第10話 一致団結

 学校近くにある運動公園のグラウンド。ここで私達の住む市内外の中学校のサッカー部が集まって年に数回、親善大会が行われる。そして今日、その親善大会が行われている真っ最中なのだ。

 

 私達、ソフト部は午前中に行われた練習帰りである。一緒に帰っていたうちの誰かが観て行こうと提案した。

 

 グラウンドの方へと行くと、ちょうど、私達の中学校が試合をしているところだった。

 

「中田、中田っ!!ほら、笠原ば応援せなっ!!」

 

 少し離れた所から聞こえてくる声に聞き覚えがあった。その声の方へと顔を向けると、女バスの見知った顔がいた。

 

 女バスらの視線の先にいるのは、三バカと呼ばれているうちの一人、笠原。普段はおちゃらけてふざけてばかりいる笠原が、グラウンドの中では一生懸命な顔をしてボールを追いかけている。笠原だけではない。齋藤も生田もである。さすがは県大会常連チームの主要メンバー。

 

「よっ、相原」

 

 私はそんな女バス達の方へと近付き声をかけた。

 

「おっ、遥香はるかやんねっ!!それにソフト部御一行様っ!!」

 

「ソフト部御一行様っち、あんた……」

 

「遥香達も試合ば観に来たん?」

 

「うん、ちょうど練習終わって帰り道やけん」

 

「うちらもっ!!そんでさ、中田がどうしても笠原ば応援せないかんっち言い出して」

 

「はぁ?!誰がそげんな事言った?」

 

 いきなり名前を出された中田が慌てた様子で顔を真っ赤にして弁明している。最近、中田と笠原が仲の良い事はソフト部の中でも知れ渡っていた。

 

「ほら、伊川いかわっ!!生田も活躍しよるよっ、応援せなっ!!」

 

 少し離れた所に立っていた奏の手を相原が引っ張ってフェンス前まで連れていく。

 

 女バスの連中は、奏と生田が前みたいな関係で無くなった事を知らないはずである。ましてや、それが原因で奏が落ち込んでいる事も。

 

 以前の奏なら大声で生田を応援していたのだろう。でも、奏はそう言うのは周りから勘違いされるからやめようと生田から言われていた。

 

 フェンスを握りしめて黙って試合を観ている奏。

 

「ねぇ……遥香。奏ちゃんと生田君の間に何かあったん?」

 

 柏木が大きな体を小さくしながら私へとこそりと尋ねて来た。

 

「何かって?」

 

「……うんとね、少し前からあの二人、下の名前で呼ばん様になっとるやん?それに……なんかさ、やたらと距離ができたって言うか……」

 

 私の側にいた同じソフト部の優希ゆうきにもそれが聞こえたのか、ちらりと私へと目配せをして、はぁっと溜息を一つついた。

 

「やっぱ、分かるよね……」

 

 やれやれと言った表情で頭を振る優希。

 

「生田に言われたってさ。もう中学生やけん、下の名前で呼びあったり、周りから勘違いされる様な事やめようって……今更かよって思うちゃけどね」

 

「そげんな事があったったい……でも、まじで、今更やん……一年の時に言うならまだしも……」

 

 柏木も大きな溜息をつく。二人の言う通り、本当に今更だ。それが周りにも影響を与えている。下級生の士気にも。

 

「やけん、早うくっつけって言うとったとたいやんっ!!」

 

「確かにねぇ……ばってんさ、奏ちゃんって恋愛事にはかなりぽんこつやけんで……自分の気持ちにさえ気付いとらんやろ?」

 

「それやんねぇ……」

 

 そうなのだ。奏は自分が生田の事を好きだと言う気持ちに気づいてさえいない。今回も多分、仲の良かった幼なじみに距離を置かれた位にしか思っていないのだろう。でも、ある意味、それですぐにでも立ち直って欲しいと言う気持ちはある。何故なら、あと数ヶ月先には中学最後の中体連が控えていた。しかも、今年こそは県大会出場を部員一丸となって目指している。そんな時に落ち込んでいられても困るのだ。奏はソフト部部長であり、大切な戦力だから。

 

「ねぇ……あの二人さ、うちらでひっつけん?」

 

 突然、相原がそう言いながら、柏木の後ろから顔を出してきた。

 

「聞いとったん?」

 

「んにゃぁ、聞こえとった」

 

 悪びれなく笑う相原は、ぼやっと気の抜けた表情で試合を観ている奏の方へ視線を向けると、また直ぐに私達を見た。

 

「だってさ、あんなん伊川やないやん?もっと、生田にがーっといって、ばーっとして、そして、ソフト部でかっきーんって。それに、それに……恋の応援って、なんか燃えるやん?」

 

 ん?本音が出てないか?

 

 私は相原の最後の言葉に首を捻りそうになったが、確かに相原の言う通り。あんなのは奏じゃない。自分で立ち直って欲しいとは思うけど……

 

「そうやねぇ……うちらでやるね?」

 

 優希はそう言うと、にたぁっと笑いながら、私の肩に手を置いた。あぁ、こいつもこんなんが好きな奴だった。

 

「良かねぇっ!!ならソフト部と女バスでいっちょやりますかぁ?」

 

 柏木まで……

 

「……お前らねぇ」

 

 呆れている私をよそに、相原がLINEでグループを作って、奏を除くソフト部と女バスの三年女子を招待し始めた。

 

「行動、早すぎやろ?」

 

 もう苦笑いしか出てこない。

 

「善は急げっち言うやろ?」

 

「……はいはい。ならそれに齋藤と笠原も招待しとき?あんバカ達も役に立つと思うけん」

 

「うぃー」

 

 静かに試合を見守っている奏を私は見た。以前なら大声で声援を送っていた奏。それに手を振り応えていた生田。急に生田がなんでそんな事を言い出したなんて分からない。確かに大切な戦力である。いつまでもぐじぐじと落ち込まれていても困る。だけど、その前に、小学校の頃からの親友だ。あの元気でがさつな奏が私は好きなんだ。

 

「よしっ、気合い入れて行こうっ!!」

 

「おーっ!!」

 

 私の掛け声でソフト部と女バスの皆が一致団結した。

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