怪盗探偵! 石川桜子の事件簿!

──この事件、怪盗探偵石川桜子が解決してみせる!








(〃艸〃)




千恵美ちえみさん、旦那様をお呼びしてきて」


「はい」


 私──怪盗ジョーカーこと石川桜子いしかわさくらこは、新な獲物の下調べの為に藤川ふじかわグループ総裁の邸宅に潜入中だ。私のスーパーでプリティなフェイスは変装メイクで隠されている。なんと嘆かわしいことか。

 ちなみに千恵美という偽名は、桜を意味するcherry-blossom treeのチェリーから付けたの。天才ね!


 藤川グループは風呂用品を広く手掛ける東証一部上場企業で、300年以上も歴史のある老舗だ。

 そこのボス──旦那様は彫刻を蒐集するのが趣味らしくて、私の次のターゲットはその内の一つ、『最弱の四天王』よ。躍動感と絶妙に弱そうな顔付きが高く評価されている、高さ53センチの彫刻。歴史的価値を考えると丁重に扱わざるを得ない1級品ね。

 

 今は、朝ごはんが出来たから旦那様を呼びに向かっているんだけど、これが遠いのだ。このお家、私が前に住んでいたアパート(6畳1間、ロフト付き)の何倍だろうか? 世の中の経済格差に涙が出ますよ。

 心の中で忸怩たる思いにむせび泣いていたら、いつの間にか旦那様のお部屋の前に到着していた。

 

 さて! お仕事しますか!


 コンコンコンとトリプルノックセルを決めてお声を掛ける。


「朝食のご用意が出来ました。ご準備が整いましたらお越しください」


「……」


 あれ? いつもはすぐに返事があるのにどうしたのかな。

 もう一回呼んでみよう。


「旦那様、早く来ないと私たちの仲を奥様にお伝えしますよ?」


 仲(笑)だ。こー見えて私は身持ちが固いので、結婚する人以外とは何もするつもりはない。キスもダメだ。流石私ね!


「……」


 やっぱり返事がない。なんか嫌な予感がする……。


 私のすぃっくすぅすぇんすうはよく当たるのだ。ここは攻める時。いざ参らん!


──遠見!


 説明しよう!

 天才超能力者である私は、頑張れば視点を飛ばすことができるのだ! イメージとしてはラジコンヘリにカメラを付けて飛ばし、遠隔でカメラ映像を見ている感じ。正直、遠見とかテレパシーはあんまり得意じゃないから使い勝手は良くないけど、今くらいなら大丈夫!


 頭の中にぼやけた映像が流れる。旦那様のお部屋だ。


 !?


 和室の中には旦那様の姿がある。だけど……。


 殺人……。いったいどうして……?


 旦那様は首を切断されていて、頭部は生け花用の剣山に載せられている。


 ショックではある。でも取り乱したりはしない。私だってそれなりに修羅場は潜ってきた。冷静さは失わない。


 今、私が取るべき行動は、皆がなるべく早くこの現状を知ることができるようにすること。私に疑いが向けられないようにしながら、だね。


 私は不思議そうに首を傾げてから、ゆっくりと来たルートを戻る。

 旦那様を呼んでみたけど返事が無かった。でも勝手に旦那様の部屋の戸を開けて良いか分からないから、返事が無いことを先輩に伝えようとしているだけ。

 そうであると自分に言い聞かせ演技する。「敵を騙すには味方から」とよく言うけれど私に言わせれば少し違う。

 私にとっては「人を騙すには自分から」だ。要は自己暗示ね。これが上手くできるとイレギュラーな事態でもボロが出にくくなる。

 台所に到着した私を先輩──山本やまもとたまきさんが出迎える。


「ご苦労様。じゃあ次は……」


たまきさん」


「どうされました?」


 何か妙な胸騒ぎがする。そんな顔、仕草が自然と滲みでる。


「実は旦那様からお返事が無くて……」


 環さんが眉を寄せる。

 使用人の立場としては、旦那様に万が一があった場合、それを見逃すことはできない。環さんは責任感か強い人だから、色々考えてるのかもしれない。少し罪悪感が湧く。


「分かりました。行ってみましょう」


 環さんと私は邸宅を見て回りつつ、旦那様のお部屋へ向かう。他の部屋や浴室に居るかもしれないと環さんが考えたからなのだけど、当然居ない。


「いらっしゃいませんね」


「ええ」


「あれ? この時間にここに居るなんて珍しいね」


 私たちが邸宅内を彷徨うろついていると、旦那様の1人息子の藤川孝介ふじかわこうすけ君が声を掛けてきた。旦那様が50歳を過ぎてから出来た子で、旦那様はもの凄く可愛がっていた。今年で中学3年生。

 

 けっ。お坊っちゃまが。


「いえ、少し気になることがありましてね」


「ふーん。あっそ」


 如何にも思春期の子のようなリアクションが返ってきた。そして特に深く訊くことはせずに行ってしまった。

 環さんが視線を私に移す。


「……旦那様のお部屋を見ましょう」


 そして私たちは旦那様と対面した。

















 広い食堂が静まり返る。本来ならば朝食を食べている時間なのに、今は皆、何も口にしていない。


「……内々に処理できないかしら」


 ポツリと奥様──藤川京子ふじかわきょうこさんが言う。

 いらっとする。でもそれを顔には出さない。

 それにそもそもそれは無理があるよ。旦那様がいきなり消えたら、色んな所で支障が出ちゃう。


「お気持ちは分かりますがそれは難しいかと」


 環さんがやんわりとたしなめる。

 京子さんはまだ36歳。旦那様より30歳も若い。周りの人間からは金目当てだと言われているみたいね。口元の黒子が同性から見てもせくすぃだ。

 

 けっ。玉の輿が。


 京子さんと環さんのやり取りを見ていた孝介君が口を開く。


「さっさと警察呼んだら? どうせ呼ぶんでしょ?」


 この親子……!

 

 孝介君の言い方は本当にどうでもよさそうだ。それが私の気を逆撫でする。

 しかし私はムカムカするのを何とか抑える。冷静さを失っては駄目だ。

 

 旦那様は穏やかな好好爺こうこうやという雰囲気通りの人だ。私にもよくしてくれた。

 だから私はそんな彼が嫌いではなかった。あ、恋愛感情どうのとは関係なく、人としてって意味ね。

 

 それなのにこんなことになるなんて……。


 私は決意した。本業は正義の怪盗ジョーカー様だけど、たまには違う事もやってあげましょう。


──この事件、怪盗探偵石川桜子が解決してみせる!


 キリっと凛々しい顔をしていたら、環さんが微妙な顔をしてきた。

 きっと環さんも傷ついているのね。分かる分かる。でも大丈夫! 私がちょちょいと犯人を特定したるわ!


 先ず前提として昨日の夜1時には旦那様は生きていた。だって会話したもの。

 というのも、住み込みで私と環さんは働いているんだけど、その時、私も起きていたの。まぁおしっこに起きたんだけどさ。

 だから旦那様が殺されたのは、午前1時過ぎから朝7時20分の間になる。


「ふふふ」


「千恵美さん、どうされました?」


 おっと、いけませんわ。つい笑ってしまいました。

 環さんに不審がられてしまった。気を付けないと。でも仕方ないよね。


 だって犯人は分かったも同然なんだから!


──テレパシー!

 

 説明しよう!

 天才超能力者である私は、その気になれば人の記憶や考えてることを覗くことができるのだ! テレパシーはそんなに得意じゃないけどやるしかない。頑張れ、私!


 先ずは環さん。

 うん、普通に寝て起きて仕事してってだけで怪しいとこはないね。はい白。次!


 次に孝介君。

 うん、夜11時頃から朝まで記憶が無いね。つまり夜11時からさっき私たちに会う直前まで睡眠中だったみたい。はい白。次!


 次に京子さん。

 うん? ……うん。昨日、浮気相手と長電話した後に寝てるね。ちなみに部屋は旦那様と別になる。それで朝までぐっすりね……。怪しい記憶は無い(?)。はい白。次……あれ? 次の人居なくない?


 あっるぇぇ? は! まさか、内部の人間が犯人ではなく、外部の人間の仕業!? 

 そうと分かれば防犯カメラの映像をチェックしなければ!


 しかし私の出鼻を挫くように環さんが提案する。


「やはり警察へ連絡いたしましょう」


 ま、まぁそうよね。ポリ公はあまり好きではないけれど、変に隠そうとして拗れたら面倒だし、仕方ないね。

 奥様はいい顔をしていないけど、強く否定できる理由がないから駄目だとは言えないみたい。

 決まりだね。

 環さんが頷く。


「反対意見が無いようですので連絡しますね」


 発言通り環さんがスマホで連絡し、それから程無くして警察が到着した。















 監視カメラにも侵入者が映っていないのか……。


 警察の人がカメラ映像をチェックしたんだけど、どうやら怪しい人は映っていなかったみたい。

 今、目の前に居る警察官の記憶を見たらそうなってた。

 となると外部犯の可能性は低い。

 だって藤川邸の監視カメラは、玄関や塀を死角無くカバーしてるんだもん。


「つまりあなたも藤川氏の死亡時に、アリバイが無かったということですね」


「まぁ、はい。そうなります」


 やべぇぇぇ。私も普通に疑われてるよ。こいつは早く解決しないとアカンかもしれない。

 でもなぁ。どうしたらいいんだろ?

 

 警察でもこれといった証拠を見つけられずにいるみたいだし。犯行に使われた凶器もまだ見つかっていない。私も探してはいるけど見つかんない。

 ちなみにカメラ映像には犯行時に中から外に出た人も映っていない。事件後、警察の指示で誰も外出していないので、凶器を外に捨てに行ってはいないってことね。もうどうしたらいいのよ。


「はぁ」


「どうされました? 何か思い出しましたか?」


 警察が疑いの目を向けてくる。

 

 やめて。ボロが出ちゃうから。


 このままじゃまずい。やむを得ず、プライドを捨てて決断する。


 ……仕方ない。私1人で解決するつもりだったけど無理だ。ここは本業の方にアドバイスを貰おう。


 私は自分のお部屋に戻り、そして……。


──テレポート!


 説明しよう!

 天才超能力者である私は、その気になれば地球の裏側にも一瞬で行けるのだ! 瞬間移動テレポートは子供の頃から得意なのさ!














 転移した私の目の前には一糸纏わぬ姿の幽日ゆうひ君が……。


 !?!?! え! なんで!? で、でも、あ、あれが男の人の……。


「うっわ。石川さんじゃん。何しに来たの? 俺、風呂入りたいんだけど」


 !?!!? わ、私と一緒にお風呂に入りたい(※言ってません)!? そ、そんな駄目よ。結婚するまでは……は! まさか、私は今プロポーズされている(※違います)!?


「ふ、ふちゅつかもにょでしゅ(不束者ふつつかものです)!」


「なんで1人で百面相してるの? 怪盗○二面相をリスペクトなの? バカなの?」


 あ、あれ? なんか会話が噛み合ってないような……。


「あ、あのー幽日君は私と結婚して、サッカーチームが出来るくらい子供を作るご予定なんですよね?」


「……超能力者って頭おかしいんだな」


 ……まさか私の勘違い? 恥ずかし……。


「う」


「う?」


「うわぁー! お嫁に行けないぃ! 責任取ってよー!?」
















 私たちは今、向かい合ってお茶を飲んでいる。


「ほー、なるほどなぁ」


 一通り説明を聞いてくれた幽日君は、顎に手をやり考えている。

 やがて考えが纏まったのか、手を下ろし話し始めた。


「俺もそうなんだけどさ、特殊な力は正確で強力だよ。でも、それによって受け取った情報をどのように解釈するかを決めるのは、どこにでも居る普通の凡人なんだ。それとも桜子さんは自分を頭脳明晰な天才だと思うかい?」


 お願いした通りちゃんと名前で呼んでくれる幽日君のことは嫌いじゃない。だからだと思う。凡人だと言われても特に嫌な気持ちにはならない。


「分からない……くらいだから、きっと凡人なんでしょうね」


「……まぁなんだ、俺が言いたいのは超能力で集めた情報をもう一度疑って見たらいいってことだよ」


 別に桜子さんをけなしたいわけじゃないよと付け加えた時の、バツの悪そうな幽日君を可愛いと思った私は、やっぱり天才だと思う。

 だから言ってあげよう。


「やっぱり結婚しよう!」


「嫌です」


 どうしてだろうか? 天才でも分からない難解な問題ね。




















 藤川邸に戻った私は、今一度情報をおさらいしている。


 先ず死亡推定時刻は午前1時から翌朝午前7時20分の間。

 そしてその時間にこのお家に侵入した者は居ない。この点はカメラ映像があるから、ある程度の客観性はある。

 問題は内部の人間の記憶だ。私のガチったテレパシーで見たところ、全員がその時間には睡眠中だった。


 …………睡眠中?


 私の中で何かが引っ掛かる。また思考を続ける。


 睡眠中と判断できるのは、意識が無い=記憶が無い状態又は非現実的な夢を見ている記憶がある場合だ。……あ!


 気付いた。気付いてしまった。私としたことが見落としていた。冷静に考えるとおかしい筈なのに……。

 記憶が入眠から起床まで一切無いのはあり得ない。

 何故なら、人は夢を必ず見る生き物だからだ。それを覚えていないことはあるけれど、夢自体は必ず見る。

 最近の研究では、レム睡眠、ノンレム睡眠いずれの場合も夢を見ている可能性があると言われ始めている。ノンレム睡眠時には夢を見ていない可能性もあるけれど、一般的には、人は一晩の睡眠で80分程の夢を見るらしいわ。


 加えて、とある仮説が私の中の違和感を更に大きくする。


──人は記憶を思い出せなくなっても、その記憶自体は脳に残されている。

 

 とある研究グループが論文の中で提唱した仮説ね。残念ながら完全な証明まではされていないけれど、私はこれを真実だと考えている。だって私が記憶を読むと、本人が本当に忘れたと認識していることも知ることができるんだもん。


 まとめると、「睡眠中=記憶が無い」は真とは言えない。正確には、「偶々レム睡眠に入らないような場合その他夢を見ない例外的な状態でない限り、睡眠中であると判断するには夢の記憶が必要である」となる。

 確かに睡眠時間が短ければ夢を見ないことはあるかもしれないし、睡眠に関しては未だ解明されていないこともあるけれど、原則又は指針として、現実に当て嵌めて考察してもいい程度の信頼性はあると私は見ている。


 だから6時間以上睡眠を取っていて何の記憶も無い孝介君はおかしい。京子さんと環さんには夢の記憶があるのに、孝介君だけは一切無い。これは不自然すぎる。

 

 でも、だからって旦那様を殺したとすぐに判断できるわけじゃない。

 判断するには情報が足りない。そう考えた私は更に広い期間の記憶を覗くことにした。


 天才超能力者の本気を見せてあげるわ!


──テレパシー!


──テレパシー!


──テレパシー!


 くぅ、疲れた。でもまだよ!


──テレパシー!


──テ、テレパシー!


──はぁはぁ、てれぱしぃぃ!


──あひゃひゃひゃひゃ!


 死ぬ。過労で死んでしまう。

 そもそも私はテレパシーが苦手なんだ。もっとこう「念力!」とか「瞬間移動!」みたいなアクション映画みたいな分野が得意なのよ。うぅ、頭痛い。


 でも怪しい情報を幾つか見つけることができた。


 1つ目。

 孝介君の記憶は虫食い状なの。なんか記憶が一切無い時間が頻繁にある。理由は分からない。それこそ睡眠中ではないような時間帯にも普通に記憶が無かったりする。うーん?


 2つ目。

 孝介君の食の好みはその時々によってバラバラだ。納豆大好き星人になったと思ったら、次の日にはネバネバ撲滅委員会に所属してたりする。意味が分からない。


 3つ目。

 京子さんは孝介君のことをかなり情緒不安定な子だと思っている。私もここで働いていて、多少は孝介君のそういう所を見ているけど、それは思春期だからだと思ってた。でも京子さんはそんな風には考えていないみたい。ふむふむ。


 4つ目。

 京子さん、環さんの認識では、孝介君が会話の内容を忘れることがよくあるらしい。これは1つ目のおかしい点とも矛盾しない。もしかして……。


 情報を整理していて、私はある推測を持った。

 間違っているかもしれない。今まで経験の無いことだから、ホントにただの予想にすぎない。

 でも私の予想が当たっているならば、全ての現象に説明ができる。


 それは……。




















 孝介君は多重人格なんじゃないかってこと。


 記憶が虫食いなのは、人格が交代していたから。食の好みが不安定なのも人格によって違うから。情緒不安定に見えるのは人格により性格が違うから。会話の内容を忘れるのは、必ずしも人格間で記憶を共有しているわけではないから。

 そして、犯行のあった夜に夢の記憶すら一切無いのは、朝に孝介君を動かしていた、つまり私が記憶を見た時の人格は犯行を行った人格ではなかったから。


 そうだとすると、更に仮説が出来る。多重人格の人格相互間では記憶の共有を必ずしも行うわけではないんじゃないかってこと。

 つまり、人格ごとに脳の記憶領域を分けている又は人格ごとの脳へのアクセス権限に制限がある。

 こう考えたのは、私が絶対の自信を持つ超能力を以てしても記憶を読めない時間があるから。

 テレパシーが苦手と言っても、それは精度が落ちる、間違った情報を受け取るということじゃない。単純に発動にもの凄く苦労するし、とっても疲れるってこと。

 

 記憶共有についての仮説が正しいならば、私のテレパシーは「人格というアカウントがアクセスできるフォルダにある記憶を覗く」と言える。そしてその対象になるアカウントは身体を操作する人格となる。


 つまり、必要なのは孝介君の中に居る犯行時の人格が主導権を握った瞬間に、テレパシーを発動している状態であること。


 結論! 私がすべきことは孝介君に対するテレパシー状態を可能な限り維持すること! ……やだなぁ。疲れるんだもん。



















 それから4日。私は頑張った。苦手なテレパシーを無理矢理根性で発動し続けた。お蔭で3キロも痩せてしまった。

 途中、テンションがおかしくなって夜中に幽日君のベッドに瞬間移動しちゃったけど、責任取るって言ってくれたから(※言ってません)むしろ結果オーライだ。


 話を戻そう。

 

 私は見つけたのだ。孝介君の中に居る犯人を。


 その人格は私にはよく分からない歪みを抱えていた。彼は猟奇的な異常思考を持っていたの。それで自分を愛してくれる父に愛情のお返しをした。

 それがこの事件の真相だった。


 言い訳になるけれど、孝介君が多重人格であることに、私を含め周囲の人間が気付けなかったのは、孝介君たちが多重人格であることを隠そうとしていたから。

 人格ごとにフォルダが違うのかもって思ってたけど、正確には共有フォルダと個別フォルダがあって、一定の相互認識、意思疎通はできているみたい。

 ただ、共有フォルダはごちゃごちゃしてて、ノイズも酷いからテレパシーではなかなか読みきれなかった。人格が交代した時始めて、混濁した同じ記憶領域へいろんな人格がアクセスできることに気付けた。それを私は共有フォルダと呼んでるってわけよ。


 そして凶器の隠し場所も分かった。

 なんと私が狙っている『最弱の四天王』の中にある隠し収納スペースに保管されていたのだ。台座が外れる仕組みだったの。そんなこと思いもしなかったわ。





















──愚鈍なる警察諸君へ 凶器は『最弱の四天王』の中にある。


 こう記した手紙を捜査本部へ送った。だって凶器のナイフに孝介君の指紋と旦那様の血が付いていたんだもん。

 孝介君にとっては、自分の指紋と旦那様の血は、旦那様との絆の証だったみたいで、敢えて洗ったりはしていなかった。

 記憶を見た私にはそれが分かったから、事件解決の為に凶器の場所を警察に伝えたのよ。

 そして私の目論見通り、事件は解決した。

 

 さっすが私! 天才ね!


 でも天才の私にも盲点があった。

 それは……。




















「証拠品として押収って、そんなのってないよー!」


 ぐぅ、私は正義の怪盗。人が本当に必要としている物を盗むのは流儀に反する。裁判に必要と言われれば手は出せない。

 く、悔しい。なんてツイてないのだろうか。


「まぁまぁ、人生そんなもんだって」


 幽日君……!

 

 トクトクとコーラを注いでくれた。なんて優しいのだろうか。きゅん。


「今日中に婚姻届を出しに行きましょう!」


「嫌です」


「」



 

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