第2話 夢じゃなかった。ここ〈ダン活〉だったよ。




「ゼフィルス、ここにいたのか。学園へ行く支度は済んだのか?」


「んあっ、村長?」


 突然話しかけられて振り向くと、これもよく見知った顔がいた。

 〈ダンジョン就活のススメ〉の序盤、名も無き始まりの村の村長さんだ。


 ちなみにゼフィルスというのは俺のキャラ名だ。

 〈ダンジョン就活のススメ〉、通称〈ダン活〉で俺がずっと使い続けていた名前だったが、どうやらゲームの中の世界にいる俺も名前はゼフィルスというらしい。


 あぁ、やっぱり〈ダン活〉の世界の中っぽいなここと確信する。


「なんじゃボーっとしてしっかりせんかい。ゼフィルスも今年で16歳、学園で良い職業に就いてくるんじゃと昨日も話したじゃろう」


 そんな話は知らないな。


 俺が覚醒したのは今さっきのこと。

 ラノベなんかにある乗っ取り転生か? とも思ったが乗っ取ったと思われるこの身体の持ち主の記憶は欠片も無かった。


 覚えていなくってすまない村長。


「まさか、もう忘れたのか? この鳥頭め」


 忘れたんじゃない。言われた覚えが無いだけだ。


「いや、村長の方こそ言ったと思い込んで忘れていた可能性も……」


「あるかバカ者! ええいもう一度言うぞ」


「あ、結構です」


「あ、…あ?」


 なんか長々と説明されそうなので遮ると村長が面白い顔をして固まった。


 うん。ちょっと落ち着かせてくれ。

 状況を呑み込みたい。

 今まで困惑の方が勝っていたが、村長と話して混乱していた頭が落ち着いてきてなんとなくこの光景に覚えがあった事を思い出した。

 それはゲームの序盤。というより最初の話、村長と主人公の間のやり取りにそっくりだったのだ。


 とりあえず、今はこの場を乗り切る事に専念するか。

 ゲーム序盤での主人公のセリフを思い出して回答する。


「荷物はもう纏めてあるから、後は挨拶回りだけで終わりだよ」


「なんじゃ覚えておったんじゃないか。ならよい。世話になった村の衆にしっかり挨拶するんじゃぞ」


 青筋を浮かべた村長がそう言ってノシノシと音を立てながら去っていく。

 それを見送って改めて自分が今どのような状況にいるのかをやっと理解した。


 今のは〈ダン活〉の挨拶クエスト発生の会話だ。

 ゲームでは16歳になったときジョブを得るために、そしてジョブを使いこなすために学園に入学する決まりがある。そして村を出るときの挨拶クエストの始まりが今の会話だった。


 つまり俺は多分、16歳になったばかりの主人公になっている。


 そう理解した途端、心臓がドクンと鳴った。


 え? そんな美味しい話がある?


 だってゲームの世界だぜ?


 転生だぜ?


 しかも俺の人生に灰が積もるほどやりこんだ〈ダン活〉の世界だぜ?


 〈ダン活〉をリアルにはじめから始めるとか…………。


「もう最っっっっ高じゃねぇかっ!!!!」


 心が爆発した。


「ありがとう人生! ありがとう転生! ありがとう〈ダン活〉!」


 俺は、感謝に狂った。

 奇声を上げて喜んだ。

 もろ手を挙げて万歳三唱し、クルクル踊る。

 村人からなんかやべぇ薬やったんじゃねえかという目を向けられても何も気にならなかった。

 それくらい人生で一番うれしかった。

 セーブデータが消えたからなんだ、そんな些細な出来事も頭から吹っ飛んだ。


「よっしゃーーーーっっ!!!!」


 〈ダン活〉をリアルでプレイする。


 それは、俺の夢だったのだ。





「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」


 さすがに疲れた。

 何時間はしゃいだのか、気がついたら地面に大の字で寝転がっていた。


 もうちょっと喜びに打ち震えたかったが体力が持たなかったらしい。

 呼吸を整えているとだんだんと平静を取り戻してしまった。

 なんて惜しいことを。

 いや別に狂っていたいわけではないからいいか。

 これからリアル〈ダン活〉を楽しみつくすというのに狂っている場合ではない。


「よっと。さて、これから何しよっかな~」


 勢いをつけて無駄に飛び上がって起きる。

 平静を取り戻したといっても依然としてテンションはマックスのままだ。

 思わずハミングしつつこれからの行動を考える。


「まずはジョブだ。リアルになった以上ネタ職は選べないか、ちょっと残念。じゃあ久々に最強で進めるかなぁ」


 〈ダン活〉は名前のとおりダンジョンアタックゲーだ。

 ジョブに就き、いろんな仲間をスカウトし、共にパーティやギルドを組んでダンジョンへ挑む。ファンタジーゲーム。

 そして〈ダン活〉の一番のウリはなんと言ってもその膨大なジョブの多さにある。


 その数1021職。


 もうアホかという多さ。

 攻略本にジョブの詳細だけで6冊出版した所業はもはや伝説になっている。

 ちなみに俺は全部買った。


 そりゃあやりこみに時間が掛かるというものだ。

 そんな多彩なジョブの中からリアル〈ダン活〉を楽しむため一つだけを選ばなければいけない。


 俺は妄想の中、何度もシミュレーションしてきた。

 あるわけが無いと思いながらも、もしリアル〈ダン活〉が出来たなら何のジョブを選べばいいかと。

 そして三桁に及ぶシミュレートの結果、俺は1つのジョブを選ぶと決めていた。


「よし。じゃあこれからジョブ条件をクリアしに行きますかね」


 ウキウキしながら俺は進みだす。

 リアル〈ダン活〉の今後を思い浮かべながら。




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