虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

プロローグ 1-1 虐げられる日々

　朝食を取る為ダイニングルームへ続く渡り廊下を歩いていると、背後から声を掛けられた。

「おはよう、ライザ。」

振り返ると2人のメイドを引き連れたカサンドラがやって来た。金の長い巻き毛に紫の瞳を持つ美貌の従妹は私を見ると意地悪そうな笑みを浮かべた。

「お・・おはよう、カサンドラ。」

嫌な予感がして、思わず声が上ずってしまう。

「相変わらず地味で古めかしいドレスね。一体いつの年代なの？それともそういうドレスがお好みなのかしら？ねえ？」

カサンドラは2人のメイドを見ながら言うと、彼女達はクスクス笑いながらこちらを見ている。

彼女は今貴族令嬢の中で流行っているデザイナーの洋服を着ている。胸もとの刺繍がそれを現していた。一方の私が着ているドレスは母が若かりし頃着ていた服である。衣服を買って貰った事は一度もなく、いつも私は母の御下がりばかりを着ていた。それが例え社交辞令の場でも・・・。なので私にとっての社交辞令の集まりは屈辱的な物でしか無かった。こんな思いをするなら欠席をしたいと申し出ると父に烈火の如く激怒される。

「先に行くわ。」

カサンドラの言葉に耳を傾けず背を向けて歩き出した時、背後で何か物が割れる音と共に悲鳴が起こった。

「キャアアアッ！」

驚いて振り向くと、カサンドラの身体はびしょぬれになっており、床には花瓶と花が転がっていた。

「・・・？」

訳が分からず首を傾げると、カサンドラはブルブル震えながら私を見て叫んだ。

「酷いっ！ライザッ！何て事するの？！」

え・・？もしかして私にやられたと言いたいのだろうか・・・？

すると2人のメイドが次々に言う。

「大丈夫ですか？！カサンドラ様っ！」

「ライザ様っ！何て事をなさるのですかっ？！」

あまりの白々しい演技に立ち尽くしていると、運悪く執事を連れた父が現れて私を見ると眉をしかめた。

「何だ？ライザか・・・。まだこんな所にいたのか？早く朝食を・・。」

言いかけ、父は私の陰になっていたカサンドラに気が付いた。

「カ・・カサンドラﾂ？！何があったんだ？！びしょぬれじゃ無いかっ！」

するとカサンドラは目に涙を浮かべながら言った。

「ライザが・・・いきなり飾ってあった花瓶の水を私に・・。私はただ朝の挨拶をしただけなのに・・・。」

目に涙を浮かべながらカサンドラは言う。

「えっ？！そんな事私はしていませんっ！」

あまりの言葉に私が反論するも、父は聞く耳を持たずにいきなり私に近付くと頬を叩いて来た。

パンッ！

熱くなった頬で父を見れば、怒りで顔を真っ赤にしている。

「ライザ・・お前は両親を亡くしたカサンドラが可哀そうじゃ無いのかっ？！そんな娘に何故お前は嫌がらせをするっ！！」

「そ、そんな・・何故信じてくれないのですかっ？！」

「黙れっ！お前は今朝は朝食は抜きだ！部屋へ戻れっ！」

「はい・・お父様・・・。」

ああ・・・今朝も朝食を食べ損なってしまうのか・・・。

私は項垂れ、部屋へと戻って行く。そしてすれ違う時カサンドラは笑みを浮かべて私を見ていた。

この屋敷には、私の味方は1人もいない―。