愉快な仲間との旅路

十六夜 暁

奇妙な動物園1

久しぶりに友達と遊びに出た。学生時代からの付き合いで昔はよく遊んだものだ。今となってはそれぞれ別の道に進んだ事によりなかなか会えなかったがそれぞれ休日が重なったから、近くに新しくできたという動物園にやってきた。今日は天気にも恵まれた。




メンバーは俺とワトソンともっ君と美咲の四人だ。

ワトソンは本人曰く偽名らしい。噂では裏の仕事をしているらしくなかなか危ないやつだ。初めのころはいろいろあったが、今では仲がいい。

もっ君はこの中では割りと常識人だ。だがところどころ抜けており、いつの間にか寝ていたりするから放っておけない。体はがっしりとしているからスポーツとかやればいいのに、探偵をやっているらしい。

美咲はこの中で唯一の女だ。小柄で十六歳と若いが、コンピューターに関する技能が高い。それこそ就職していてもおかしくはないレベルで機械にも強い。

おっと、俺の事を忘れていた。俺の名前は暁。仕事が一段落したから故郷に戻ってきた。仕事の内容は秘密だ。

それぞれ年は離れてるが、いつの間にか出会って仲良くなっていたな。




移動時間や待ち時間の間に昔の話をしたが、昔から変わっていないな。

普段見ない動物達に癒されたが、新しくできた動物園とだけあって家族連れが多く賑わっている。

人ごみに疲れ、園内のカフェで休憩していると、奥にスタッフオンリーと書かれた扉が有り、扉は半開きになっていた。買った飲み物を飲んでいるとその奥に消えていく動物のしっぽのようなものが見えた。

もしかしたらカフェの隣のふれあい広場から動物が逃げ出してしまったのかもしれない。できてすぐだからか、動物達も慣れてないらしく、よく脱走するそうだ。

俺はみんなに動物が逃げたかも知れないことを伝えた。見間違えかもしれないがスタッフに言っておいたほうがいいだろう。カフェで働いている人たちは忙しいそうにしている。近くにいた店員にその事を伝えたらちょっと見てきてくれと言われた。

見慣れない尻尾だったし、普段入れない場所に る許可も得ることができたんだ。他の三人も興味があるみたいだし行ってみる。

だが扉に近づいたその時、急に背中を押された。誰かがふざけたのだと思い横を見るが、皆も誰かに押されたのか体勢を崩していた。止まることができずそのままの勢いで扉の中に倒れ込んでしまった。




俺たちが顔を上げると、そこはさっきいた動物園だった。だがどこかおかしい…

空が暗い、というか、雲ひとつないのに太陽が見えないのだ。それなのに園内はうっすらと明るい。それに他の人がいない、園内はどんよりと暗く静まり返っている。スタッフオンリーの部屋の中のはずなのにここは屋外だ。扉で仕切っていただけかも知れないが、客のこえが聞こえないのもおかしい。

全員で辺りを警戒しながら周りを見ていく。もっ君と美咲は先ほど入ってきた扉からスタッフを呼びに行くみたいだ。俺は入り口から入ってすぐの場所を探す事にした。ワトソンは少し先の場所を調べるみたいだ。

荷物などがおいてあるがとくに変わったものはない。あの動物の姿も見つからないから、もっと奥に逃げたか見間違えだったのだろう。

皆と合流しようと思いワトソンを呼ぼうとした。タイミングよくワトソンが向こうから走ってくる。


「お、おい。この先にここのマップとでっかい檻があって、檻の中に大きなコウモリがいて喋ったんだ!」

なにいってんだこいつは。倒れた時に頭でもぶつけたか。仕方ない効くかわからないが壊れた物を治すには叩くのが一番だろう。田舎のばあちゃんが言ってた。


「目を冷ませコウモリが喋るわけないだろ」

軽く額にチョップをしようとしたが、避けられてしまった、チッ。

「本当なんだって見ればわかるから。美咲ともっ君も呼んで行こうよ。マップもあったし、動物と喋れるんだよ!」


もうだめだ。こいつは手遅れだな。もともとやばいと思っていたがここまでひどいとわ…

「はいはい、喋るんだね。先に美咲ともっ君の所に行くよ」

あの二人もこの話はさすがに信じないだろう。時間は経ってるから店員を連れて戻ってくるだろうし入ってきた扉に向かうか。

入り口着いたが様子がおかしい。もっ君と美咲が入り口の前でなにかに怯えている。


「お、おいどうしたん……うゎっ」

俺たちが入ってきた扉見たがそこにはなにもなかった。扉もだが壁も、変わりに見えるはずの風景までもない。後ろにはただ何もないのだ、まるで絵の具で乗り潰したようにただ真っ黒い空間だけが広がっていた。


「なんだこれ。扉はどこにいったんだ」

俺とワトソンは驚きながらも二人に聞いてみることにした。

「おい、いったいこれはなんなんだ」

しかし、返事はない。体を揺すったりもしたが反応がない。仕方ないな。

「返事を…しろ!」


二人の頭にチョップをくらわせる。斜め45度、いい角度だ。

「い、痛いじゃん!」

「いてっ、なんだお前らか」

「なんだじゃないよ、呼んでも反応しないお前らが悪い」

「だな、それでなにがあったんだ?」

もっ君と美咲は顔を見合せ、なにがあったかを説明しだした。




俺たちと別れたあと扉の場所に戻りスタッフを呼ぼうとしたらしい。しかし、扉は無くなっており、変わりに謎の空間ができていたそうだ。

不審に思いながらも空間を触ろうとした。壁があるわけではなく、真っ暗でなにも見えない空間になっているみたいで手はすり抜けた。しかし、その空間に手を入れたとたん全身を言いようのない悪寒が駆け巡る。気持ち悪くなにかが纏わりつく感覚、と同時に悟る、ここに入ってしまえば命はないだろう、そう悟ってしまうほどの強烈な死。入ってしまえばなにも残さず消えてしまう、そんな恐怖が襲ってきたらしい。

すぐに手を引っ込めたからか、手が消えていたり、怪我をしているわけではないみたいだ。

元あった入り口がないなら仕方ない。他の出口を探すしかないみたいだな。そういえばさっきワトソンが地図を見つけたと言っていたな。それを見れば他の出口も見つかるだろう。

先ほど見つけたという地図の場所に向かう。

俺たちの正面に立て看板式の園内MAPが立っている。


「えっと、出口はどこにあるかな」

俺たちが園内MAPの前までやってくると頭上から声が聞こえてきた。


「おやおや、新入りさんかい?災難だねぇ」

見上げると、園内MAPの後ろにある檻の中から二つの瞳が君たちを見つめている。檻の中にいたのは成人男性ほどもあろうかという大きさのコウモリだった。

その大きなコウモリが、檻の中にかけられた鉄の棒にぶら下がり俺たちに理解できる言語、つまり人間の言葉で話しかけてきたのだ。これがさっきワトソンが言っていたコウモリか。本当にいたとは……しかし、見た目大きなコウモリなのに若干イケボなのがいらっとくる。

おや、もっ君と美咲が驚いている。そういえば二人には言っていなかったな。まあ、大丈夫だろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る