第23話 遭遇

そうして、薄暗い通路をしばらく進むと、地下牢の外につながる扉が見えてきた。


「出口までもう少しだ。エレーヌ、大丈夫か?」


少し速足で進んでいたので、私は少し息が上がってきた所だった。一応、地下牢の中で筋トレなんかはしていたのだが、やはり、男の人の足について行くのは大変だった。 けれども、このくらいのことで音をあげてる訳でもないのだ。


「ええ。大丈夫。火から早くに逃れられてよかったわね」


「扉から出たら衛兵が待ち構えているかもしれません。私が先頭に立ちましょう」


ノワイエはそう言うと、私たちの先に立ち、扉を開けた。


久しぶりに感じる外の空気。少し煙の臭いが混じってはいるが、ひんやりした夜中の空気が通路に流れ込んできた。


ただの空気がこんなに美味しかったなんて。 


地下牢のかび臭い匂いに慣れてしまっていたのだろう。私は胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込んでいると、アーロンと目があう。


「やっぱり、外の空気は新鮮でいいな」


私とアーロンは、お互いを見つめながら、ぷっと吹きだした。


「同じことを考えていたようですわね?」

「ああ、この空気は本当に久しぶりだ。まさか、ここから出られるとは思ってもみなかったからな」


彼は、そんな風に感慨深げに言うと、すっと表情を変えて、腰に差していた剣をすらりと抜き放った。


「エレーヌ、俺から離れるなよ」


私が無言で彼の後ろにつくと、ノワイエが、周囲を確認してから、扉の外へと出る。

彼が手招きしているのを確認して、アーロンに続いて私も外に出た。


そこは、小さな広場のようになっていて、周囲は木に囲まれている。


深夜二時。


反対側の地下牢の出入口のほうでは、避難してきた看守たちが叫ぶ声や、馬のいななきなど、色々と騒がしいようだったが、こちらの出口にいるのは私たちだけだ。


アーロン曰く、ノワイエが周到に計画を立てていたのだと言う。


「この先に馬が止めてあります。そこから先は馬で逃走します」


「エレーヌ、馬は大丈夫だったな?」


もちろん、貴族令嬢であれば、馬くらいは軽く乗りこなせる。私が無言で頷いた時、後ろの扉から大きく煙が立ち上ったのが見えた。


「煙が通路にまで充満してきたのでしょう。さあ、早く進まないと、追手がくるやもしれません」


アーロンに続いて、私も進もうとした瞬間、後ろから誰かに掴まれて、ぐっと後ろに引き戻されるのを感じた。


「エレーヌ!」


アーロンが驚いて声を上げる。気付けば、周囲は衛兵にぐるりと取り囲まれていた。

夜の暗闇に紛れて、木の陰に隠れていたのだろう。


「ああ、やっと貴女を捕まえることが出来た」


自分の耳元で響く甘いような、そして魅惑的な声。


私はその声ですぐにそれが誰なのか悟り、ぎょっとして身を固くした。

そう、私を捕まえていたのは、紛れもなく警務長官である、あのレイモンド・マクファーレン侯爵だったのである。

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