高宮恋華はくっつけたい!! 〜恋師として目覚めた少女、ツンデレカップル成立に向けて奔走する〜

メルメア

第1話 娘、目覚める。母、壊れる。

「おーい。有澄〜。」

返事がないな。もしかして寝落ちしちゃったかな?

「あ、ごめんごめん。えっと…何の話だったっけ?」

あ、寝落ちしてなかったか。

「ほら、新しく出来たカフェに今度行こって話。」

「…」

また返事がない。

「おーい。有澄〜?」

「あ、ほんとにごめん。そう、羊羹って美味しいよねって話だったね。」

いや、全然違うし。

「大丈夫?ひょっとして眠い?」

時刻はまだ夜9時。普段、夜11時くらいまで電話で話してる私たちにとってはまだまだこれからという時間だ。

「あ〜、そうかも。ちょっと疲れちゃったのかな。」

「今日の部活きつかったしね〜。今日はもう終わりにする?」

5月にも関わらず30度近くまで気温が上がった今日、私たちテニス部はめちゃくちゃ走らされたのだ。

「うん。いい?」

「もちろん。ゆっくり休んで。」

有澄はもともと体力ある方じゃないしなあ。

「ありがと〜。おやすみなさい。」

「うん、おやすみ。」


さて、何をしようか。

普段なら、まだまだ有澄と電話してる時間だけど空きが出来ちゃったな。

私、高宮恋華たかみや れんかと電話していた咲原有澄さきはら ありすは仲の良い幼なじみ。

小学校からずっと一緒で、高校も同じところに進学した。

今私たちは高校2年生で、部活に勉強にと忙しいけど楽しい日々を送っている。

うーん、暇だなぁ。お母さんから漫画借りてこようかな。

私のお母さんは高宮深恋たかみや みこいという。

大の少女漫画好きで、家にある漫画は1000冊を余裕で超えるんじゃないだろうか。

小さい頃「こんなに読めるの?」と聞いてみたら、「仕事で役立つのよ。」と言われた。

確かにお母さんは、おばあちゃんが会長をしている「結婚相談所『恋色』」で働いてるけど…。

本当に、漫画みたいなフィクションの世界のことが役立つのかな。

私から見れば、少女漫画好きは完全にお母さんの趣味なんだけどな。


「お母さ〜ん。漫画借りるよ〜。」

洗い物をしているお母さんに声をかけてから、お母さんの部屋に入る。

何を読もっかな。私も今日は疲れたし、なんか笑える系がいいな。あ、これにしよ。

私が今日読むことにしたのは「恋する幼稚園児たち」。

幼稚園児たちのかわいい恋とも言えない恋を描いた短編集で、なかなか読んでいて癒される。

まぁ、どう考えても結婚相談所の仕事に役立つとは思えないけど。

やっぱりお母さんの趣味だよなぁ…。


「恋する幼稚園児たち」を3分の2くらい読み終わって時刻は夜10時前。あくび第1号がやってきた。

「ふぁあ〜。」

私もそろそろ寝た方がいいかなぁ。明日も走りだったし。

うん、寝るか。

漫画をお母さんの部屋に返して自室に戻る。

あ〜眠い。寝よ寝よ。ドアを開けると

あれ?ここ私の部屋だよね?

パソコンが2台にヘッドフォン、そしてそれが置かれたテーブルが出現している。

「何これ…。」

一旦ドアを閉め、自分の部屋であることを確認してから入り直す。

やっぱりパソコンやらなんやらがある…。

すると、片方のパソコンに一人の女の子が映った。

これは…有澄?

何が何だか分からない。

「お母さ〜ん!ちょっと来て〜!私の部屋がぁ〜!!」

大声で呼ぶと、お母さんは漫画片手に階段を駆け上がって来た。

いや、その手に持ってる漫画R18じゃなかったっけ…。

「どうしたの?」

「部屋が、ドア開けたら何か変なになってて…。パソコンとかヘッドフォンとかがあって。」

するとお母さんは「あら、本当?」となぜか笑顔になった。

そして、ドアを開けて部屋を確認する。

ドアを閉めて振り返ったお母さんの顔には、満面の笑みが浮かんでいた。

「おめでとう!あぁ、恋華もとうとう目覚めたのね!!」

ますます、何が何だか分からない。

お母さんのテンションが若干おかしいのはいつもの事だけど、今は普段の比じゃない。というかちょっと、いやかなり怖い。

「えっと、私が目覚めたって何に?」

すると、お母さんは一際大きな声で言った。

「恋師よ!あぁ、恋華が目覚める日がやっと来たのね!」

そして少しうっとりした目をする。いやいや、本格的に怖い。

R18の漫画持ってそのテンションはガチで引くよ…?

「明日は学校だったわね…。えっと、明後日が土曜だから…。」

今度は真面目な顔になって、何かブツブツ言い出した。

「えっと、お母さん…?病院行く?」

この場合は脳外科かな?精神科かな?ひょっとして治療不可能だったりして…。

そんな私の心配をよそに、お母さんは言った。

「明後日!おばあちゃんの家に行くわよ!!」

「え、いや明後日は部活あるから。」

それに、おばあちゃんちょっと怖いしなぁ…。

「部活は休めるように連絡しとから。準備しといてね。」

そして、お母さんはそそくさと階段を降りていった。

もちろん、R18コミックを持って。

「えっとぉ…。」

私はドアの前にひとりたたずむ。

恋師って何?なんでおばあちゃんの家?

そして…

「私今日どこで寝ればいいの〜!?」

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