緊張の会場入り

「AOIってどこにあるん?」

「え、JR静岡駅周辺って聞いたけど…」

セネバを出て歩き出した弦真が舞雪に尋ねるも、舞雪もよくわかっていないようだった。

「確か、駅から右へ行けばあるとかないとか」

「あ、はい。よくわかってないんですね」

弦真は苦笑まじりに舞雪に言う。


「お、あれじゃない?」

駅の前を右に振り向くと、高く聳え立った建物が目に入ってきた。

「AOIホール、7階、あれだな」

弦真は建物を指差して言った。

「それにしても高いな」

「そうだよね。ちょっと足がすくむ…」

二人は、ホールを見て少し萎縮していた。

「でも、私達は大丈夫。練習はやれるだけやってきたから」

深呼吸をして舞雪が自分と弦真に向けてそう言う。

「ああ、がんばろうな」

二人はお互い頷くと、建物の中へと入っていった。


「おはようございます。小花衣舞雪と弓波弦真です」

建物の7階で受付をする。

「おはようございます。雪姫様と騎士様ですね。

 お待ちしておりました。」

受付嬢はそう言って軽く会釈をすると、左手側を指さした。

「あちらの講堂が着替え用になっていますので、どうぞお使いください。

 着用スタッフがお待ちしておりますので、お着替えになってお待ちください」

舞雪は受付嬢に会釈をすると、弦真と共に、奥の講堂へ向かっていった。


「弓波様はこちらになります」

弦真は支持された小部屋に移動すると、昨日見に行ったスーツが用意されていた。

「おお、かっこいい」

隣に立っているスタッフの人がくすっと微笑んだのを見て、無性に恥ずかしくなった弦真は、いそいそと荷物を置いて、着替えを始めた。


「上着は後でいっか」

スーツのズボン・靴・ワイシャツを履いてみると、思ったよりも息苦しく、弦真はスーツの上着を着るのは後にしようと思った。

「ちょっと外出てきますね」

スタッフに声をかけ、弦真は廊下へと出た。

時計を見ると、8時30分。

本番まであと1時間半程度ある。

「ホールを下見するとするか」

そう思い立った弦真はエレベーターで8階へ上がり、本番コンサートを行うホールへと向かった。


「ひっろ!」

1階席がゆうに300席はある。

ここに観客が全部入ったら、と考えると弦真は恐ろしくなった。

「今日は観客入らないらしいからよかったぁ」

ほっと胸を撫で下ろす弦真。

「ついにこんなところで演奏するのか。緊張するけど楽しみだ」

自分自身に言い聞かせるようにそう言うと、ホール中央に置かれたピアノを一瞥して、弦真はホールの外へ出た。


もう少しで本番である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る