第10話

 またしばらくしたある日の朝、俺はいつものようにギルドで薬屋を待ちながらキョロキョロと内装を見ていた。


 もちろん、鉄筋コンクリートなんてこの世界にあるはずがなく、木と煉瓦造の建物だが、かなり立派なつくりをしている。

 建築に魔法が使われてるのかも知れないが、かなり広い空間がある。

 匠の技ってやつだろうか。


「おう嬢ちゃん、何見てんだ?」


 テーブルに座っていたスキンヘッドの怖い顔したおっさんに話しかけられた。


「ギルドの中、広いなって」


「そりゃあ、この建てもんは有名な建築家と石魔法使いの合作だからな。この街一番の……おっと一番は城だな。だが、二番めに素晴らしい建築物だぜ」


「へぇ……城?」


 この街は大きいが、首都ではなかった。城なんてものはなかったはずである。


「城ってのはな、この街では領主様の館のことなんだよ。ま、本物の城に比べたらちゃちなんてもんじゃねぇけどな?」


「なるほど」


 ここら辺のローカルルール的なものも神様wikiは教えてくれないな。

 今度また質問マシンガンを薬屋に炸裂させるとしよう。


「そういや嬢ちゃんは最近灼熱のガキといっしょにいるとよな?どんな仲なんだ?」


 灼熱のガキと?誰だそいつ。また神様wikiの情報不足だろうか。


「灼熱のガキって、誰?」


「知らないで一緒にいたのか……ロートのことだよ。『灼熱の剣鬼』って呼ばれてんだ」


「しゃくねつのけんき」


「ああ。いわゆる二つ名ってやつだな。そこそこ腕がいいんだぜ?あいつ」


 灼熱の剣鬼ってめっちゃ痛いな。ウケる。

 来たら目の前で呼んでやろ。


 ってかあいつの顔のどこに鬼要素があるのだろうか。むしろむかつく優男である。

 それにそんな強そうに見えないし。


 まあ、出てくる魔物が弱いから力をセーブしてるってのもあるのかもしれないが、それにしてもカリスマ性が無い。

 もしかしたらイケメンでそれを補っているのかもしれないが、中身が男の俺からしたらやっぱりただのぶん殴りたくなるぐらいの優男である。


「なんで一緒にいるか……行き当たりばったり?」


「なんだそりゃ」


「人生なんて、そんなもん」


 おじさんはニカッと笑った。


「クックック……まさかチビガキに人生を説かれるとは思わなかったぜ。……お、灼熱のガキが来たぞ」


「ん、ありがと」


「こちらこそ、面白かったぜ」


 あのおじさん、怖い顔の割に面白い人だったな。

 人は顔じゃないってやつだろう。ギルドの謎も解消したし。


 俺は薬屋の方に向かって行って、ニヤニヤ笑いを必死にこらえながら挨拶をした。


「おはよう。灼熱の剣鬼くん」


「おはよう……ってそれ誰から聞いた?」


「そこにいる怖い顔のおじさん」


 おじさんの方を見ながら言った。


「あのおっさん俺が恥ずかしがってることをわかっててこいつにいいやがって…… 恥ずかしいし、お願いだからそれで呼ばないでくれよ」


 やれやれと、薬屋は肩を竦めた。


 やっぱり、灼熱の剣鬼なんて、柄じゃないなこいつは。


 火魔法だってちゃんと見たことないし。


 魔法といえば、俺はまだ魔法が使えない。


 基本的に適性は髪の色でわかるらしく、赤火、青が水、茶色が土……といった風になっているらしいが、アイボリー……薄めの黄色みたいな色の適性は未発見らしい。

 確かに街を見てみてもこの色の人は一人もいなかった。


 まあ、どんな魔法が使えるかは後々のお楽しみってところだ。


 一ヶ月も経ってくるとこの体にもうすっかり慣れた。

 体を拭くだけでヒイヒイいってたちょっと前の俺とは違うのだよ。

 まあ、まだ声は出るのだが、精神的な抵抗感はだいぶ薄れた。

 そんな、一ヶ月目の日のことだ。


「一ヶ月もたったってことで、そろそろ下の階層に行こうと思うんだが、いいか?」


「よゆー。むしろ、待ちわびた」


「そういうなよ。冒険者のことを全然知らないから、それを教育する意味を含めての一ヶ月だったわけだし」


「戦闘能力的には、問題ない?」


「問題ないどころか120点だな。毎日毎日よくもまああんなに魔物を煎餅にしたもんだ。魔晶石はいつ売り物にならなくなるんだろうと思ったよ」


「結局ノーダメだから、もーまんたい」


「まあ、そりゃあそうだけどな?……てか、あんだけ倒してたんだから、結構強くなってるんじゃないか?」


 この世界には、いわゆるステータスというものが存在する。存在はするが、俺たちはそれが見えない。


 俺は神様wikiによってレベルがあること、ステータスがあることなどを知っているがそれらのない人間からしたら「魔物を倒したら強くなる」程度の認識しかないのだ。


 確かにこの一ヶ月でレベルは上がっただろうが、俺にそれを確認するすべはないし、第一元々貧弱だったから、少しレベルが上がったぐらいでは強くなったとは言い難い感じだ。


 今の能力で……だいたい、成人男性よりちょっと強いくらいなのではなかろうか。

 その程度の筋力ではまだまだウォーハンマーちゃんは持てない。

 あげることすらできない。だからまだ薬屋ヘイトで筋力底上げ作戦は継続中だ。


「まだまだ。早く、自力でハンマーが持てるようになりたい」


「固有スキル、だったか?こんな凄い効果なら、存在を認めざるをえないよな」


「スキルとか、見せられないの凄い不便」


「見えないことを使って詐欺る連中もいるくらいだからなー」


「詐欺?」


 どんな詐欺の仕方だろうか。全然思いつかないけど。


「わたしはスキルを見ることが出来る!って嘘つくんだよ。スキルを見るスキル、とか言われたらなんの反論も出来ないし、確認もできないだろ?」


「悪徳なやり方」


「俺も分かるなら自分のスキルとやらを知りたいよ」


 ちなみに、なぜこの世界においてスキルが見えないのに存在しているとされているかといえば、それはエクィラ教の教えみたいなもので書かれているからである。


 あなたの生前の努力は全てスキルの上昇でわかり、エクィラ様だけはそれを見ることが出来る、みたいな内容だった気がする。


 所有スキルの確認ができないのはかなり不便だ。

 例えば俺は一ヶ月ずっとハンマーを振っていたからおそらくスキル欄に槌術があるのだろうが、証拠としては見せることができない。


 だからこそ値段先払いで使えもしないスキルの利用者を探して詐欺をする奴もいるのだろう。


「まあ、私が詐欺られるわけでもないから別にいいけど」


「それもそうだな。とにかく、これからは二階層以降に行くわけだが、質問なんかあるか?」


「敵は何が出てくるの」


 敵を知り己を知ればなんとやら、というわけでは別にないが、知ってるのと知らないのでは危険度が違うだろう。

 情報と違ってたら嫌だしな。


「今まで通り、ゴブリン、コボルトだろ?あ、もちろんレベルの高い個体だから油断はするなよ。2階層から登場するのがオークだ」


「オーク、くっころ、絶倫?」


 オークといえばやっぱり女騎士とのやんややんや。男の体だったらともかく、女の体である今の俺にとってはあのオークそのままだったら少し怖いものがある。


「くっころ?なんだそれ……」


「オークって、女襲う?えろえろなことする感じ?」


「お前の中のオークはすけべオヤジか?確かに豚ヅラのデブだが、そういうのは聞かないぞ」


「よかった……」


 神様wikiにも二足歩行できる豚って書いてあるが、一応調べておかないと。

 いざとなったときに襲われたりしたら大変だし。


「何に安心してんだか……まあいい、明日から二階層に行くから気を引き締めておくように」


「私はいつでもペースを変えない のが長所」


「ずっとポワポワじゃ、困るけどな?」


 そんなわけで、明日からは新たなステップだ。

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