第15話
「上原さんは何飲む? 奢るよ」
教室を出た僕たちは廊下の突き当たりにある自販機の前に来ていた。
「ええ、悪いよ。それくらい自分で払うよ」
「僕が誘ったんだから払うよ」
上原さんは口を閉じ一瞬考える素振りを見せたがすぐに口を開いた。
「そっか、それじゃあ……ミルクココアで」
僕は飲み物を購入し上原さんに渡した。
「ごちそうさま。なんか遠山って女慣れしてるよね。僕が誘ったんだからとか恥ずかしげもなく堂々と言えるとか」
「それくらい普通だと思うけど……?」
「そうでもないよ。私の前に来るとモジモジして何言ってるか分からない男子と結構いるし」
「まあ、その男子の気持ちも分からないでもないけどね」
「どういうこと?」
「その男子生徒にとって上原さんは高嶺の花と思い込んでるから、いざ目の前にすると緊張しちゃうんだよ」
「ええ? 私は別にアイドルじゃないし普通の女子だよ」
上原さんは自分の魅力に気付いていないようだ。その辺の有象無象の男子にしてみれば彼女にしたくても手の届かない存在だ。
倉島のバカはなまじモテるので自信過剰になり、そういう感情は持ち合わせていないだろう。全ての女子が俺に惚れているとか思ってそうだ。
「上原さんは自分でそう思ってるかもしれないけど、周りはそう思ってないってことだよ」
「うーん……そういうもの?」
上原さんはいまいちピンとこないようだ。
「上原さんは美人で可愛いし性格も文句なしに良いよ。クラスでは彼女にしたいナンバーワンだよ」
「え? え? と、遠山……そ、そんなに褒められると私どうしていいか……」
いきなり僕に褒めちぎられて動揺する上原さん。こういう自信過剰じゃなく素朴なところもまた彼女の魅力なんだろう。
「と、遠山も……その……か、彼女にしたいと思ってる、の? なーんて……」
あれ? 変なところで誤解させちゃったかな? 上原さんは頬を赤く染め上目遣いで僕に聞いてくる。
「あ、いや一般的にそうだなって話で僕の話ってわけじゃないからね」
「そ、そういうことね……」
上原さんは残念そうにガックリと肩を落とした。
「そ、それで上原さんの魅力についてなんだけどさ」
「ま、まだこの話は続くの? 私、恥ずかしんだけど……」
持ち上げられ過ぎて本人は困惑気味だ。でもこの話は今の誹謗中傷にも繋がる話だから避けることはできない。
「これからが本題なんだけど、上原さんは僕と変な噂になってることにはもう気付いてるよね?」
誤魔化しても仕方がないので僕は話の核心から話し始める。
「うん……昨日の夜に美香からメッセージで教えてもらったから知ってる」
相沢さんが教えたのか……だとすると彼女は上原さんの味方と見ても大丈夫だろう。
「なら話は早い。この件はハッキリ言ってしまうと、さっき話した上原さんの人気を逆恨みした女子か、その人気の上原さんと最近仲良くしてる僕に嫉妬した男子の仕業に間違い無いと思う」
「そんな……私は何もしていないのに……どうして……」
残酷であるが事実を知った方が良いと思い僕はオブラートには包まず正直に話した。
「じゃあ……遠山を巻き込んでしまったのも私のせいなんだ……」
予想通り上原さんは自分のせいで僕を巻き込んだと勘違いをしている。
「それは違う! 僕が標的にされたのは陰キャと呼ばれ地味だからだ。イケメンの倉島と仲良くしていた時は何も無かっただろう?」
「確かに……」
「自分より倉島の方が上だと認めている人間はイケメンでモテる彼なら仕方がないと思っているけど、自分より下と思っている僕が、高嶺の花だと思い込んでいる上原さんと仲良くしているとなんでアイツがって
今回の誹謗中傷は正にこれだ。だから僕が招いたことでもある。
「だから今回のこの件は僕に原因がある。上原さんを巻き込んでしまってゴメン」
「ううん……遠山は悪くない。人に上とか下とかそんなの無いのにどうして? どうしてこんなことになっちゃうの?」
「こうなってしまったことは仕方がないんだ。だから、これからどうするかを考えよう」
「そうだね……それでどうしたらいいの? 私には何をどうすればいいか分からないの」
「正直なところ僕もどうしたらいいか見当もつかない。でも今はクラスの皆も噂のことは半信半疑みたいだ。だから、これ以上噂が広がらないようにするしかない。その上で誤解を解く方法を考えよう」
「うん、それしかないみたいだね。でも私たちはチャットに招待されていないからこれ以上嘘をチャットで広められても否定も反論もできないよ」
上原さんの言うことは
「相沢さんは上原さんを信用しているんだよね?」
「うん、美香はそんなことがある訳がないって怒ってた」
幸いなことに相沢さんが味方になってくれるかもしれない。
「相沢さんにはチャットで自分が誰かバレない範囲で噂を否定してもらいたいんだ」
上原さんを擁護すると今度は相沢さんがターゲットになる可能性がある。
「分かった。美香に頼んでみる。他には?」
「あとは、相手がどう動くか見ながら対応していくしかないかな」
消極的だけど他に手段がない。コソコソと隠れているので尻尾を掴むことは容易ではない。目の前に本人が立って嫌がらせをしてくれた方がよっぽどマシだ。
上原さんにはいつもと同じように振る舞って欲しいと願いした。お互いに避けたりすると後ろめたいことがあると誤解を与えてしまうかもしれないからだ。
僕は解決まで持久戦になる覚悟をするしかなかった。
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