与えられた罰

 市井に下るまでに学歴や資格を取得できるのはありがたい。それはそれとして、新たな婚約者に選ばれたディアンジュール伯爵の名を聞いて、わたくしは首を傾げる。

 伯爵家は辺境にある未開の地で、どんな場所なのかも明らかになっていない。判明しているのは、代々王族が跡を継いでいる事。最近も代替わりしたと聞くが、その前は国王陛下の伯父上ではなかっただろうか。その王族にあたる伯爵家に、傷物となったわたくしが嫁いでいいものやら。


 訝しげに眉間に皺を寄せるわたくしに、ジュリアンはおかしくてたまらないと言いたげにクスクス笑った。


「義姉上、もしかして罰にしては温いとでも思ってる? 王妃様も残酷な方だよね。

僕も今度入学するために学園に見学に行ったけれど、義姉上はすっかり時の人になっていたよ。何せ王太子のお気に入りを斧で殺そうとしながらも、最後まで罪を認めなかったっていうんだからね。これからの学園生活、針の筵だろうけど頑張ってね? ちなみに公爵家が勘当した事もちゃーんと知らされて、僕がいじめられる事はないから、安心して」


 ジュリアンによると、どうやらラク様をいじめていたわたくしの取り巻き(そんなものがいたなんて初めて知った)は、全ての罪をわたくしに擦り付けて知らん顔しているようだ。そしてそれは、ジュリアンも同じだ。事件に関してこの義弟が何かしたという事はないが、他の者と一緒になってわたくしを悪者にする事で、無関係をアピールするつもりらしい。保身と言うよりは、いつもの嫌がらせと変わらない。


「ディアンジュール伯爵は、義姉上と同い年だから学園で見かけた事あるかもね。王族は見目麗しい方々ばかりなのに、どういう訳かあの伯爵家だけは、代々目を逸らしたくなるぐらい醜い顔なんだってさ。

今の義姉上にはある意味お似合いだって、みーんな笑ってたよ。あははは!」


 要するに、わたくしがラク様を殺そうとした疑いが晴れるまでは執行猶予が与えられるが、学園では後ろ指を差される上に卒業後は醜い伯爵と結婚させられる訳か。

 ……わたくしはともかく、伯爵には同情せざるを得ない。だって王家の血を引きながら醜いと蔑まれ、何もしていないのに罪人同然の女を娶らなければならないなんて。ディアンジュール伯爵家については今まで最低限の事しか知らなかったけれど、何故ここまで不遇な扱いを受けているのかしら……まさか本当に、醜さが罪だなんてバカな事言わないでしょうね。


「じゃーね義姉上、学園で会っても恥ずかしいから声かけないで」


 一言も発しないわたくしを、絶望で声も出ないと取ったのか、義弟は満足げに手をひらひらさせ、元来た階段を上って行ってしまった。お父様もわたくしを虫けらでも見るような目で睨み付けると、さっさと踵を返す。


「今後、二度と公爵家を名乗る事は許さん。牢を出たらそのまま学生寮に直行し、卒業までそこで過ごせ。分かったな!」


 それが一応血の繋がりがあるお父様……いえ、デミコ ロナル公爵の、父としての最後の言葉だった。


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