迷子

 しばらく鳥たちのさえずりを聞きながら歩いていると、しゃがれたブニカ老婆の声がしました。

「あぁ穢らわしい。穢らわしい……魔法なんてものを使って人をたぶらかして。いやらしい家族……あぁ穢らわしい。」

 まだまだ幼いミーシカは、老婆の言葉が理解できませんでした。けれどもしゃがれた声が、何度も何度も何度も頭の中でエコーしています。動いていた足が止まりました。

「けがらわしい……」

 ミーシカ・ヌミシカはこの言葉を村人に言われたことがありました。確か、日照りの続いた真夏のことでした。

 ミーシカは苦しくなり、お母さんから教えてもらったおまじないを呟きました。


トゥレムリッチみぶるいトゥレムリッチみぶるい、震えよ止まれ——」


 大きく深呼吸をしました。ボロボロなバティークずきんを被り、木の実を集める老婆を無視し、歩き続けました。ふと。ヌミシカならあの老婆の言葉の意味がわかるのかしら。と思い、振り向きました。震えは止まって、恐怖心よりも好奇心がまさっていたのです。

「スクゼェ、ブニカ。何かお手伝いしましょうか……?」

 けれどもやはり、怖かったのかミーシカの声は小さくなっていました。ぶかぶか上着を握りしめ、老婆の皺くちゃな口元を見つめます。わなわなと揺れているものの、喋りませんでした。ミーシカは困惑しました。わなわなしてるし、木の実を集めているし、変なブニカだわと思いました。

 老婆の目は、せわせわと餌を探すリスのように動いています。わなわな。せわせわ。しわくちゃくちゃちゃ。とっ、がさっ。木の実が落ちた音がしました。ミーシカは違和感を感じ、「大丈夫そうならもう行くわ。じゃあね、ブニカ」ときび変えそうとすると「——悪魔」と呟く声がしました。ミーシカはその一言で、心臓が握り締められ、頬が真っ赤に燃え上がりました。

「悪魔じゃないわ! 聖なる精霊たちの声を聞く森の魔女の娘、ミーシカ・ヌミシカよ!」

 すると老婆は目を大きくあげ、十字をきり、神に祈りはじめました。我に帰ったミーシカは恐ろしくなり、老婆に背を向け、急いで逃げ出しました。

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