第3話

 会議から二週間後。



 私たちは修学旅行に来ていた。

 京都で2泊3日。ちなみに基本は自由行動らしい。


「みんないますか? いなくても置いて行きますけど」


 先生は点呼を適当に取ると、自分の座席へと腰掛けた。全く、適当な担任だな。


「せんせー。水稀くんがいませーん」

 クラスメイトの一人が先生に報告する。

「相生ですか? 相生なら現地まで走るとか言っていましたよ」

「ということは、水稀くんは遅くなるんですかー?」

「いいえ、到着時刻までに着くようにすると言っていたした」

「そうなんですねー。わかりましたー」


 クラスメイトと先生の会話を聞いて、私は思ってしまった。家から京都まで走るとか何者なのだろうか。


 やはり脳筋ゴリラ。どこまでも期待を裏切らないな。

 というか、バスに乗っている私たちと、殆ど一緒の時間に着くって何? 本当に人間なのかな。


 脳筋ゴリラ。もしかしたら危険人物なのかもしれない。要観察対象とかにされている可能性も、ゼロではないな……。


「とりあえずこれから二時間くらい、バスの中で過ごすことになります。途中で止まることができませんので、トイレに行きたい人は今のうちに言ってください」


 先生は立ち上がって言うと、バスから降りていった。どうやら、先生もトイレに行きたかったらしい。


 先生が消えると、それに続いて数人降りていった。


「俺もトイレに行っておくべきか……。うーん、迷うなぁ」


 突然隣から、聞き覚えのある声が聞こえた。

 隣を見てみると、そこには脳筋ゴリラもとい、水稀が座っていた。


「誰……?」

「忘れたのか? いつも脳筋ゴリラって、呼んでいるような気がするが……」

「誰……?」

「脳筋ゴリラ……」

「誰……?」

「あの、聞いてるか……?」

「うん、聞いてる。それで、誰……?」

「聞いてないだろ……」


 水稀は少し悲しそうな顔で私を見た。


「冗談だよ。そういえば、先生が現地まで走るとか言ってたけど……」

「あぁ、それか。面倒くさくなってやめた」

「面倒くさくなったのね」

「やっぱり、走るのって疲れるだろ? 修学旅行前に疲れるのって嫌だからさ」

「脳筋ゴリラのくせに、疲労の概念があったとは……」

「脳筋ゴリラとか言うけど、俺も一応人間だぞ?」


 人間ってなんだろう。


「人間? ただの脳筋ゴリラの間違えじゃなく?」

「酷くないか? 少し傷付いたぞ」

「大丈夫。君ならバナナでも食べておけば、すっかり元気になるから」

「あぁ……。確かにな」

「そこは否定しないのね」


 私がツッコミを入れると、水稀は軽く頷いた。


 するとその直後、バスのドアが勢いよく閉まった音がした。どうやら、出発するらしい。


「はい、みんな戻ってきましたか? あれ、相生。いつの間に来たんですか?」

「数分前です」

「そうですか。まぁいいです」


 先生はそう言うと、バスの運転手に声をかけた。


「では、出発しましょう」


 先生の声に反応し、クラスメイト全員が返事をする。


 こうして、私たちの修学旅行は始まった。

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