第13話

 目が回るのが治った後、心配しすぎな薬屋が俺をおぶって帰ることになった。

 そしてその帰り道で俺は固有スキルの詳しい説明と討伐作戦について話した。


「なんでお前がそんなイロモノスキルを持っているのかについては聞かないでおいてやるよ。詳しい効果聞いてなかった俺も俺だからな。まあ、初めから持ってたし、今更だろ」


「ありがたい。うまく説明できないから」


 っていうか、異世界人って言ってもやばいやつだと思われるだけだろう。

 それ以前に男であることすら言って無いし。女として認識されている以上言うのは憚られる。


「で、その変態スキルは、どのくらいまで調節できるんだ?」


「調節って?」


「そのスキルによる能力値?への割り振りはどのくらいの精度でできるのかって話」


 前にも言ったが、この世界にはステータスを見る方法がない。

 だから能力の値って考え方があまりピンと来ないみたいだった。


「速く発動するなら今のところは五割が限界。ゆっくりやれば二割ずつぐらいまでは行けなくもない」


 一ヶ月でようやくこれだから、これを使いこなすには相当な時間が必要だろう。

 なんでこんな変なスキルを選んでしまったのか……?ロマンかな。

 ロマンには勝てないのだ。仕方ないね。ロマンだもんね。


「ふうん……まあそれは、おいおい練習って感じだな。次だ。あの妙ちきりんな名前の自爆技」


「み、妙ちきりん……?そんなに名前変?」


 そんなにダサいか?

 いやたしかに俺はネーミングセンスあるとは言いがたいけど、そこまでいうか?

 頑張って名前、考えたのに。


「いや変とか言う以前に言葉の意味がわからない。あ、そうそう、あのなんたら回しとかなんとか。あれ、しばらく使用禁止な」


「……なんで?」


 この世界にはそもそもだるま落としもコマもないみたいだった。それなら仕方ないかな。

 っていうかその後の言葉の方が今は気になる。

 禁止?まじかよ。せっかく考えたのに。


「使用後に立てなくなるような技なんて緊急時使えないだろうが。そんな技覚えてどうすんだよ」


「ラストスパート的な」


「うるさい。いちいち魔物殺した後に休憩したら効率くそ悪いだろうが」


「まあ、それは……たしかに」


 金稼ぐ効率が下がるのは辛いな。

 お金が全てじゃないよって言葉は、お金を持ってるから言えるのだ。借金持ちの俺からしたら金稼ぎはむしろマストな案件だといえよう。

 おがねほぢぃ……


「後、明日は休みにするから」


「そこまでするほどじゃない」


「いーやするほどだね。そもそも体格的にお前がこのサイズのハンマーを持つのはどう考えてもおかしいんだよ。俺ですら持ち上げるのがギリギリなんだから」


 ちなみに移動中の現在、ハンマーはズルズルと引きずって歩いている。

 歩いた後に深い線が引かれていて、いかにこの武器が重いかがわかる。


「おかしいことをしてる以上、体のどっかに負担がかかっててもおかしくない……どころか、かかってないとおかしいぐらいだ。むしろなんで一ヶ月何もなかったのか不思議だよ」


「それは固有スキルがあるから、筋力が上がってて……」


「筋力値が高い奴ってのは普通はもっと筋肉質のはずだ。俺もそうだ。そうじゃないお前の体がこんなクソ重い武器を思いっきり振り回せてるっていう矛盾があるだろ?それのせいで今後何が起こってもおかしくなくて怖いって言ってんの。なんなら今ここで腕とかが爆発四散しても納得できるわ」


「そんなに?」


「そんなに」


「……わかった」


 そんなに言われてしまえば、引き下がらざるを得ない。

 これでも薬屋は先輩なのだ。先輩の忠告はちゃんと聞かなければな。

 そういえば、この世界に来てから戦闘ばっかりで街を巡ったりしていない。

 明日はぶらり町歩きでもしようではないか。


「まあ、途中でドロップアウトされるのが一番困るから、体は大切にってことだ」


「うん。…… ところで、話は変わるんだけど」


 俺はこの少し真面目な話の流れで、今まで気になっていたことを聞いてみることにした。


「なんで武器買ってくれて、一緒に狩りにきてくれてるの?」


 正直、ずっと疑問だった。

 悪意があるようには見えないし、とはいえ利点があるとも思えない。


 武器の代金を肩代わりして借金を払い終えるまで冒険の手伝いをする、なんて薬草納品をしてるような見ず知らずの女の子に持ちかけるような話ではそもそもないのだ。

 それに、今おぶわれてる状態でも下心とかは感じない。


 だから、わからない。

 なぜ俺に話を持ちかけたのか。


「……俺なりに考えあってのものだ。時が来たら話すよ。それに、お前に嫌な思いをさせるようなことではない」


「……本当に?」


「ああ。なんなら宣誓書でも書いていいぐらいだ」


「じゃあなんで教えてくれないの?」


「……俺が、お前を完全に信用できるまで、待ってくれ。危険かもしれないやつを、選ぶわけにはいかないんだよ」


 薬屋の言っていることはあんまり、よくわからなかった。

 ただわかったのは、まだその時ではないってことだけだ。

 時が経てば、俺を信頼してくれればきっと言ってくれる。


「わかった。信用してくれるまで、待つ」


「……ありがとう」


 秘密を責めることはできなかった。

 俺だって、こいつに隠していることがあるのだから。

 内容はまあ、本当は男なんていうくだらないものかもしれないが、隠していることはたしかである以上俺からその秘密を知ろうとすることはできない。


 そのうちきっと、どちらもなんの憂いなく話せるようになる日が来るだろう。

 ……来るといいなぁ。

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