奇妙な動物園5

(はあはあ、距離が遠くなった気がする。足は早くなったけど)

猿の海をでたあと、隣にある猿の山にやってきた。ここにも石でできた猿の像がある。両手で耳を覆っているポーズを取っている。

(これは?ワトソンの字か)

石像の目立つところにワトソンが書いたであろうメモがあった。そこにはこう書いてあった。




ミミズクから聞いた話をここに書いておいておく。お前の事だからどうせ次は猿の山にいくんだろ。

三匹の猿の持っているもの。それは三色の玉で赤、黄、青がある。それぞれ再生、退魔、呼び覚ます力があるらしい。この三つの玉を揃える事が脱出の鍵となる。ただしそれぞれを手にするには代償が必要だ。

おまえがこれを見たってことはおそらくなにか代償を払ったんだろう。俺も今から穴に向かう。青の玉があれば出口への道が分かるはず。他の奴らに会ったら伝えてくれると嬉しい。ついでに猫、ミミズク、コウモリも助けてやろうぜ。あいつらも俺らと同じ被害者だ。

それと蛇の事だがあいつについてはよくわからない。ミミズクの奴が来る前にもいたらしい。

時間がない。他の二人もそれぞれ出口を探してるはずだ。




代償か、黄色の玉をとったとき喋ることができなくなった。そして、猿の海にある像は口を押さえていた。ここ猿の山の像は聞か猿、聴覚を代償にして玉を入手できるだろう…いくしかない。

扉を開けると、岩でできた通路が緩やかな上り坂で続いており、天井には照明があり、通路を明るく照らしている。直線たから迷うこともないだろう。

ふと下の方から誰かが囁く声が聞こえた。そちらに目をやると、いくつもの顔と目がこちらに向いていた。今まで何気なく歩いてきた岩の床にはたくさんの顔、いろいろな動物の顔が苦悶の表情で浮き上がっており、そのどれもが口を動かし「苦しい、たすけて、たすけて」と呻いているのいた。

これは、この動物園にきた被害者の声か。ここの主が半分は燃やして半分は埋めたとノートに書いてあったが、その埋められたひとたちの声か。

通路の奥にたどり着くと、台座の上に鎮座する猿の像を見つけた。

猿の像は入口にあったものと同じ材質、大きさでできている。ただひとつ違うのは、その猿の像は耳を隠しておらず、手をだらりと横におろしており、耳には青い玉がイヤリングの様に付けられている。

ためしに片耳だけ取ってみる。青い玉は特に力を入れなくても簡単に取ることができた。そして、青い玉を取ったとたん。急に激しい耳鳴りが起こった。喉の時と同じだ。しばらくして耳鳴りは収まったが、片耳は何の音も聞くことはできなくなっていた。

これが出口の鍵ならもうひとつも必要かもしれない。同じ痛みに耐え、両耳の聴覚を失った。

急いで外に向かわなければ。先ほどから頭が痛い。なにも考えれなくなる。動物化が進行してるのだろう。

外に出る、もうなにも聞こえない。あいつらに会っても話しは聞けないしこの状況を説明することができない。

入り口に辿り着くとまたメモがあった。




暁無事か?俺は赤い玉を見つけた。お前が何色の玉を持っているかはわからないが、黄色を持っているなら頼む。

美咲が蛇の檻に向かった。あいつの事だ、多分無事だが嫌な予感がする。おそらくあの蛇は黄色の玉で追い返せるはずだ。

赤と黄色の玉の使い道を考えたが、赤はなにか壊れた物を治すために必要なんだろう。出口の鍵かも知れないしなにかはわからないが使い道はある。

だが黄色は?退魔の力でなにを祓う。ミミズク達も知らない蛇の正体。ここを作った奴の手下の可能性がある。ただの蛇ならいいけど、もしただの蛇じゃない場合危険だ。

試す価値はある。俺はもっ君を探してくる。




美咲が蛇の檻に?危険と分かってるはずなのに。

俺は走ったもう少ししたら完全な動物となるだろう。その前に美咲を助け……黄色と青色の玉を預けなければ。

全速力で走る。背中の荷物が邪魔だが持っていくしかない。酒の匂いがするから、これ瓶が割れたかな。

蛇の檻に辿り着くと扉が開いていた。中に入ると目の前には羽の生えた大蛇が美咲を締め付けている所だった。

(美咲!)

さすがにでかすぎる。俺の持っている物ではこいつには勝てない。

その時、荷物に入れていた黄色の玉が光出した。そうだこいつなら。

俺が黄色い玉を蛇に投げると黄色い玉は激しく光り輝きだした。すぐに目を開けていることができなくなり目を閉じた。大きな叫び声が聞こえたかと思うと徐々に光は消えた。

目を開けると檻の中はもとの暗闇と静寂に包まれており蛇の居たところには美咲が倒れていた。生きてはいるが動きが遅い、気を失っていたのか。


(よかった、まにあって)

駄目だ、頭が回らない。意識が途切れる。

気を失うようにその場に倒れた。倒れた衝撃か荷物からライターが落ち……スイッチが入ったのか火が出始めた。火は背中から溢れる酒を伝って燃え広がり始めた。




「ん?なんだあの煙」

庭園に来たが誰にも会えない、ここでは電波も通じないから連絡を取る手段がない。

迷いながらも煙の方角に進む。あっちは確か蛇の檻があったはずだが。


「な!?庭園が燃えてやがる」

蛇の檻からは煙がでて、火がなにかを伝って庭園に向かってくる。ここの庭園は造花だから燃えるはずはないのだが…

地面よく見るとなにか液体が染み込んでいるのがわかった。その液体からは酒の匂いがした。


「これ、暁が持っていた酒か。どっかで割れて溢れたのか」

そんなことより不味い。ここにいるいれば焼け死ぬだろう。それに地面に染み込んだ酒、あれに火が着けばここら一帯は吹き飛ぶ。造花もやばい、なんの素材でて来ているかはわからないが、火で燃えれば有毒ガスが出るだろう。


「ちっ、逃げないと……遅かったか」

いつの間にか周りは炎で囲まれており逃げ場はない。まさか、焼かれて死ぬとはな。動物になって閉じ込められるのもあれだが残念だ。


「ミミズク、ごめんな。約束守れなかったわ」

助けると誓ったあいつに謝る。聞こえるはずもないか……




「いねこさん今日のバイトはアップです」

「お疲れさまでした」

私はいねこ。名前はもうある。今はある動物園のカフェでアルバイトをしている。

(さっきの子達は逃げれたのかな?)

つい面白そうだったから僕の動物園にいれてしまった若い四人組。バイトも終わったし様子でも見に行くかな。


「なんだ…これ」

誰にも見られないようこっそりと入ったがいつもの動物園とは様子がおかしい。入った瞬間、なにか焼き焦げるような匂いと普通の人では死んでしまう毒ガスが襲ってきた。

先へ進み庭園が見えた。花は燃え、有毒な煙を発し、所々爆発したのか地面がえぐれている。


「長年いろんな人間を入れてきたけどここまで派手にやられたのははじめてだ…」

脱出したのか獅子の像を確認しに行く。見た感じ仕掛けは動いてないから、脱出はしてないのだろう。まあ、この人ガスの中だ、生きてはいないだろう。

と、像の影からなにかが襲ってきた。それは一頭の熊だ。先ほどの若者の誰かだろう。


「……ろい、……じつに、…面白い」


襲ってくる熊をよけいねこが熊を殴る。その拳はあり得ないほどの力が、こもっており、もっ君だった熊を吹き飛ばした。


「長年ここの管理をしていたがここまで予想外の事をされるとは。まったく、面白い」

いねこがそう言うと手をかざしなにかを呟いた。


目を覚まと、俺達は全員病院のベッドの上にいた。看護師の話では、動物園の休憩所で倒れていたらしい。原因は分からないが、体に異変はないので明日には退院出来るとのことだ。

だが何か違和感が有る。休憩所で確かに何かがあったとは思うのだがそれが何か思い出せないのだ。本当にただ倒れただけなのだろうか……


退院後、立ち寄ったカフェで集まりコーヒーに舌鼓をうっていると、後ろの席が騒がしいことに気がついた。

「だからさぁ!俺は言ってやったのよ!そんな事している暇があれば子供たちのことをもっと考えてやれってさ!俺は言ってやったのよ!」

「ずごい!格好良い!さすが先輩!」

「おいおい騙されるな!どうせいつものホラ話だ。実は小心者の先輩のことだから、頭の中で思っただけでしょう。」

「…なーんでお前にゃすぐバレるんだ?」

「先輩、気付いてないんですか?先輩が嘘つくときは語尾が上がるのと同じ言葉をどこかしらで繰り返すんですよ。」

「まじかよ」

「すごい!よくみてんな!さすが僕の親友!格好良い!」

「そういうのいいから、それより興奮しすぎてグラス落とすなよ!割ったらどうする。だいたい今日はこれから何するかわかってるのか?ここで一息ついたら来月の遠足の下見だってわかってるのか?」

「わかってる、動物園だよね!僕どうぶつ園大好き!猫ちゃんいるかな!」

「「いや、動物園に猫はいない」」


どうやら保育関係の仕事についている人たちのようです。

動物園と、いう単語を聞いてなにかひっかかった。この声もどこかで聞いたことのあるような…

すると後ろの席の一行が立ち上がり会計へと進んでゆきます。

会計に行くために俺たちの席の前を横切った三人の横顔をどこかで見た。そんな気がした。




「今回は特別だよ。とても楽しませてもらったからそのお礼だ」

カフェの隅っこでコーヒーを飲んでいるその男は楽しそうに笑いながら、誰に聞かせるのでもなく独り言を呟く。

そいつはあの動物園にいたときとは違う姿をしている。見られていたし、記憶は消したとはいえ、もし覚えられていたら面倒だからな。

顔を自由に変えられるとはいえばれては仕方がない。


「あの三匹もなんだかんだお気に入りだったからね、人間に戻してあげたよ。それにしても本当に面白い、一度きりで殺してしまうのはもったいない。もっともっと遊ぼうよ」

そいつはいつの間にか誰にも気がつかれず消えていった。

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