二人で紡ぐ音

 ――昼休み。

「一悶着あったものの、無事解決って感じなの?」

 鈴音はあっけらかんと言いながら、舞雪と弦真に向き直った。

「いや、そうなんだけど。まじあの場面で逃げる?普通。

 ひどすぎない?ねえねえ」

 舞雪は鈴音の足をかかとでグリグリしながらそう言った。

「でもその方が二人でゆっくり話せてよかったでしょ?」

 鈴音はニヤついた笑みを浮かべながら言う。

「黙秘権を行使します」

「素直じゃないんだからぁ。ツンデレはもう古いぞ?」

「うっさいアニヲタ!」

「アニヲタで何が悪いのよ!今や日本の文化ですぅ!」

 二人はひとしきり騒ぎ出した。


「まあその件については一件落着ってことでいいとして、『彼』が今日弦真君のところに来るって言うのよ。」

 鈴音の発した『彼』という単語には嫌味のようなニュアンスが含まれていた。

「『彼』って、奏太君?よね?」

 舞雪が恐る恐る尋ねると、鈴音は重々しく頷いた。

「ええ、そうよ。華姫の騎士、榊原奏太。

 遥華さんからさっき、『彼』が今日弦真君に会いに来るって連絡を受けたわ」

 鈴音がそう告げると、舞雪は勢いよく身を乗り出した。

「え、でも。でもなんで今日?弦真くんが私の騎士になったのは、つい半日前のことよ。それをなんでこんな早く知って・・・」

 舞雪はそう言いながら、自分の発言に思い当たる節があることに気がついた。

「そう。相手は遥華さんよ?この程度のことあの人が理解してないわけないじゃない」

 鈴音はなぜか誇らしげにそう言った。

「鈴音、一体どっちの味方よ」

 舞雪がうらめしそうにそう言うと、鈴音はさあね、と言って立ち上がった。

「ともかく、弦真君に会いに来ることは確定事項のようなものだし、念をおしておくしかないわね。榊原奏太。いや、華姫、桜庭遥華にきをつけなさい、ってね」

 鈴音はそう言って、手をふりながら音楽室を去っていった。

「そういえば、音楽室を今自由に使えてるわけだけど、音楽部とか吹奏楽部の練習場所ってどうなってんの?」

 弦真は放課後音楽室へきて早々、舞雪に尋ねた。

「ああ、そういえばまだ言ってなかったね。コレの力でなんとかなってるわけですよ」

 舞雪は右手の親指と人差し指で輪っかを作りながらそう言った。

「うわ、ゲスいこと言ってる・・・」

「お代官様ほどじゃありませんよぉ」

 舞雪は呆れ顔の弦真にそう言って、クフフと笑った。

「ヤッホ~」

 鈴音がドアを開けて音楽室に入ってきた。

「鈴音さん、朝何も説明しないで逃げるなんてずるいじゃん。

 こっちはすごいびっくりしたんだからね」

「ごめんごめん、悪かった悪かった」

 弦真が愚痴をこぼすと、鈴音は飄々とした態度でそう言ってのけた。

「ねえ、鈴音。弦真くんに敬語使わせないで話してるのはなんで?まあ同い年で敬語っての

 は変だからまあいいとしても、私より距離感近くない?

 私これでも弦真くんの姫なんですけど!」

 舞雪が鈴音に嫌味を言うと、鈴音は荷物を置いて舞雪の前に立ちふさがった。

「そんなこと言ったら、私だって姫なんだし、立場的には同じでしょ?

 お友達のお姫様の騎士君にフランクに接して欲しいって言うのの何が問題なのかしら?」

 一触触発な雰囲気の二人の間に弦真が割り込んだ。


「ちょっと待つんだ二人とも。そういえば聞く機会がなかったし、直接言ってなかったから今聞くけど、鈴音さんも舞雪と同じ姫なわけ?」

 ふふん、と言って鈴音は弦真にむかって胸を張って言った。

「私は宇野鈴音。『鈴姫』の名を賜りし、五人の姫のうちの一人よ!」

 舞雪は鈴音の肩に手を置いて微笑んだ。

「鈴音は今年で姫5期目なのよ。あの華姫と肩を並べる、皆が認める優秀な姫。いや、将来有望なピアニストよ」

「え、それって普通にすごいことだよね?」

 弦真が鈴音にそう尋ねると、鈴音は恥ずかしそうに微笑んで頷いた。

「君の周りには実はすごい人たちがいたのです、弦真くん」

「だから安心して私たちにわからないことは聞いていいのよ」

 舞雪と鈴音がそれぞれそう言うと、二人とも弦真に手を差し出した。

「「だからこれからも騎士として私たちを守ってね」」

 弦真は二人の手を取ると、はい、と大きく頷いた。


「そう言うわけで、今からちょっと講堂前行ってくれるかな?」

「なにが、そういう訳で…」

「い・い・か・ら」

 鈴音の有無を言わせぬその一言で、弦真は疑問を覚えながらも渋々講堂へ向かうこととなった。

「多分講堂前に、ロザリオを首からかけたパーマの謎の男の子がいると思うから、その人のところに行ってね~」

 と、舞雪からこれまた謎な説明を受けた弦真だった。


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