霊能力者が戦った場合(ミステリーどこいった?) [バレ編]

 安全装置無しのジェットコースターか始まった。








ヽ(゜∀。)ノウェ





 幽日が人混みに消えた。俺も行くか。


「拓実、お前はここまでだ」


 嫌な予感がするからな。拓実じゃ対応できないかもしんねぇ。


「……明暗大学に行くんすよね。俺も行ったら駄目っすか」


 無駄に気合い入ってんな。


「なんかあっても文句言うなよ」


「あざっす」


 まぁいいけどよ。


 
















 明暗大学前の好き者屋でぎゅう♡丼を堪能しながら式神の報告を待つ。

 大学内に先に潜入させた。斥候せっこうってやつだ。


「マシュマロと肉って合うんすね」


 こいつ、ここに来たことなかったのか。全国にチェーン展開してんのに珍しい。


 おっと式神の霊気が近づいてきた。

 

 店の自動ドアが開かなくて涙目になってんな。何やってんだ。


「トラノコが戻った。出るぞ」


「はひ」


 口に詰め込みすぎだ、バカ。


 会計を済ませ店を出る。

 30センチくらいの身長、豹柄ひょうがらのビキニ、背中にトンカチ。女形おんながた式神──トラノコが敬礼する。


「任務完了したであります!」


 こいつテンションウザいから苦手なんだよなぁ。でも一番汎用性はんようせいあるんだよなぁ。


「ご苦労さん」


 トラノコが肩に跳び乗る。歩きながら報告を聞く。


「で、どうだった?」


「ハ! 対象二名を旧本館にて発見しました!」


 旧本館ね。すれ違った学生どもの記憶によると今は使われていない建物のはずだ。


「どんな様子だった?」


「二人とも縛られて拘束されておりました! ただ……」


 トラノコが言い淀む。


「なんだ?」


五月雨さみだれじょうは衣服が乱れておりました……」


 ほぅ。幽日の女に手を出すとは命知らずな奴だ。


「他には?」


「……」


 今度はなんだ? 


「……上官は五月雨嬢に対してもっと何か無いのですか!?」


 あーそーだよな。お前ってそういう奴だったな。マジめんどくせぇわ。


「いいじゃねぇか。いろんな男を知った方が上手くなるしよ」


「な、何を言うでありますか! それは未経験の私に対する当てつけですか!?」


 め、めんどくせぇ。


 報告が進まないのを見かねたのか、拓実が口を出す。


「まぁまぁ、トラノコちゃん落ち着いて。命さん、カッコつけてるだけっすよ。いい年して厨二病なんす。大目に見てあげましょう」


「! そうであったか! それなら致し方ないでありますな!」

 

 こ、こいつら……。とりあえずトリアタマと一緒に再教育だ。マジふざけんなよ。


「それに未経験でもいいじゃないっすか。俺は好きっすよ」


「た、拓実殿ぅ……!」


 なんだこれ。処女厨宣言に頬を染める女なんて初めて見た。

 トラノコが拓実の肩に跳び移る。


「報告を続けるであります!」


 もう疲れたわ。


「本館内には他に五名の人間が囚われておりました! 皆、若者であります!」


 ほぅ?


「犯人については?」


「ハ! 皆目検討がつかないであります!」


 頭が痛い。

 俺もバカだから分からないっつーのは別にいい。問題はなんでそんなに自信満々なのかっつーことだ。

 耳下で叫ばれた拓実が不憫だ。


「怪しい人や不自然な物はなかったんすか?」


「ハ! 五月雨嬢の太ももが怪しい雰囲気でありました!」


 お前処女なんだよな。レズでもあるのか? 


「ほ、他にはなかったんすか?」


「ありません!」


 じゃあアレなんじゃねぇか。元々大学に居る人間が犯人なんじゃね? 怪しい奴が居ないってのは浮いてる奴が居ないってことだろ。

 もう分からんし、それでいいや。


「報告ご苦労。では次の任務だ」


 トラノコが目を輝かせる。


「お前はターゲットの側で指示があるまで待機」


「……? それだけでありますか?」


 拍子抜けって感じだな。


「一応、隼人たちが危なくなったら助けろ。それくらいだな」


「ハ! 了解しました!」


 











 








 夜、大学を取り囲む塀の近くに来た。拓実は近くの○クドで待機中だ。ぶっちゃけ邪魔だしな。


 札を取り出し、式神を具現化する。札が弾け、小さなヒトガタが現れる。


「うぃー」


 気だるげな声で挨拶したのは、背中にカスタネットを背負った男形おとこがた式神──キュウソだ。


「今からこの建物に侵入する。人が居たら眠らせろ」


「うぃー」


 寝ぼけまなここすっている。


 大丈夫か、こいつ。


「……行くぞ」


「うぃー」


 侵入つっても普通に正面から入るだけだ。まずは正門近くまで移動し様子を伺う。警備のおっさんが居るな。


「キュウソ」


「うぃ」


 袴っぽいズボンを履いたキュウソが普通に警備のおっさんに近づく。

 式神は霊と違い、物に触ったりできる。だが、霊感が無い人間は見ることができない。だから今みたいな時は便利なんだ。


 キュウソがカスタネットを構え、鳴らす。


──カッカッ!


 警備のおっさん2名がカクンッとこと切れ……じゃなくて睡眠状態になる。

 流石だ。数ある式神の中でもなかなかにエグい能力。それがキュウソだ。


「よくやった」と頷いてから大学構内へ入る。カメラはあるだろうが別に構わねぇ。マスクに帽子スタイルのただの怪しい奴だから問題ない。特定さえされなきゃいいんだよ。


「うぃ」


 ……ヤル気は一切感じられないがかなり使えるんだよなぁ。どこかの霊圧バカみたいだ。


「……ん」


 なんか嫌な空気だ。念のためエンピも出しとくか。

 

 札を取り出し、霊気を込める。


 ぼふんっ。


「……今宵こよいも風がいている」


 相変わらず何言ってっか分からねぇな。


 身長30センチほどの振り袖姿で、背中にケース入り包丁(持ち手改造済)を携えた戦闘特化型の女形式神だ。強いことは強いんだが頭がアレな奴で、会話が困難なんだよなぁ。


「今、敵陣だ。備えておけ」


「御意。漆黒の闇夜を斬り伏せ、深紅の道を導かん」


 誰か翻訳してくれ。


「うぃ~」


「む? キュウソ殿ではないか。息災そくさいであったか?」


「うぃ~」


「そうかそうか。なによりだ」


「うぃ~」


「なるほどのぅ、妹君いもうとぎみがのぅ」


「うぃうぃ」


 こいつら遠足かなんかと勘違いしてねぇか?

 なんか締まらねぇなぁ。


 ユルい空気のまま旧本館に着いちまったよ。ドアはチェーンで封鎖されてる。

 一応、他の入り口探すか? いやめんどくせぇな。


「エンピ」


「御意」


 背負った包丁を構え、一閃、二閃……八閃。封鎖されたドアがバラバラに崩壊して、俺たちを招き入れてくれるようになった。イイコだ。


 ほんじゃ、あとはトラノコと合流して隼人たちを拐って行けばミッションクリアだ。

 建物に侵入してテキトーに進む。


 どこつったかな。東だっけ? でも東ってどっちだ? トラノコの気配を探った方が早いか。


 目をつむり集中する。


 居た。場所も分かったし、さっさとやることやるべ。


 旧本館内を目的地に向かい、真っ直ぐ進む。


 案外呆気なかったな。ヨユーヨ──! 


 鋭い金属音。


 振り向くとエンピが包丁を振り切った体勢で一点を睨み付けていた。

 エンピの視線の先には銃──おそらくはサイレンサー付き──を構えた人物。


 こいつが誘拐犯か。


「よぅ。こんばんは?」


「……ここに何の用だ」


 えらい警戒してんな。当たり前か。


「夜の社会勉強」


 また金属音。エンピが銃弾を斬り飛ばした音だ。

 

 どういう理屈か知らねぇが明らかに包丁の間合い外の物も斬れんだよなぁ。謎だわ。


「……何をした」


「さぁ?」


「舐めた真似を……!」

 

 銃声が耳を打つ。一回、エンピが、二回、斬撃が、三回、舞う、四回、銃弾は届かない。


「弾の無駄だ。諦めろ」


「ちっ。調子に乗るなよ! おい!」


 男がそう言うと廊下の先や柱の影、部屋の中から複数の殺気が出現した。


「へぇ……」


「この数相手ならトリックは通用しないだろ! 大人しく捕まれ!」


 そんなこと言われて素直に捕まるアホは居ねぇよ。アホか?


 舌ピアスに仕込んだ術式を解放する。息を吸い込む。で、腹から声を出す!


「俺に従え!!!」


 声が響き渡り、そして殺気が消滅する。敵対してた奴らが全員、俺の支配下に入ったんだ。

 舌ピアスは言霊ことだまを絶対命令クラスまで強化する術式が刻まれている。要は俺の言葉に服従するようになる。一回使うと充電期間は要るが、チョー便利な一品だ。

 

 やっぱヨユーヨユー。


「集まれ」


 俺の言葉に従い、ぞろぞろと集合する。全部で5人か。ほぅほぅ。


「拐った奴らのとこに案内しろ」


「「「「「はい」」」」」


 全員で返事されるとうぜぇな。


「返事は1人でいい」


「「「「「はい」」」」」


「……」



















(’ω’)ファッ!!?

 


 血~頭バーガーウマウマ。


 口を赤い液体で汚しながら肉を貪り喰ってると警視総監の佐藤さんがやってきた。チノパンにニットセーター。完全に休日のお父さんスタイルである。


「いきなりすまないね。待たせたか?」


 ううん! 今来たとこ!


 などと言うはずはない。


「そこそこ。話はどこでします?」


「車でしよう。……ところで後ろの御人とはどういったご関係かな?」


「ただの知り合いです。気にしなくて大丈夫ですよ」


『ワシはぁ石川と申す』


「これはご丁寧に。私は佐藤一さとうはじめと言います」


 さっき霊気の感知ドームを作った際に、俺の霊気と気づいた石川さんが心配して来てくれたんよ。意外とマメな男だ。


「行きましょう」


「ああ」


『あいよ』


「……石川さんも来るの?」


『駄目か?』


「いや、いいけどさ」


『じゃあくぞ』


 なんだこの組み合わせ。世の中分からんわ。
















 佐藤さんが車を走らせながら話し出した。


「実はとある組織がA国と結託してクーデターを起こそうとしている」


「……は? マジですか?」


 でもそれって公安警察の担当なんじゃないの?


 俺の疑問を察したのか、佐藤さんが続ける。


「公安警察内部にも組織側の人間が複数居る。安易には頼れない」


 ヤバすぎワロタ。何も聞かなかったことにして帰りたい。


「それでな、組織の連中は8年程前から若い人間を中心に誘拐を繰り返しているんだ。理由が分かるか?」


 知らんよ。知りたくもないよ。


『……なんじゃ、少年兵にでもするつもりか』


 石川さん普通に会話に交ざるんスね。


「半分正解だ。洗脳できて、かつ素質のある人間はそうなる」


 おいおい。なんとなく予想できちまうぞ。


「残りは金ですか」


「そうだ。条件に合わない人間は内臓を売られ、革命資金に換えられる。加えて、奴らは麻薬売買と殺人でも稼いでいる」


 こっわ。ガチ悪の組織じゃん。誰か倒してやれよ。

 ただなぁ、こんなことを俺に言うってことは……。


「……なんでそれを俺に言ったんですか」


「勿論、結城君にも一枚噛んでもらう」


「拒否権は……?」


「博物館や車の無断使用の件を強引に押し進めてもいいんだよ? プラスして適当な罪を擦り付ければ刑務所送りにもできる。どうだい、やる気が出てこないか?」


 なんということでしょう。警察のボスが公然と脅迫をしているではありませんか。警察は腐りきっている。間違いない。


「……何をすればいいんですか」


 ふぇぇ、権力には勝てなかったよぅ。


 佐藤さんがいつかみたいに凶悪な笑顔を見せる。石川さんが『ほぅ』と感嘆の息を漏らす。子どもが見たら漏らす。


「ああ、革命組織のトップは内閣総理大臣の寿田すだ観月みつき氏なんだがな、A国との密約文書が首相官邸にあるんだ」


 えぇ……。情報量が多すぎて吐きそう。


 石川さんが目を輝かせる。なんでやねん。


「結城君にはそれをってきてほしい」


 そんなコンビニで酒買ってこいみたいなノリで言われても、ことがでかすぎて簡単に「うん」とは言えな──。


『承知した! ワシと結城に任せておけぃ!』


 !? え? なんで? は?


「おお! やってくれるか! いやぁよかったよかった。革命組織を潰す唯一の証拠だからどうしようかと思ってたところだ。結城君なら任せられる。……分かっているね?(威圧)」


 ひぇ……。なんでこんなことになってしまったのか。


「拒否権は?(2回目)」


網走あばしり刑務所に特別室(独居房)を用意してある」


「お任せください!」


「ハハハ! 随分ヤル気じゃないか! 頼もしい限りだ!」


 先にこのクソオヤジから逮捕すべきじゃなかろうか?

 






 

 

 


 








 PM22:00、首相官邸……の塀の前、ちゃちな銀行強盗よろしく覆面を被る不審者が1人。俺である。

 

「やりたくねぇなぁ」


 先ほど遠目に見た小綺麗な建物──首相官邸を思い浮かべると、やっぱり行きたくないという気持ちが頭をもたげてくる。

 彼処あそこに侵入すんのかよ。嫌だなぁ。


『ここまで来て何を言うておる?』


「はぁ、だってなぁ」


 石川さんはヤル気に溢れている。

 石川さんには心残りがあるらしい。それは豊臣秀吉が築いた大阪城の金鯱きんしゃちを盗めなかったことだ。

 金鯱ってのは城の屋根の先っぽ(?)に付いてる金色の反り返った魚みたいな奴のことだ。


 ……うん、普通、盗みたいって発想にすらならない。でも石川さんは盗みたかったんだって。

 で、それとこれがどう関係してるかっていうと、石川さん的には「時の権力者が大切にしている物を盗むこと」が悲願らしくて、つまり今の総理大臣から革命の密書を盗むこととイコールになる。


 というわけで石川さんのヤル気は天守閣をぶち破っている。

 俺のヤル気はお堀の底に沈んでいる。


『さぁ早くやるぞぃ』


「はぁ。しょうがないよなぁ。刑務所行きたくないし」


 やるか。


「分かったよ。石川さんの覚悟は……訊くまでもないな」


『あったぼうよぅ!』


「じゃあいくぞ」


──魂魄こんぱく完全憑依!


 説明しよう!

 この厨二臭い技は俺が中学生の頃に考えた黒歴史の産物だ!

 簡単に言うと魂と霊体を完全に重ねることでスーパー強いパゥワァーを出せる凄い憑依なのだ!

 条件は憑依する霊体の格!

 霊には格がある。上から神霊、英霊、精霊、怨霊、雑霊! この内、一定レベル以上の精霊から魂魄完全憑依が可能! 

 そして石川さんは英霊クラス! 泥棒のクセに生意気だ!


 と、そんなわけで石川さんを俺に憑依させてる。なんか凄い力が出てきちゃってるね。こっわ。


「『おお! これは凄い! 全盛期以上だ!』」


 俺の霊気によりブーストしてるから身体能力もヤバいしな。ちなみにそんな廃スペックボディを俺が使いこなせるわけがないから、身体の主導権は石川さんに渡してある。


 ぴょんぴょんと2、3メートルを跳んだり跳ねたりしてる。ここで注意してほしいのは俺の視点は普通に眼球依存ってことだ。つまり視界がぐわんぐわん動く。


 ぅぅ、気持ち悪い。めっちゃ酔うわ。助けて。


「『伊賀流忍術と盗みの合わせ技、くぞ!』」


 石川さん(俺)が空中3回転半を決め、塀を飛び越える。

 

 あ、これ死んだわ。もう吐きそう。出ちゃう。出ちゃぁぁあああああ!

 

 安全装置無しのジェットコースターが始まった。


「『む? ここに罠(赤外線センサー)があるの。せいっ!』」


 なんでいちいち捻りながら跳ぶの!? 脇道行こうよ!?


「『む? 前方に曲者くせもの(警備員)がひぃ、ふぅ、みぃ。ふっ、その程度の錬度で片腹痛いわ!』」


 首トン初めて見た!? ホントにできたの!? 後遺症とか大丈夫なの!? てか曲者は俺らだよ!?


「『む? 監視からくり(監視カメラ)があるの。せいっ!』」


 クナイとかどこにしまってたの!? なんで持ってんの!? ああ、高そうなカメラが!?


「『む? からくり錠(カードロック)があるの。ふむ。先ほどスリっておいた板(警備員さんのカード)で』」


 いつの間に!? 手癖悪すぎぃ!? 開いちゃったよ!?


 こうして石川さん(俺)がスルスルと進んでいく。そして、遂にブツを見つけることに成功した。まぁ俺が残留思念を読んで隠し場所を見つけたんだけどね。テヘ☆


「『む? 何やら不穏な気配……結城、どう思う?』」


 ……どうって言われても1人じゃないか?


「『やはりか。それなりにヤりそうだの』」


──銃声!


 だが甘い。超強化された直感で読んでいた。十分回避できる。

 最小限の動きでかわした石川さん(俺)がマズルフラッシュの見えた方へ一直線に向かう。


 ……え? 逃げないのでせうか?


「『逃げん。愉快そうな奴とは遊びたいからの!』」


 えぇ……。


 また銃声。今度は連射。しかし超直感を俺と共有してる石川さんは難なく避けて突き進み、そして──白刃とクナイが眼前で交差する!


 ひぃぃぃ! こっわ! 俺が尖端せんたん恐怖だったら泣いてたよ!


 一旦距離を取り、敵を観察する。


 相対するのは抜き身の日本刀を構えた女。深紅の花があしらわれたかんざしが場違いなアクセントになっている。


「『お主、なかなかやるの』」


「……っ」


 うわぁ。無言で斬りかかってきた。話が通じない系女子かぁ。あまり関わりたくはないなぁ。


「『だがまだまだ甘い。その程度じゃあ喰らわんのぅ』」


 石川さん(俺)が女と斬り結ぶ。刃が衝突し、火花が散る。

 数回繰り返すと女は拳銃も交えてきた。刀だけでは勝てないと思ったのかな。

 流れ弾がガラスを粉砕する。これ被害額いくらになるんだろ?


「『どうしたぁ? その程度じゃつまらんのぅ。ほれ』」


 石川さん(俺)が簪をひらひらと見せ付ける。

 

 ホントに手癖わりぃな。いつったんだよ。


「っ!」


 女の目の色が変わる。今までのがお遊びに感じるくらい苛烈な攻めだ。

 まぁ石川さん(俺)には通用しないんだけどね。英霊を舐めたらいかんよ。


「『ヤればデキるじゃないかぁ。ほれ、その調子じゃ』」


 うわぁ。完全におちょくってるよ。どんなに好意的に見ても指導碁って感じ。女のプライドぐちゃぐちゃだよ。えげつないなぁ。


「……っ!」


 女が銃を連射する。当然、ヨユーで回避。しかしここで火災報知器が鳴り始める。○コムなの、○ルソックなの?

 スプリンクラーから水が降り注ぐ。


 なぁ、石川さんそろそろ帰ろうぜ。密書が濡れたら不味い。


「『む。それもそうじゃの。せいっ!』」


 石川さん(俺)の強烈な回し蹴りが女のコメカミを強打。くるくると錐揉み回転しながら壁に衝突。ぐったりと床に崩れ落ちる。


 え? 死んだ……?


 女がもぞもぞと潰れた虫けらのようにうごめく。ダメージがデカすぎてまともに動けないんだな。可哀想(笑)。


 でもよかったわ。死んでないならオッケーよ。流石に殺人を揉み消すのは疲れるからね。


「『なかなか愉しかったぞぃ! だがまだまだ! この簪は貰っていくから励めよ! ではな』」


 ねぇ。なんでそうやってフラグを建てんの? もしかしなくてもあなた、これが終わったら成仏するでしょ? 俺1人であの戦闘漫画の住民を相手にするのは無理よ?


 しかし儚き想いは無視され、肉眼で見えそうなくらい濃密な殺意の乗った視線が俺に突き刺さる。


 ひぇ……。


 ぴょんぴょん、くるくると跳んだり回転したりしながら家路を行く。もう疲れたよ、○トラッシュ。


「『いやぁ愉しかったのぅ。やっぱり成仏するのやめて、これからも結城と盗みをしようかの』」


 てめぇふざけんな。消し飛ばしてやろうかぁ?


「『そう怒るな。冗談じゃ。そんなに都合良くいかないことは分かっておる』」


 そうだな。言ってる側から石川さんが消滅していってる。英霊もく時は呆気ないもんだ。


 なぁ、少しは満たされたか?


「『ふっ。満たされてはおらんの』」


 なんだそれ。


「『ワシのような人種は満たされないから自分でいられるんじゃ。だから満たされてはおらぬ。だがの……』」


 あっという間に佐藤さんと待ち合わせた公園が見えてきた。


「『確かに夢を見た。死人しびとであることを一時忘れられた。ありがとよ』」


 よくわかんねぇな。


「『ふははっ。それで構わんさ。そろそろ時間だの。ではの、結城。愉しかったぞ! 来世でも遊ぼうぞ!』」


 絶対嫌です。


 石川さんが完全に消滅する。ホント呆気ないな。ま、そんなもんか。

 

 佐藤さんが片手を上げる。


「お疲れ様」


「マジでな」


 苦笑いされた。なんか納得いかねぇ。


 レザージャケットからおつかいの品を取り出してやる。なんかシワシワだわ(笑)。


「これでいいんですよね」


「確認しよう」


 ものの数十秒程度で確認が終わり、狂悪な顔に変貌する。

 ……もう慣れてきたけどもうちょいなんとかなんねぇのかな。


「確かに。これで外患がいかん予備・陰謀罪や内乱予備・陰謀罪で逮捕できる」


「そうですか。じゃあ俺は釈放ってことでいいですか?」


「ああ。助かったよ。またよろしく頼む」


「勘弁してくださいよ!」


 






















「こ、これは……!」


 翌日、念のため入院して検査&治療を受けている晴さんをたずね、なんとはなしに戦利品(?)の簪を取り出すと急にシリアスな顔に変わってしまった。何が何やら。


「これは曲者の女が落としていった物(?)だよ」


「そうなんですね……。これは僕が姉さんに贈った物……」


 !? なんか嫌な予感が……。


「ど、どういうことかな?」


「僕の──」


 晴さんが言うには、拐われた姉を捜していて、その為に探偵をやっていたらしい。今回、無茶な方法で首を突っ込んだのも全ては姉を捜すため。

 で、この簪は昔、晴さんが姉に贈った物なんだって。お小遣いを貯めて買ったってさ。


 ……ふ、ふーん。そ、そうなんだ。た、偶々同じ製品を持ってただけじゃないかな? え? オーダーメイド?


「? どうしたんですか……?」


 や、やべぇぇぇ。石川さん(俺)がタコ殴りにしちゃったのって晴さんの姉さんなんじゃ……!? 男女平等ヒャッハー拳の餌食えじきだよ!? 最終的に○ムチャみたいになってたよ!?


「い、いやなんでもない。あ、会えるといいな」


 バレないといいなぁ。


「? はい……。生きていると分かっただけでもよかったです……。ありがとうございます……。あの……姉さんは元気でしたか……?」


「あ、ああ。げげ元気にチャンバラしてたぞ」


 ざ、罪悪感……。滅多に罪悪感を持たない俺をこんな気持ちにさせるとは……。晴さん、恐ろしい子!


 ちなみにニュースがえらいことになってるが、あの女が逮捕されたという情報は出ていない。多分、残党はそれなりに居ると思う。規模がデカイから全員を逮捕するのは無理だろうしな。

 でも寿田総理はふつーに逮捕された。なかなかにレアな光景だったよ。

 マスコミさんは連日忙殺だろうね。大変だね、社会人は(笑)。へへへ。

 














(・ิω・ิ)


 


「今回は助かりましたぁ! あざっす!」


「あざっす!」


 探偵事務所で隼人と拓実が幽日に頭を下げる。

 一応、俺も礼をしようとしたところで幽日が何やら聞き捨てならねぇことをほざきやがった。


「ほいほい。命に○々苑奢らせるから構わないよ」


 待て。聞いてないぞ。


 隼人と拓実が目を輝かせる。


「マジっすか。ゴチになります!」


「ゴチになるっす!」


 なんでお前らにまで奢ることになってんだ?


 幽日が俺の肩に手を乗せる。


「まぁいいじゃないか。ついでに亮の分も頼むぜ」


 いったい幾らになるんだ……?


 バカどもがウキウキしている。


 ……まぁたまにはいいか。俺も肉食いてぇしな。


「じゃあ行くか」


 隼人と拓実が野太い歓声を上げる。


「「おー流石『双頭の龍』!」」


「「それはやめろ!!」」


 幽日を見ると苦虫を噛み潰したような顔をしている。多分俺も同じ顔だ。


 皆、早く忘れてくれねぇかなぁ。

 

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