未知との遭遇

「うわっ」

 僕が甲子園の夜の姿に想いをせていると、いつの間にかマウンドを降りてきたヒナタに急に抱き着かれる。

 揺れる金色のツインテールからなのか、それとも彼女からなのかわからないが花の香りと優しい香りがした。


(女の子ってこんなに柔らかいんだ)

 鍛えて引き締まったように見えたヒナタだったが、触れ合うと筋肉質の中に、男と違った柔らかさを感じる。


「ちょっと・・・」

 僕は助けをミツキに求めようとすると、ミツキは置いてあったバックからスマホを取り出し電話しているようだった。


「・・・はい、イレギュラーで男子高校生が・・・。いえ、任務は無事に終わりました」

 丁寧口調で話しているミツキは大人と話をしているようだった。


「ねぇ・・・」

「んっ?」

 僕はミツキが誰と話をしようとしているのか、ヒナタに尋ねようとすると、僕の首にぶら下がったヒナタが上目遣いで左右に揺れている。


「ねぇ、重いんだけど?」

「むーーーっ」

 ヒナタは”重い”という言葉に反応して、ほほを膨らませて僕を引っ張る。


「うわっ」

 僕は支えきれずにヒナタの方に倒れてしまう。

 


「いてててっ。ごめん・・・っ。大丈夫?」

 僕は目を開けると、ヒナタは放心状態のような顔をしている。

 僕は目線を降ろすと、僕の左手は地面に、右手は・・・彼女の胸のふくらみをつかんでいた。


 ムニッ


「ひゃん」

 先ほどまでの活発で強気な彼女から、かわいらしい声が出てきた。

 その柔らかさとその声を聴きたくて、もう一度手に力を込めたい欲求が胸の底から強烈に込みあがってくる。


 ・・・が、見る見るうちに沸騰ふっとうしたように真っ赤になって怒った顔のヒナタを見て、慌てて腕をどかす。

「あっ」

 僕は運動音痴ではない。どちらかといえば、かなり運動神経はいい。

 けれど、僕は未知との遭遇にかなり動揺していた。

 

 その未知とはシルフィーではない。

 彼女達だ。


 野球一筋で女の子とろくに喋ってこなかった僕が、急に可愛らしい女の子たちと話をして、触れ合った。


 心と体のバランスを崩してしまった僕は右手をどかした瞬間、動かす意味のない左手もどけようとして、上半身が落下する。


 フワッ


 柔らかく、温かい二つのふくらみが僕を包んでくれる。

(これが極楽というやつか)

「もーーーっ、いい加減に、してっ!!」



「いえ・・・何でもありません。はい、至急応援をよろしくお願いします」

 僕たち構うことなく、ミツキは報告を終える。


「ごめん、ごめんってば」

「許せない、許せない、許せないっ」

 全然一向に許してくれないヒナタ。

 

 でも、こうやって同世代の女の子に怒られるのも悪くはないって思ってしまう自分はMなのだろうか。

 帰宅部の同級生の言葉を思い出してしまう。

『そんなにきつそうな練習を毎日するなんてどMかよ』


「あ~!!またニヤニヤしてっ。この、バカっ。変態っ!!」

「ちっ、違うよ。ヒナタのことじゃなくてっ」

「はぁ!?こんなに怒っている私を目の前にして、別のことを考えるなんて。いい身分ね!?」

「あっ、ヒナタさん・・・?こめかみの血管が浮き出てますよ?」

「だ~れ~の~、せいだと思ってるのっ!!」

 髪をくしゃくしゃにされる。


 ダダダダタッ


 ベンチの方から足音がする。

 それも大勢の。


 急に空が暗くなる。

 月の自然光がなくなってしまった。

「なっ、なんだ?」

 何も見えない。

 また手探りであたりを確認しようとする。


「あっ」

 また、二つのふくらみに触れてしまう。

「慌てなくていいから」

 ヒナタは真面目な声で、僕の両手首を握り、手を胸から移動させた。


 バッ


「うっ」

 甲子園のライトが付く。

 急に明るくなったので、何も見えない。


「なっ、なんなんだ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る