第5話 アズリア、過去の話

 アタシは何故だか知らないが、生まれながらにして古代に「ルーン」と呼ばれていた魔術文字を継承してしまった。

 しかも、あろうことか……右の眼球に。


 この魔術文字ルーン、今では既に使用する技術が喪失してしまっているそうだが、どうやらそんな魔術文字ルーンが刻印されていることが原因で、アタシは現在普及している通常魔法を何一つ発動出来ない身体になってしまったのだ。


 加えて褐色肌なのもあってか、それで故郷では「忌み子」だの「悪魔の子」だのと周囲から謂れのない誹謗中傷と差別を受けていたのだが。


 そう。アタシの右眼に宿る「wunjoウニョー」という魔術文字ルーン

 これを持って生まれたのが原因なのかは知らないが……アタシの筋力は、ごく一般の成人の男とは比較にならない程・・・・・・・・強い。

 それこそ、このとんでもない重量を誇る大剣を軽々と振り回せるくらいには。


 だが、この話はこれで終わらない。

 この魔術文字ルーン。つまり右眼に魔力を巡らせ発動させることで通常の状態以上にアタシの身体能力が上がる。

 色々と実戦形式で試してみたが、全力を発揮すればこの恐るべき重量の大剣を片手で扱え、鎧を装備したまま建物の屋根に飛び移れるくらいの跳躍力と、全力疾走して駆ける馬に追いつくほどの速度が出せる脚力を発揮することが可能となる。

 多分、右眼にもっと魔力を送ればそれ以上の身体能力の上昇は可能だろうが、試したことはない。


 多分、アタシの身体が保たないからだ。


 コレを過度に使った次の日にゃ激しい筋肉痛に全身が襲われる事もあり、あまり多用はしたくないし、他人に見られたくないのが本音なのだ。

 実は……最初の頃のちょっと魔術文字ルーンを使っただけで動けなくなるほどの筋肉痛だった事を思えば、今はもう随分と慣れてきたんだけどね。


 実際にアタシがアイアンリザードの頭蓋を一撃で潰すことが出来たのは大剣の重量もあるが、刻印された魔術文字ルーンによる身体能力の向上、増加した膂力があったからだ。


 今考えれば、年端もいかない女の子がこの能力のせいで、大の大人よりも重い荷物を軽々と持ち上げたりありえない高さに跳び上がったりしていたら「あの娘は何かおかしい」と思われるも妙に納得してしまう。

 アタシの故郷のドライゼル帝国は、他国からの流入を制限している排他的、閉鎖的な地域だけに一度そういった悪い評価が付いてしまうと改めるのは非常に難しい。

 寧ろ、その評価は水が染みるように加速度的に周囲に広がっていき、気がつけば地域全体で差別的扱いを受け、幼少期から両親から無理やり離され半ば放置されることになった。

 今思えば、両親も「忌み子」と指差されたアタシを手離すことを望んでいた気もする。


 まあ……そんな環境が許せなかったからこそ、アタシは故郷を捨てて一人旅をしているんだけど。


 ────閑話休題。


 今は目の前にいるもう一匹のアイアンリザードだ。

 間合いを一気に詰めて一撃で仕留めるために、右眼に力を込めて少しだけ、ほんの少しだけ文字の魔力を解放すると、アズリアの右眼に魔術文字ルーンが浮かび上がり、薄暗い坑内で右眼が淡い輝きを放つ。

 身体中に力が巡っていくのを確認してから、利き足で地面を強く踏み込んでリザードのいる前方へと駆け出していく。

 うん……問題ない、大丈夫。


「────いくよ……ッッ!」


 前傾した体勢のまま振り上げた大剣を、駆け出した勢いに乗せて、一匹目を仕留めた時と同じようにリザードの頭部目掛けて振り下ろす。

 すると今度は、重量の乗った大剣の刃がリザードの頭部を先程のように潰すのではなく……両断してしまった。鉄の鱗もろとも。


 リザードが事切れたのを確認すると、今度は坑道の奥に意識を飛ばす。

 戦闘の音で奥から増援が来ないか心配したが、どうやら今のところは何かが接近する気配は感じ取れない。


 残されたのは二匹のアイアンリザードの死骸。

 頭部は潰されたり両断されたりしているが、胴体部分はほぼ無傷のままだ。

 メタルリザードの皮は意外にも防具などの需要が高い。なので回収したいのは山々だが、坑道の探索には邪魔になる。

 荷物運びに人を連れてきてもいない以上、死骸の回収は一通りリザードの探索を終えてからにしよう。


「まぁ、坑道出たら鉱石運ぶ荷車でも借りるか」

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