第28話 平伏したいの

「え?なんで神が来てるの?」

「志成社長は急遽別件で対応しなければならなくなったの。代わりにアタシが出るわ」

 

 どうやら話によると、緊急で財閥の会合に志成は招集されたらしい。

 さすがに穴を空けることは出来ないので、神が代わりに派遣されたということだ。


 神は何をしでかすか分からないからな・・・・・・

 でも、それはそれで面白いものが撮れそうと思ってしまった私であった。


「そう・・・・・・それは残念」

「なに?アタシじゃ不満なの?」

「いや、そんなことはないよ。むしろ面白そう」

「アタシのどこが面白いのよ?どういうこと?」

「自覚無いんだ・・・・・・まあ、動画で配信されればコメントで嫌でも分かるよ」


 神はキャラが立ってるからね。きっと賛否両論になりそうな気がするけど。

 場をかき乱して展開を作ってくれそうな反面、仕切り役を担っていた志成が居なくなったので、誰が進行を務めるのかという問題に直面する。


 神にやらせてもいい気はするが、暴走すると手が付けられなくなるので、出来れば1人はそういった役割を全うしてくれる人材が居てくれればと思う。

 犯澤さんでも出来そうな気がするが、それ程前に出るような感じではない。メルヘン矢口は真面目ではあるが・・・・・・視聴者がニッチ層にしか刺さらなくなりそうだ。


 ダメだ!適材が見つからない。

 これはもう自分で巻き取るしかないか。

 そんなに前に出るつもりは無かったが、非常事態だ。

 やるしかない。


「とりあえず、神に合わせて流れを変えます。で進行は私で代わりにやります」

「別にアタシがやっていいわよそれくらい」

「アンタはすぐ人に喧嘩売るからダメ。他の人を輝かせてくれればそれで良いよ」

「オホホ!せいぜいアタシの魅力に埋もれないように気を付けることね!」

 

 神は早速お付きの者に指示してメイクアップを開始した。

 既に化粧が厚塗りなのに、これ以上何を塗るのか?恥か?

 

 最初に想定していた流れは、社員達が縦横無尽に暴れるのを志成がいさめてちゃんとした話を入れて体裁をなんとか整えるというものだった。

 神を中心に据えると一気に社員へのパワハラ地獄番組へと様変わりしてしまうので、昨今のコンプライアンス事情を考えるとそれは厳しい。


 普通に考えて志成の代わりを私でそのままやれば丸く収まる。

 しかし、それではせっかく素材としては一級品の神の味を殺してしまう。どこまで暴れさせて良いかというサジ加減にかかっている。

 さすがにこれはコンプライアンス的にヤバい話とかが出て来たら止める、くらいでまずは様子を見て、あまりにも自慢話が長くなったりするようなら、強制的に打ち切っていこう。時間の無駄だ。


「もうメイクは充分でしょ。始めるよ」

「直していただけよ。アンタこそ大丈夫かしら?」

「心配ありがとう。これウォータープルーフだから」


 いよいよ本編の撮影が始まる。


 番組の内容はトークと仕事現場の晒し上げがメインである。

 

「さあ、ついに始まりましたオンラインマジック!毎回不思議な社員の方をお呼びして、弊社の魅力や面白さを色々な方に伝えて楽しんで貰う、そんな番組です」


 最初のトークはなんとか順調に滑り出せた。とはいえ自分が思った以上に早口になってしまった。少し落ち着いたテンポで話そう。


「社員へのツッコミならアタシに任せろということで、神を降臨させました!皆さん是非崇め奉ってくださいね」

「視聴者諸君、全員アタシの前に平伏しなさい」

「でました~神のマウンティング挨拶!もはや恒例ですね。一部社員には大好評とのことです。良かったですね~」

「立場を分からせているだけよ!それをマウン」

「さあ、今日のユニーク社員はメルヘン矢口さんです!」

「ちょっと!喋ってる途中でしょ!」


 暴れる神は想定済みである。暫く放っておこう。それはそれで絵的に面白い。


「どうも~あなたのハートにズキュン!ゴスロリの魅力届け!宣伝部長のメルヘン矢口です!宜しくお願い致します」


 まるでアイドルのような流れる挨拶を決め、トークが始まる。

 内容は普段何しているのか、プライベートについて、今日の仕事机などを晒して、この回は終了した。


「あっという間の1時間でしたね。面白いと思って頂けましたら是非チャンネル登録ろいいねボタン押してくださいね。では又次回お会いしましょう!さようなら~」


 怒濤の撮影はこうして幕を閉じた。

 神は何故か知らないがかなりご満悦の様子で、元の部屋へ戻っていった。

 だいたい茶々を入れて進行を止める宮○的な役割だったが。


 このまま編集を始めて、明後日にはアップロードだ。

 これで今までの結果が目に見える形で出てくる。

 どう転ぶかは予測が付かない。インフルエンサーの心を鷲掴みにしたら、そこからあっという間に流行するであろうが、そこまで簡単な事では無い。

 それまでは、最善のモノに出来るよう、磨きに磨き上げなければ・・・・・・


「お疲れ様です。どうやら順調のようですね」


 そんなときに、ようやく志成が現場に現れた。

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