第14話 想いを失えば心に穴が開く。

 それからのあたしは気の抜けた瓶入りサイダーみたいな日常だった。

 教室で生明あさみさんと目が合わないようにしたし、目があってもさっとあたしの方から目を逸らした。生明さんがこっちを見ているような気がしても無視した。

 授業中生明さんの背中を見ないようにするのがあんなに難しいなんて思ってもみなかった。いつの間にかあたしは生明さんの背中ばかり追いかけていたんだ。


 そんなあたしをずっと初美が見ていたなんて、あたしは知りもしなかったけれど。


 来週の土曜また初美の試合があるというので、さすがに今度は応援に行かないとだめかな、って思ってお弁当を持って行くって約束をした。空手の試合を見るのは嫌いじゃないし、ましてや幼馴染の初美の試合となればなおさらだ。


 いや、なおさらのはずだった。


 だけどなんだろう。全然乗り気じゃないんだ。全く応援に行く気になれないんだ。正直全然行きたくない。あたしは初美へのお弁当を作りながらそう思ってた。


 あたしが行きたいのはあそこだけ。


 きっともう誰もいないうっそうとした林に囲まれた公園の古ぼけた東屋。


 本当はそこにいて欲しい人がいるけれどそれももうかなわない。


 そう思ったらあたしはいてもたってもいられなくなって自転車で旭第一公園に向かって全速力で走る。もう初美の試合が始まるって言うのに。


 あの公園に行こうと思うだけで心臓がどきどきする。なんでなんだろう。


 公園について東屋を覗いても勿論誰もいない。あたしは生明さんがいつも座っていた場所のすぐ隣に座る。だけどそのすぐ隣にいつも座っていた、紙のSF小説が大好きな体の弱い女子高生はもういない。おんなじ体の弱い女子高生と仲良くなったんだろうから。


 だから生明さんはもうここには来ない。


 でもよかったじゃないか。生明さんにお付き合いする相手が見つかってあたしもすっきりしたよ。


 ウソだ。


 何でだろう、何でなんだろう、ちっともすっきりなんかしない。生明さんは見矢園と恋人同士になれてよかった。それでよかった。手紙の橋渡しなんてあたしとしても珍しくいいことしたんじゃないかなって、上手いこといったんじゃないかと思う。これで良かったんだ。でも。




 でもなんなんだろ、この胸にぽかっと空いた穴は。どうしてこんな穴が出来ちゃったんだろ。


 これ、何がなくなって出来ちゃった穴なんだろ。この穴には、もともと何が詰まってたんだろ。


 あたしは自分用のお弁当を食べた。がつがつ食べた。そうしたらこの穴のこと忘れられるんじゃないかって思って。自分でもわからないけど少し涙ぐんでいた。なんでなんだろ。


 寂しいんだ。きっと。


2021年1月18日 誤記を修正しました。

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