天才お姉さんが親友のお嬢様とインテリメガネと近未来都市で暮らす話

@kakoops21

寝起き狩りの朝

「え!?今日から会社行かなくていいんですか!?」


衝撃の一撃すぎてオウム返ししてしまったぞ。私としたことが。


寝起きどっきりかな。

そう言いたくなる衝撃の通信が入ったのは、カーテンを開けた窓から早朝の色をした都市照明が差し込みだしたころだった。


私の朝は起きて歯を磨き、うがいをして台所で水を一杯飲み干すところから始まる。美は一日にしてならず。寝起きに常温の水一杯が美と健康の秘訣だと猪股先生も言ってる。


衝撃の一報は喉を潤し顔を洗い髪を整えながらキッチンマスターにモーニングを入力する、いつものルーティンのさなかに突然やってきた。


腕に振動が走り、反射的に目をやると小型液晶に「通信」の文字が緑に光っていた。

音が鳴る方がわかりやすいという人もいるみたいだけど、個人的には音が鳴るのってプライベートへの割り込み感が強くて嫌いなんだよね。振動でもびっくりさせられるけど、何かしら刺激がないと気が付けないから仕方がない。


タップすると空中にポップする中年男性の濃い髭面。

むさい。肉体労働のおじさんの顔が今日の朝一か。もう少し画面から離れて通信してほしいなあ。おじさんの顔を画面いっぱいで眺めても楽しくないです。

それに髭ももっと剃ってくださいよ。そんなんだから茉莉ちゃんに露骨に嫌がられるんですよ。似合ってないかと聞かれると、正直個人的にはすごい似合ってると思う。でも娘の目から見るとむさくて汚いになっちゃうみたい。まあ茉莉ちゃんはお年頃だからね。


そんな諸々を飲み込んで朝の挨拶をしたところ、君、今日から会社来なくていいよ、である。

古典的セリフですら明日からなのに……。


「どうして朝に連絡が来るんですか?」


「急なことで連絡を忘れちまったんだ、すまん。もう家を出るところだったか?」


「まだまだ出ませんけど……いったい何が?」


出るどころかまだ朝飯前ですよ。朝ごはん食べて、軽くシャワーして美容もしないと出られないんです。化粧はろくにしないけど一応女なんで。


起きてるからと言ってすぐに出かけると思わないでくださいよ。大体映してないですけど私まだパジャマなんですけど。通信画面には通信用に着替えて撮った画像を使っているだけです。

でもこれのおかげでトイレにいてもお風呂にいても、気にせず映像通信に出られるのは便利でいいよね。


自分はパパッと顔洗って終わりだからってまったくもう。しかも水で。水だけだよ信じられない。この時代に水だけで洗顔する人なんか適当なおじさん方くらいで他にそういないよ。

変に意識高くて間違った知識を信仰している人とかならどこかしらに必ずいるけど。


それよりも私、なんかやらかしたっけ、昨日から今日の間で。でもやらかすくらいいつものことだし、そんなことくらいで首にはならないよね。注文のあった強化外筋骨格の改造やりすぎたかな。でもそんなこといつも平気でやっていることだしねえ。


それとも会社でなんかあったんだろうか。だったら水臭いなあ、私も手伝うのに。

いや、むしろお前が関わると大事になるというか、するから来るんじゃないぞっていうことかな。納得はいかないけどありえる。


「実はお前の力がどうしてもいる、と頼まれてな。出向してくれ」


「いいですけど、出向ですか。どこの誰です」


よかった……。クビではないことが確定した、生き残った。この会社にずっと務めてきたんだ。クビになったら私でも動揺しちゃうよ。

いやこんな雑にクビにされることはないだろうと思ったけど。会社に何事か起きたわけでもないみたいだし、とりあえずは良しとしよう。


しかし急な話だね。まぁ頼まれてるっていうなら仕事はするよ、金が出るならね。でもこんな突然の話を、社長が通すことはそうないと思う。しかもこれは私に関する話でしょ。

そんな無理を社長が聞く相手っていったいどこの誰なんだろう。いやどこの誰でも、そんな無理を通さないようにかばってくれるのがこの社長だ。


微妙なお年頃の娘さんたちでも、お父さん嫌いなんて絶対に口にしないくらい立派な人なのだ。


私がこれまで幾度も迷惑かけても、しょうがない奴だと笑って受け止めてくれる大きい人だ。物理的にも最近太っ腹になりつつあるけど。

若い時より現場の時間は減ったのに、食べる量は変わらないどころか増えたのが良くない。

桜花ちゃんが料理に目覚めて意欲的に試作したり、あれもこれも食べてほしいってお願いするからつい食べちゃう気持ちはわかるけどね。


「お前の方がよく知っている相手だ。昨日の夜にいきなり頼んでくるような、な」


私の方が知ってる相手……。いきなり無茶振りしてくる……。


「あっ」


「そうだ、あのお嬢ちゃんだ。本人が直接説明しに行くと言っていたから、今日は家で待機していてくれ」


すまんな、と謝られるけど相手が想像通りなら、むしろうちのがご迷惑をおかけしましたって気分。

急な連絡をしたのも相手の方みたいだし。社長が連絡忘れるくらいだから、よほど遅い時間か適当な連絡だったか。両方ありそう。

どちらでも迷惑なことに変わりはないので、どちらにせよ申し訳ないし恥ずかしい。


「わかりました。でも私が受け持っていた分の仕事はどうするんです?」


「適当な奴に割り振るから心配するな。お前を指名してきた仕事でもない」


いきなり追加の仕事が降りかかってくる同僚のみんな可哀そう……。がんばれがんばれ。


私が唐突な追加ノルマを押し付けられる同僚に祈りをささげていると、ふと社長の顔が引き締まった。


「会社として受けても問題なく、知らない相手じゃないから依頼を受けた。だがもし……お前が嫌だったら、断っても問題はない。わかったか」


「社長……ありがとうございます」


どうも私に断りなく依頼を受けたのを気にしてくれたらしい。相手が私の友人で、私が受けるだろうとわかっているのに。

受けたといっても、おそらく正式に会社として受理したわけでもないだろう。それでも私の意志を無視した形になってしまったことを悔やんでくれる。


自然と感謝の言葉が口をついて出た。


ふんっ、と鼻息を鳴らすだけの姿はまさにツンデレ。頑固親父感がすごい。事実頑固な親父だけど、もう少し柔らかい雰囲気になった方がいい気もする。

受けたかどうかの連絡だけ後で入れろと言い残して通信は終了した。照れくさいのだろうか。そうだろうな。社長だもんね。


ふと画面が閉じていくのを眺めていると気が付いたが、あの人もう作業着来てる。この時間から職場に向かう気だろうか。あの人は通信用の画像使ってないはずだ。今実際に映像として動いて話していたわけだし。


おせっかいですけど、もう少し家族の時間を持った方がいいですよといった内容のメッセージを送っておく。娘さん二人とも難しい年頃だし、若い娘と話す内容も見当たらないんだろうけど仕事に逃げてはいかんでしょ。

桜花ちゃんも茉莉ちゃんも自分からは人に甘えにくい子だし、私の方から言っておこう。こういうサポートは姉貴分の役目だもんね。


あとそれはそれとして、朝が早すぎる。

一番上の人間にそんな朝早くから働かれると、下も急がないといけない気になる。

なのでむしろ一番最後に来るくらいにしてほしいんですけど。うちの職場はおっさんかそれ以上ばっかりだから、朝の支度に手間取らない分みんな早いけどさ。

どいつもこいつも人に会うことほとんどないからって、汚くだらしない格好して出社してくる。もう少しこう清潔とか身だしなみとかの文明を身に着けてほしい。

休日はちゃんとした格好で街中出たりするくせに、仕事の日はだらしない格好するっておかしくないか。普通逆でしょ。


社長は娘さんがいるから気を使ってきちんと整えた格好しているのにね。

ただ始業時間は一応決まってるんですから、時間通りに出社してほしいんですけど。社長が率先して始業前に着て準備していると落ち着かないです。


そんな感じにメッセージを送り、端末を閉じて軽く一息つく。

淡い光を浮かばせる調理機がセット途中でこちらを見守っている。早くしろよと言いたげだけど、予定変更になったしちょうどよかったかな。





ぽんぽんとわずかに浮いた立体映像に触れて入力を消去する。


これから来る依頼者に会って話をすれば今日の仕事は終わり。しかも来るのはおそらく友人。だから実質もう今日は休日でしょ。

休日には休日の食事がある。休みの日は朝食から専用のセットで休みを楽しまないと。一番いいのは朝寝坊を楽しむことだけど、さすがに寝なおすわけにはいかない。


キッチンマスターの画面を切り替え、休日用に登録したメニューを出す。ずらずらずらっとかなり長いリストで目が滑る。あれこれ思いつくままに登録していった弊害だ。

降ってわいた休日だしどうしようか。昼食との兼ね合いがあるし悩みどころ。と言ってもこう長いリストだと選ぶの面倒だな。


「あれ、そういえばいつ来るんだ」


ふと疑問が漏れた。何時に来るとか聞いてなかったけど、教えてくれてないということはわからないのか。そのうえで待機してろと言われたということは、つまりそういうことだろう。どんだけ適当な連絡したんだろ、あの子。


とりあえず昼も家で食べると仮定した方がいいかな。そうなると今朝はこんなもんでいいか。

じっくり選ぶのも手間だし、パッと目についたセットを選び調理開始を押す。前面のディスプレイに青い光が躍る。鉄色の本体に鮮やかに光る色彩の対比が美しい。

やはり外観はシンプルな方が機械味があっていい。余計な装飾や色付けもなし。四角で固く、かつ滑らかで鈍色。そこにこだわりの高画質サンプル画像や文字が輝くというのがいいんだよ。


美的感覚の違いでデザイン段階でもめたけど、私の主張する余計な装飾を排したシンプル型は十分な売り上げが出ている。

やっぱりわかる人にはこの良さがわかるんだよ。わからない人のことは知らない。


低い唸り声をあげながら機械が稼働するのを見ていると、先ほど思い浮かべた子の顔が浮かぶ。


「桜花ちゃんのところも今頃朝ごはんかなー」


桜花ちゃんのために私の美意識とは違うものの、可愛い感じに仕上げたキッチンマスター・メシウマちゃん。女の子という設定なので、リボンみたいなパーツをわざわざ外装につけたりして可愛いアピールした作品だ。

可愛いと気に入ってくれたのはいいけれど、仕事はちゃんとしているだろうか。料理好きな桜花ちゃんの為だけに設計図を引いた、当時最新型だった彼女も今ではさすがに型落ちだろう。

とはいえ最新のものと比べて性能で劣ることはそうないはずだ。


最新技術と最新製品とは違う。


最近は小型化に機能の削除、表面デザインや機械全体の形体の変化とかばかり。よくて新機能の追加だけど、それ本当に使うのと聞きたくなるような機能が多い。

まあ小型化や様々な家庭の空間に合わせた形状の変化も大事な事ではあるけどね。私にはあんまり興味ない部分だ。

調理機能という一点で見れば、メシウマちゃんは今でも第一線のはず。少なくとも一般家電量販店で見る分には。


「おっでき、た?」


チン、と軽快な音を立てて調理終了を知らせる調理機とほぼ同時になるインターフォン。

こんな朝早くから郵便でもないだろうし、いったい誰だろう。


ペタペタとフロアシートに裸足の引っ付く音を鳴らしながらリビングに向かう。端末で出てもいいけどそんなに距離ないから直接出よう。


服は……まあいいか。こんな時間に訪ねてくるのはかなり親しい相手か、あるいは何かのロボットでしょたぶん。親しい相手ならパジャマでいいし、ロボットかそれ程親しくないならインターフォン越しでいい。こんな時間に来て中に入れろとか、相当親しくないとありえない。

そして家まで来るような知り合いは女しかいないから、誰が来ても恥ずかしい思いはしないでしょう、たぶん。というか本当に誰だろう。


仄かな光が差し込む部屋を横断する。私は冷たい床は嫌いなので常に床暖房をいれている。おかげでこうして素足で歩いていても温かい。私部屋で靴下履くの嫌いなんだよね。

部屋の明るさは照明をつけない薄暗い程度が朝夕は好み。窓から都市照明の疑似太陽光がぼんやり部屋を照らし、室内が影絵のようになるのが何とも言えず風情がある。

こんな薄明かりの中だと、インターフォン用モニターが来客を告げる光ですらまぶしいくらいだ。


「は?」


休日ということでそんな風にまったりしながら歩いていたが、モニターをつける前に玄関で開錠音が鳴る。認証システムがクリアされ、縦開きの空圧ドアがぷしゅんと乾いた音を立てる。


「なんで? ヴィクトリア?」


『私ではありません』


自慢だけど私の部屋の鍵はとても強い。軍事基地並みかそれ以上という自負がある。認証システムは自作プログラムでハッキングを防止。指紋や瞳など生体認証は、偽装認証を受け付けない判別プログラムも別口で組んで入れてある。センサー類など追加設備も自作して設置した。


その上に物理鍵も必要という自分でも面倒くさい代物だ。建物や扉自体の強度も軍用以上で、破壊にはそれなりに大掛かりの準備がいるくらい。

パワードスーツでもそうそう破壊はできないし、苦戦してちんたらやっていたら自作の防衛システムが、防御装甲を纏ったスーツ相手でも苦もなく排除するだろう。


こんなとこに泥棒なんか入らないから無駄な気もしょっちゅうするけどね。特にトイレが近い時と雨の日。さっさと開いてよってイライラじれじれする。

そも部屋の鍵以前に、周りを色んな所属の監視チームがいっつも警備しているわけで。そんな警戒の中で入れる泥棒なんかフィクションの中くらいにしかいないと思う。

でも心配性な友人たちが顔色変えてうるさく言うから、仕方なくつけた鍵が……なんか勝手に開いているんですけど。


「ちょ、ま」


「お邪魔しますわよ~!」


……焦ったんだけど、これは心配いらないやつですね。

道理でヴィクトリアが何も反応しないわけだ。知らない人だったら教えてくれるはずだから、変だなとは思ったんだよ。

ヴィクトリアの目、というか監視カメラ等の各種センサーをごまかすほどの相手という可能性もなくはなかったけど、違ってよかった。


早朝だというのに、先ほどまでの静寂を切り裂くバカでかい声。家の中はともかく外にも絶対聞こえてるよこれ。まあご近所さんなんかいないから、近所迷惑も何もないけどね。

仕方ないので、ドアが開けられた後も点灯しているモニターを一押しして消してからぺたぺたと玄関に向かう。急ぐ相手でもないからゆっくりと。


リビングのドアを開けて角を曲がると、勝手に電気をつけられて明るい玄関に人影が二つ。

なにやら一塊になってもぞもぞしている。何やってるんだか。うちの玄関は一般家庭の比ではない広さなんだから、そんなごっちゃにならなくても。


「ご機嫌よう!」


ご機嫌なのはそっちでしょ、と言いたくなる笑顔で片手をあげて挨拶してくる見慣れた笑顔の女の子。豪華で高価な宝飾品にすら見える金の巻き髪が今日も眩しい。

いや、女の子っていう歳でもないのか。同い年だし。私自分で自分を少女っていうのはもうちょっと抵抗感じるかも。


はいはい、おはようと片手をあげると頷いてまた下を見てもぞもぞしだした。どうも靴の紐を緩めようとしているみたいだ。

もう一人はもう片足の靴の紐を緩めてやっていた。


ああ、それでそんな塊になってたのね。


私が来たのに気が付いて、しゃがみこんでいた女も振り返った。


さらりとした長い黒髪が目の前を横切り、一瞬白いうなじや耳が垣間見える感じが色っぽい。

この振り返りで長い髪が揺れるの好きなんだよね。ストレートロングならでは。私の癖毛ではこうはいかない。

私の髪って結んでないと、もさぁって毛先に向かって大爆発するからなあ。空間面積を圧迫する感じ。手を突っ込んでもさもさできる。


「おはようございます。突然こんな早朝にお邪魔してすみません」


これだよこれ。こういうまっとうな挨拶。これが必要だったんだよ。


「おはようございます。こんな朝早くから大変ですね」


いいえとにこやかに返しているが、大変でないはずがない。

ご機嫌縦ロールちゃんの専属秘書なんかをやっていると、こんな目にあわされてしまうのだなあ。

社会が起き出すような時間帯に人の家に押しかけるということは、その前から準備がいるのだから。給料は高いとはいえ、仕事でも私はやりたくないな。

私朝早いの嫌い。自然に目が覚める分にはいいんだけどね。起きなきゃ、というのが嫌なのよね。


ましてこの黙っていても見た目がうるさい子は、ごく限られた最上層の住人だ。この最下層まで来るには相当かかる。まあ来るだけならしょっちゅう来ているけど、こんな朝早いのは稀だ。

朝早くは移動手段も限られてくる。特に都市の表層からその下層への移動は一定の時間帯以外はやや手間。


そんな手間暇かけて何でこんな時間に来たんだろう。

そんな疑問を持ちつつまだもぞもぞしている姿を眺めて待っていると、相変わらずの綺麗で上品な仕立ての服が目に入る。今日は藍色系か。

こうして絶対お高いだろう服を自然と着こなしている姿を見ると、やっぱり上流階級の人間なんだって感じする。けど、これでもおそらく気軽な外出用なんだもんなあ。

何故かいつもよりいくらかランクが上の物に見えるけど、いつものですら私には買う気もならない、見るからに豪華で高価な服にアクセサリーだ。

そういったものを当然に身につける世界の住人なのだ、これでも。いや、逆か。むしろ上流階級だからこんな風に無茶苦茶になってしまったのか。


「会いたかったですわ~!」


ようやく長い編み上げブーツが脱げて飛びついてくる。

会いたくても会い方があるでしょ、と言ってやりたいけどそこまで正直に言われると無下にもできない。言葉もそうだけど、顔が雄弁すぎる。

スポーツの野外ナイター用の照明張りに光量を放っていそうな笑顔だ。仕方ないので受け止めてあげた。だって翡翠の瞳に星が輝いてるんだよ。


ふにょんという弾力が激突の衝撃を緩和する。いいもの食べてるからおっぱい大きいな。


何枚かの重ね着の上からでもわかる柔らかさ。私には劣るものの、かなりの質量がお腹辺りにぶつかって来る。

本人の顔は私の自慢のお山に埋もれて出てこない。そこで深呼吸するのはやめなさい。すーはーすーはー深呼吸するものだから、吐息がパジャマの中に入り込んで肌寒い。

臭くはないと思うけど、まだ朝のシャワーしてないしちょっと恥ずかしい。私は朝ごはん先に食べてしまう派なんだよ。シャワーは着替える直前がいい。


「ごめんなさい。インターフォンは押したんですけど、待てないと言って勝手に……」


簡単にその場面が想像できる。まあ勝手知ったる他人の家だしね。


「いいよ。合鍵はあげてるし、システムに登録もしてあるんだから」


二人とも物理鍵を渡して、認証登録済み。だからいつでも入ってきてもいいと言えばいい。ただ鍵開けて入ってくるならインターフォン鳴らさないでよ。

それが鳴ったのに勝手にドアが開くから焦ったんだよ。待てないっていうほど待ってないじゃん。ほんの数秒後にはもう開けてたじゃん。

まあね、自分の家だと思っていいよとは言ってあるけどね。二人用の着替えだとか生活用品も一式置いてあるけどね。ただそれにしたって、時間はもう少し考えてほしかった。来るのはわかってたけど、いくらなんでも今とは思わなかったよ。


「久しぶりに生身で会えて私も嬉しいよ。ほら、とりあえずあがって」


お邪魔します、と軽く頭を下げて上がって来るのに比べてもう一人はというと。

未だに人の胸元に顔を突っ込んで、ふんすふんすと鼻息を鳴らしながら抱き着いている。手足全てを使って完全にぶら下がっていられると邪魔くさい。

この子はさあ……と思いつつも、久しぶりの再会なのは事実だし私も寂しかったのは確か。だから好きなようにさせているとはっと何かに気が付いた様子で顔をあげた。


「あなたなんでまだパジャマ着てますの? だらしないですわ!」


「は?」

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