第6話

 ピピピッ! ピピピッ! ピピピッ!


 もぞもぞと布団の中から手を伸ばし鳴り響くスマホのアラームを止める。


「ふぁぁ……眠い……ヤベ、そろそろ起きないと遅刻だ」


 昨日、高井がいつも以上に激しく求めてきて三回もしてしまった。昨日の情事を思い出すと下半身に血が集まり、また元気になってきてしまった。


「抜いてから学校行くか……」


 性欲を持て余しているわけでは無いが、どうにも一発抜かないと治まりそうもなかった。

 僕は昨夜の乱れた高井の姿をオカズに自家発電を始める。



 時間が無い、そう思い僕は一心不乱に手を動かし続けた。

 そろそろイキそうになりラストスパートをかけた。


「お兄ちゃん! 早く起きないと遅刻しちゃうよ!」


 突然、部屋のドアが開き妹が乱入してきた。


 ――ヤベ! 見られた⁉︎ 


 ――い、いや、大丈夫だ……咄嗟に下半身に毛布を掛けたし気付かれてないと思いたい。


「スンスン……なんかお兄ちゃんの匂いが今日は濃いよ?」


 入ってくるなり部屋の匂いを嗅ぎだす妹。匂いが濃いというのは……そういうことだからです。

 妹は少しブラコン気味だ。小さい頃からよく匂いを嗅がれていた記憶がある。男子高校生の体臭なんて臭いだけだと思うんだけどな。


「な、菜希なつき、部屋に入る時はノックしてからって前から言ってたと思うんだ」


 ドアに鍵を掛けていなかった僕も悪いが、家族とはいえプライベートはある。


「あはは、ごめん。でも、なんでそんなに焦ってるのかな? 見られちゃマズいことでもしてたのかなぁ? お兄ちゃんもお年頃だからねぇ。ひひ」


 言い方がなんかムカつくな。だがその通りだからヘタに言い訳すると認めているようなものなので反論しないことにする。


「もう起きるから菜希は出ていっていいよ」


「ダメだよ? 見張ってないとお兄ちゃんが二度寝しちゃうかもしれないし」


 いくら妹が可愛いといっても家族の顔を見て勃てていられるほど僕は変態ではない。今、下半身はすっかり萎えているが丸出しだ。妹の前で布団から出ることはできない。


「いや、大丈夫だから」


「じゃあ、今すぐ布団から出て」


 なぜ、妹はかたくなに部屋を出ようとしないんだ?


「いや……部屋を出てって下さい。お願いします……」


 このままでは本当に遅刻してしまうので懇願してみた。


「え? そ、その……冗談だったんだけど、本当にシテたんだ……? ご、ごめん!」


 妹は顔を真っ赤に染め慌てて部屋を出ていった。


「ふぅ……やっと行ったか」


 妹は察したようだが丸出しの下半身を見られるよりはマシだろう。あくまでも察しただけで妹の予想だ。推定無罪である。


「やべ、マジで遅刻する」


 僕は慌てて布団から出て支度を整え、素早く朝食を済ませ顔を洗い玄関に向かった。


「お兄ちゃん待ってよ。私も一緒に行く」


 妹は僕の高校の中等部の三年生だ。同じ敷地内に中学と高校があるので通学路は同じだ。


「菜希、お前が起きるのを邪魔して遅くなっちゃったんだから急げ」


 僕は妹を置いてさっさと玄関を出た。


「もう〜お兄ちゃんてばヒドいよ、こんな可愛い妹を置いてさっさと行っちゃうなんて」


 後ろから追い掛けてきた妹が追いついたと同時に不意に左腕に柔らかいモノが当たった。妹が腕を組んできたのだ。柔らかいモノの正体は中学生としては大きい胸の感触だった。

 高井より大きいんじゃないか? 立派に育ったな……僕は父親のような感想を抱きつつ意識しないように努めた。


「すんすん……やっぱり今日のお兄ちゃんの匂いはなんか濃いよ」


 それは……今朝、不完全燃焼で終わってムラムラしているからだよ! と妹に言えるわけもなく、誰のせいだよ? と心の中でツッコミを入れた。


「誰かさんのせいで今朝、シャワーを浴びる時間が無かったからなぁ。ていうか……そろそろ離れて欲しいかな。同級生に見られたら誤解される」


 学校の近くに住んでいるので、電車等は使わず歩いて登校している。チラホラと他の生徒の姿を見掛けるようになってきた。


「菜希は見られても別に気にしないよ?」


「いや、そういうのは気にするべきだ。兄妹で腕組んでるなんておかしい」


「そうかなぁ?」


「他の生徒も増えてきたから腕離すよ」


 そういって僕は妹の絡めた腕を強引に引き離した。


「お兄ちゃんのいけず〜」


「お前、そんな言葉どこで覚えたんだよ」


 中学生が使う言葉じゃないよな。高校生も使わないだろうが僕は本をたくさん読む方なので知識だけは割と豊富だ。


「あれ? 遠山?」


 そろそろ校門も近くなってきた頃、背後から女子生徒に声を掛けられた。


 ――朝から僕に話し掛ける女子なんていたか?

 そう思い振り返りその姿を見た僕は、ああ……そういえば昨日からやけに絡んで来る女子がいたなと思い出す。


「上原さん、おはよう」


「おはよう遠山……っていうか……その可愛い子は誰? もしかして彼女とか……?」


 上原さんは僕の隣にいる妹に目をやり、不安気な表情で僕に問いかけてきた。


「ん? ああ、妹だよ。中等部に通ってるんだ」


「そ、そうなんだ、よかった……私はお兄さんの同級生で上原って言います」


 上原さんはホッとした様子で妹に挨拶をする。


「お兄ちゃん……もしかして彼女さんとか?」


 妹は敵意のある眼差しを上原さんに向けた。


「いやいや、ただのクラスメイトだから」


「そう……ならいいです。私は妹の菜希といいます。上原先輩、兄がお世話になってます」


 ペコリと頭を下げる菜希。


「わ、妹さん礼儀正しいね。それに凄く可愛い。菜希ちゃんよろしくね」


「はい、よろしくお願いします。それにしても……上原先輩、オッパイすごいおっきいですね。それでお兄ちゃんを誘惑しないでくださいね」


 男が言ったらセクハラになるようなことを妹は平気で上原さんに言い放った。


「お、お前何言ってんだよ? 上原さんゴメン、うちの妹ちょっと変わってるんだ」


 このまま妹と上原さんを絡ませるのは面倒ごとになりそうだ。


「ほら、お前はもう行け」


 校門を潜った後は中等部とは方向が違う。僕はまた妹が変なことを言わないか不安だったので逃げるように妹と別れ、上原さんと教室に向かった。


「本当、妹がごめん」


 教室に向かいながら僕はもう一度、上原さんに謝った。しかし……妹が変なことを言ったせいで今朝、不完全燃焼に終わったのもあり、上原さんの圧倒的なサイズの胸が気になって仕方がなかった。


「あはは、面白い妹さんだったね。いきなり胸のことを言われるとは思わなかったよ」


 そう言って上原さんは強調するように両腕で自分の胸を抱えた。僕は意識しないように冷静に努めた。


「僕はトイレに寄ってから教室に行くよ」


 なんとなく気まずかったので教室まで一緒に行かず上原さんと別れた。


「うん、それじゃまた教室でね」


 ――ふぅ……今日は朝から何か疲れたな。


 昨日の高井との激しい行為もあり体力も削られ、朝から妹のせいで精神的にも削られ学校をサボって休みたい気分だ。

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