食べることはなかった。そのかわり彼女は放課後の図書室に来るようになった。


 僕と少し会話をして本を読んだりして帰っていく。

 石山さんは上原さんとは少し図書室で話はするが、高井と関わることは一切なく、相沢さんに至っては全く話そうとしないのだ。


 僕たちと石山さんとはどこかうまく噛み合ってないような気がする。



「遠山、今日みんな一緒に帰らない?」


 放課後、僕が帰り支度をしていると珍しく相沢さんから一緒に帰ろうと誘ってきた。


「あれ? 相沢さんからの誘いなんて珍しいね」


「ちょっと気になることがあってさ。どこか落ち着けるところで話したいと思って」


「分かった。千尋は大丈夫?」


「僕は大丈夫だよ」


「麻里花と柚実には私から声を掛けておいたから」


 相沢さんは全員集めて何かを伝えたいらしい。そういった焦りみたいな何かを感じる。


「二人とも帰り支度は終わった? 行くよ」


 相沢さんに促され僕と千尋が立ち上がり教室の出口に向かっていくと、上原さんと高井も席を立ち合流して、そのまま教室の外に出た。


「遠山くん! みんな揃ってどこに行くの? 私も行っていい?」


 教室を出てすぐ、僕たちは教室に入ろうとしていた石山さんと鉢合わせした。


「石山さん、悪いけど私たちだけで話したいことがあるからゴメンね」


 相沢さんは有無を言わさず石山さんのお願いを断った。


 相沢さんは石山さんに対して普段無関心だが今日は珍しく感情的な気がした。


「それじゃみんな行こう」


 先頭の相沢さんの合図で美少女三人に千尋と僕は歩き出した。


「石山さんゴメンね」


 ひとり立ち尽くす石山さんに僕はひと言だけ謝り、相沢さんたちの後を追った。

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