第15話
「我々の体が何で出来ているかも知らない、この世界がどうやって生まれたのかも知らない。もちろん、貴様は夢というものがどういう原理で見るものかも知らないだろう。だというのに、何故夢を見れない者を見て嘘だと思う?」
「え? あ……」
「それとも、貴様はこの世の全てを知っているとでもいうのか? 無限とも言えるこの世界の現象全てを知っているのか?」
「う……そ、そんなことはないですけど……」
「そうだろう。その明らかに色々足りなさそうな頭では無理だろうな。ふっ」
「むかっ」
明らかに馬鹿にした風のカールに少女は苛立ちを覚えるが、反論しようにも話が難しくて付いていけなかった。
元々そんなに頭の出来もいい方ではないのは間違いないのだ。ならばやはりここはせっかく手に入れた力で黙らせるしかない。
そう思い至った瞬間、何でも力で解決しようとする自分の思考に唖然とした。
――これじゃ私、本当に筋肉少女だ!
これは不味いと自分の中の自制心を総動員して必死に心を落ち着かせる。
私は心清らかな清純派美少女だと何度も心の中で繰り返し、次第に苛立ちも納まり始めた――
「まあ、貴様が脳まで筋肉で出来ている略して脳筋なのはどうでもいい。それより重要なのはこの私が夢を見たという貴様の証言である!」
「誰が脳筋じゃボケェ」
「のべらっと!?」
――彼女の怒りは一瞬で沸騰し直し、目にも止まらないスピードで繰り出されたアッパーがカールの顎を的確に打ち抜いた。
「はっ――」
気が付いたときにはもう遅い。トリスは己の両手を見つめ、あまりの罪深さに心が締め付けられるような思いだった。
何かあればすぐに暴力に訴えかける自分が信じられない。今まで喧嘩一つしたことのなかった筈の自分が、一体どうしてしまったと言うのだ。
もちろんこの時、被害者であるカールの事など頭の片隅にも残っていない。
「貴様と言うやつは何故すぐ殴る!?」
「ご、ごめんなさいごめんなさい! あまりにもあなたが鬱陶しいから体が勝手に殴っちゃうみたいです! あと多分躊躇う気持ちが生まれない位ゴミみたいな性格をしてるから!」
「謝るフリして何を言っとんのだ貴様は!? わ、私はゴミなんかじゃないぞ!」
「……え?」
「その心底蔑んだ瞳で見下すのを止めるんだぁぁぁぁぁぁ!」
ごく自然に紡がれるその言葉がカールの心を深く傷付けた。
だが事態はそれどころではない。カールは天に向かって吠えると、気を取り直してトリスと向き合い指を突きつける。
「えい」
「ギィャアアアアアアアアア!?」
そしてトリスはその指を反射的に握った。正確に言えば強く握った。カールの薬品のせいで常人を遥かに上回る握力となったトリスの、ほんのささやかな反抗。
ぶちゅっと人体からは発してはいけない音が小さく鳴る。
「あ、すみません。指さされたのがムカついてつい」
「ききき、貴様というやつは! ついで許されるなら騎士団はいらんのだ!」
「正論なんですけど、貴方に言われると凄く苛立ちを感じます!」
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