第10話 覚醒


 ジンとクラウディアの高速戦闘が開始された。〈権能ルール領土支配エリアシール〉による数多の銃口から降り注ぐ鉛の雨を〈虚空跳躍ファントムジャンプ〉で躱すジン。

 それだけではない。銃弾一つ一つ踏みつけて音速を超える速度で移動していく。

「すごい! すごいよジン君!」

「クラウディアこそ、この量の銃を完璧にコントロールしてる」

「だって私はただ引き金を引くだけ。つまらないでしょう? そんなの」

「だから倒して欲しい?」

「そう正解!」

 ジンは目に、瞳に、眼窩に収まる眼球に熱さを感じていた。それは恐らく己が求めているもの。〈上限者ハイエンド〉への

「魂を理解するのがこんなに楽しい事だったなんて! 今まではただの武器としか思っていなかった! だけど今なら分かる。俺の〈虚空の刃ファントムナイフ〉が何を斬れるのかを! この空間〈権能ルール領土支配エリアシール〉の意味も! 概念も!」

「――嘘、まさかそこまで」

「ああ、辿り着いた。やっと

 スペツナズ・ナイフのトリガーを押すジン。一個の銃口に向けてそれは放たれる。突き刺さったそれに向かって〈虚空跳躍ファントムジャンプ〉するジン。そして――

双刃そうじん天終てんつい!」

 無機物相手なら禁じ手もいいだろうと、ジンは考え繰り出した。それはまさしくクラウディアの急所。魂の最下層であった。確かに魂に衝撃を与えた。だがしかし。

「その程度じゃ〈権能〉は破れない……!」

 クラウディアが苦笑してみせる。ダメージをこらえながら浮かべた笑みだから苦しそうに映るのだろう。しかし関係ないジンは全力を尽くす。

「〈権能スキル領土切断エリアスラッシュ〉」

 ジンのまなこが青白く輝いた。

             

             ●

 ――世界が一瞬白と黒で反転する。

             〇


 ズバァ! という音と共に〈権能ルール領土支配エリアシール〉は一刀両断された。

「――まさかまさか!」

 狂喜とも呼べる笑顔。クラウディアは劣勢に立たされてなお、その状況を喜んでいる。

「これが、〈上限者ハイエンド〉の〈権能〉か」

「すごいすごいすごい! ジン君! 私、君みたいな人をずっと待って――」

「悪いなクラウディア。今はもう少し、この力を試してみたい気分なんだ」

 虚空に浮かぶ大量の刃。しかし、それは不可視であった。

「次刃多重装填。射出」

 刃の雨がクラウディアを襲う。踊るように跳ねるクラウディア。金糸のような髪の毛が乱れる。肢体が斬撃に合わせて揺れ動く。それはまるで不気味に蠢く霊に取りつかれた様でもあった。

 一頻り刃の雨に打たれのたうち回ったクラウディア。既に彼女の意識はない。しかし。彼女は最後まで笑っていたのだった。

「本当に倒される事を望んでたんだな……」

 その様子にどこか悲壮感のようなものを感じてしまうジン。しかし今はそれよりも高揚感のが勝っている。ああもっと試したい! 戦いたい!

「黒条先生」

 そっと呼びかける。

「なんだ。勝敗なら決したぞ。お前の勝ちだ」

「そうじゃなくて」

「なんだ〈上限者ハイエンド〉になった事を褒めでもしてほしいのか? はっはっはっかわいい奴――」

「そうじゃなくて! 俺の相手をして下さい」

 一瞬、第二演習場に沈黙が舞い降りる。

「今、なんて?」

「俺と戦ってください。黒条先生」

「…はぁ、クラウディアに続いてお前もか。いやクラウディアの時は俺からだったか? まあどっちでもいいや。そんなに俺と戦いたいのか? そんなに〈上限者ハイエンド〉の力を試したいのか?」

「ええ、試したい、もっと戦いたい!」

「……いいだろう相手になってやる。だけど俺が勝ったらお前はAクラス送りだ。俺は落ちこぼれしか育てる気しねーんでね」

「なんですかそれ。俺にメリットしかないじゃないですか」

「別にいいだろ。俺の流儀なんだから」

 二人が対峙する。

 此処に〈上限者ハイエンド〉対〈上限者ハイエンド〉の戦いが再び繰り広げられようとしていた。

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