Q・Qと騎士

 ――1日明けた月曜日。

 朝いつも通りに起きて、家を出ようとした時に弦真はあることに気がついた。

「…今日って、練習あるよね?」

 と。

 普通なら電話や、メールなどで連絡を取ればいいのだが、弦真はあることに気がついた。

「連絡先わかんねぇ…」

 致命的であった。

 朝少し葛藤があったものの、ついいつも通りに家を出てしまった弦真は音楽室に向かった。


「お、おっは~」

 弦真が音楽室へ向かうと、何事もなかったかのように鈴音は音楽室で弦真を待っていた。

「お、おはよう」

 弦真は、鈴音がきていたことに少し驚きながらも、音楽室に入った。

「そういえば、鈴音さん」

 弦真は、椅子に座るとカバンから携帯を取り出した。

「ライン交換しない?」

「あ、そうだね。いいよ~」

 弓波弦真、高校生活初めてのライン入手であった。


「そういえばさ、昨日渡したDVD見てくれた?」

 鈴音が鞄から楽譜を取り出しながらそう尋ねてきた。

「あ、うん。櫻庭さん?の演奏、すごいとしか言いようがない感じだった」

 弦真が昨日のことを思い出していうと、鈴音は満足そうに頷いた。

「でしょでしょ。すごいよねあの子。同い年とは思えない」

「同い年なの!?」

「厳密には同年代か。私やユキ、弦真君の一個上ね」

「だとしてもすごすぎない?まさに『神童』って感じで」

「そうね、でもそんな彼女と連弾できるっていうもっとすごい人もいるんだけどね」

「そんな人いるんですか!?ていうか櫻庭さん連弾もしてるんですか!?」

 弦真は終始驚きっぱなしだった。

「まあ彼女はなんでもできるからね」

 鈴音は、大きく一回手を叩いて言った。

「ほらほら、支度して?練習するぞぉ~」

「はーい」

 いつの間にか鈴音との練習に慣れた弦真はすくすくと演奏技術も上達していたのだった。




 ――四日後の金曜日。

「おっは~!」

 一週間ぶりに病院生活から解放された舞雪は、朝早く起きると(これが原因)、急いで支度をしてこの音楽室まで走ってきたのだった。


「退院おめでとう舞雪」

「おかえりユキ~」

 弦真と鈴音がそれぞれ舞雪に声を掛ける。

「ありがと~。てか、そういえば、二人して初日以降一回も見舞いにきてくれなかったのなんで?」

「「・・・あ」」

 鈴音と弦真がそれぞれ顔を合わせると今気がついたとばかりにポカンと口を開けた。

「薄情者どもめ!」

 舞雪は、ポカポカと二人の頭を叩き出した。

「揃いも揃って私よりピアノの方が大事なのかぁ~!」

「「・・・すみませんでしたぁ!」」

 二人は揃って綺麗に頭を下げた。

 それはもう、見事な謝罪であった。


「じゃあ、私の見舞いをすっぽかしてまで練習してた演奏を聴かせてみてよ」

 舞雪は案外根に持つタイプだったようだった。

「弦真君すごい吸収早くてさぁ。これなら『騎士』目指せちゃうんじゃない?」

「『騎士』?」

 弦真が初めて耳にする単語を鈴音に聞き返した。

「・・・鈴音?」

 舞雪が低い声で鈴音の名前を呼ぶと、鈴音は口をつぐんだ。

「ごめん弦真君。今から舞雪から説明あると思うからよろしく!!」

 そういって鈴音は鞄を急いで取ると小走りで走り出した。

「また放課後ね~」

「逃げるなぁ~!」

 舞雪の叫び声は鈴音の遠ざかっていく背中には、悲しくも届かなかった。

 舞雪はピアノの周りに置かれた椅子にもどってくると、相槌は極力いいからね、と言って話し始めた。

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