第27話
高井柚実視点です。
放課後、私はいつも図書室で本を読んでいる。
図書室のカウンターにはクラスメイトで図書委員の
佑希とそういう関係になった経緯は特に何かがあった訳ではない。彼は物静かで前髪を伸ばしてわざと顔を隠し、自ら閉じこもっているような感じだった。
――私と同じだ
佑希は私と同じ匂いがした。
本が好きという同じ趣味で本の貸し借りの時に少し話をするようになった。私たちの関係はただそれだけだった。
佑希と話していてすぐに分かったことがある。彼は何かを諦めたようなそんな目をしていた。
「佑希、私とセックスしない?」
最初のセックスは私から誘った。本を貸すからと佑希を家に呼んで私の部屋でした。
私が中学生の頃に父と母は離婚し父は出て行った。
母が生計を立てているがほとんど家には帰ってこない。姉もいるが一人暮らしの彼氏の家に半同棲状態だ。
だから私しかいない家でセックスするには何の問題なかった。
佑希も私もお互い初めてだった。彼と私の身体の相性はとても良かったのかもしれない。彼は見た目に似合わずとてもタフで、いつも私は何回もイカされてしまう。
たとえ身体だけでも佑希が私を必要としているなら、私には存在価値がある。だから佑希に求められれば私は喜んで身体を差し出そう。
◇ ◇ ◇
ある日を境にクラスメイトの上原さんが図書室にいる私に話し掛けてくるようになった。
上原さんはスタイルが良くて可愛い女子でクラスの人気者だ。私のような日陰で目立たない人間と正反対で
図書室で佑希と話している上原さんは楽しそうだった。彼女が佑希に好意を抱いているのは女の勘というやつだろうか、すぐに分かった。
そんな二人の姿を見て私はなぜか不安な気持ちになった。いつか佑希が私を必要としなくなるのではないかと。佑希が身体を求めてくれているから私に存在価値がある。
『今日はセックスしましょう。学校が終わったら家に来て』
私はスマホを取り出しメッセージを打ち込んだ。上原さんと楽しそうに話している佑希に向けてわざと今のタイミングで送った。
動物がマーキングをするような行為であったことは自覚している。
メッセージを見た佑希の慌てている姿を視界の端で捉えた。彼は一度も私の誘いを断ったことが無い。これで彼は今日も私を求め家にやってくる。これこそ私が私でいられる時間。
佑希にメッセージを送って家に帰ってみれば珍しく母がいた。いつもは男のところに入り浸っていていないはずなのに、今日はタイミングが悪い。
自室でどうしようか悩んでいると母がドアをノックし部屋に入ってきた。
「
私に興味が無い母はそうひと言だけ告げて部屋を出ていった。私は母からも必要とされていない。
私な孤独だった、毎日誰もいない家に一人で本を読んでいた。
私は階段を降りリビングのソファーに座り佑希が来るのを待つ。
「なあ、母親がいるとは聞いてないよ」
佑希はリビングに入ってくるなり不満そうに呟いた。母と顔を合わせてバツが悪かったのだろう。
「あの人は子供さえ作らなきゃ何してもいいって思ってるから」
でも、自分の娘に男がいようとあの人は何とも思っていないから気にするだけ無駄だ。
私が私でいられるのは佑希、あなたが私を求めてくれている時だけなの。だから早く私を抱いて欲しい。
私は佑希を誘惑するように腕を組み胸を押し付ける。ふと、上原さんが思い浮かんだ。私は彼女のように魅力的な身体をしていない。
だから、私は佑希に満足して貰えるように一生懸命奉仕をした。
「シャワー浴びてないし汚いよ」
佑希はそう言ったが私は気にすることなく彼を求めた。
佑希と繋がっている時だけが私の中の足りない何かが埋まり、自分自身の存在意義を見出すことができる。
「なあ、今日は一体どうしたんだ? 朝から変だよ。もしかして上原さんが関係してる?」
いつも以上に感じてしまい、乱れた私を見て佑希はこんなことを言ってきた。
上原さんは眩し過ぎて私と比べるのも
「……私たちはセックスするだけの関係。そんな感情は――持っていない」
そう……私はあなたが求めたら応じるだけの都合のいい女……だけど……私はそう言い切れずに言葉に詰まらせた。
最近は私から佑希を求めることが多くなった。
今日も佑希が上原さんと図書室で楽しそうに話しているのを見て不安になってしまい、私から上原さんが近くにいるにも関わらず彼に“セックスしよう“と直接言葉で伝えた。
なんだろうこの背徳感は。この後ろめたい気持ちの正体が何なのか私は理解できずにいた。
「あの子なんで私に構ってくるの?」
佑希との情事の後、ベッドで横になり休んでいる時に私は上原さんのことを聞いてみた。
『クラスメイトなんだし仲良くしたいじゃない』
上原さんはそう言っていたそうだ。
彼女は偏見も無くて真っ直ぐで素直な良い子だと佑希が言っていた。私に接する彼女には邪気が無い。本当にその通りだと思う。
上原さんが私と仲良くしたい理由なんて特にないのだろう。相手に悪意がなければ彼女は誰とでも仲良くしたいと思っているに違いない。
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