第13話 おかあさん

うざい

キモい


そんな風に

いつも遠ざけていた


鬱陶しくて

同じ空気を吸うのもイヤで


なのに


どうしてかな

空にのぼっていく煙を見ながら

ぽっかりと胸に穴が空いたように感じて


誰かが埋めてくれると思っていたよ

他の誰かが もっともっと大切な人が


真白な灰になったのを見ても

涙も哀しみさえ感じられなかったのに


どうしてなの

世界中のどこを探しても

この胸に空いた穴にぴったりとはまる

ピースが見つからないんだ


苦しくて 辛くて

だけど その理由を認めたくなくて

だから 余計に苦しくて


でも 気づいてしまった

気が付いちゃったよ


半ば強制的に参加させられた一周忌

今の自分の年齢の半分しか暮らした記憶のない家

そこにあったのは小さな小さな子供用のおもちゃ箱


かみさま

これは罰ですか?

いまごろになって

もう決して手の届かないところへ行ってしまったのに

いまさら


おもちゃ箱の底に隠れていた母子手帳と一通の手紙

どうして知っていたの

なぜこんなものが残っているの

知らなかったはずなのに

元気になるんだと言っていたのに


フライングだよ

だまし討ちだよ


私には未だ

手紙に書かれた命は宿っていないし

大切な人にも会っていない


胸にはぽっかりと穴が空いたまま

なのに


頬を伝う熱い水はなに?

じわり、じわりと埋まっていく

この感覚はなに?


どうして愛せるの

どうして愛せたの


こんなわたしを

こんなわたしを


もう一度

もう一度でいいんです


たった一度だけで良いから

もう一度


その腕の中で眠らせて下さい

手紙の中で笑っていないで

私のところへ還ってきて


この胸に空いた穴は

きっと幼い頃に感じた

あのぬくもりでしか

埋めることはできないから


ごめんなさい

謝って済むなら

何度だって謝るから

土下座だって何だってするから


もう一度

もう一度だけでいいんです


神様 どうか


私に還して下さい

あのぬくもりを

そして ちゃんと言わせて下さい


産んでくれて有り難う

そして

さようなら……。

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