第17話 義兄妹の時間と皇族護衛編 7


 食事が無事に終わる頃、和也は第二プライベートルームへと戻ってきた。

 すると追っていた男が分身から本体に切り替わっている事に気が付いた。


「……一体どうなってる?」


 疑問に思ったが、ここで何か聞いても正直に教えてくれるはずもないので何も気付いていない振りをした。


 その後。自分の食事を手早く済ませた和也は女王陛下のプライベートルームへと呼ばれた。そこには榛名と育枝もいた。


「話しは聞いたけど、カイトの護衛どうなの?」


「さぁな、途中で逃げられたからわからん。だけど俺がそのまま戻ってきた時にはここにいた。なんかあるって事はわかるがそれ以上はわからん」


「そう」


 和也は念の為に遥と榛名にも育枝に渡した物と同じものを渡した。

 相手の狙いがわからない以上、これはあくまで気休めであることには変わらない。

 その為にも今は情報が一つでも多かった。

 それが遥と榛名の安全、なにより育枝の安全に繋がるから。


「この後の護衛はどうしましょう?」


「とりあえずカイトは護衛二人と一緒に今日は大人しく第二プライベートルームにいるはずだからどちらか一人ここに居てくれればいいわ。和也の願いを聞いて今日は私達二人で寝るから」


「良いのですか?」


「えぇ」


 頷く二人。


「だったらお前達三人で今日はゆっくり寝ろ。俺が見張りをしておいてやるよ」


「お前も身体がキツイだろう? 今日は私がするからお前が休め」


「安心しろ。俺は寝込みを襲う勇気とかないから!」


 自信満々にチキンだと宣言する和也。

 その直後目から大粒の涙が落ちた。


「言ってて辛いなら言うな……ばか」


 やれやれと頭に手を当て、呆れる育枝。


「つ、辛くなんかねぇよ! ただ悲しいだけだ!」


 膝から崩れ落ち、止まらなくなった涙をぽたぽたと垂らす和也。

 そのまま四つん這いになって悲しそうな顔で三人を見る。


「一生童貞と思うとな……俺だって……うああああああ!!!」


 とうとう現実を受け入れられなくなった和也が発狂を始める。

 そんな和也を心配して、隣にくる榛名。


「大丈夫だよ。その時は私が貰ってあげるから。元気出して?」


「ホント?」


「うん」


「はるなぁ~」


 そのまま雰囲気に身を任せて第二王女に抱き着こうとする和也に回し蹴りが飛んでくる。


「相手をわきまえろ。この大馬鹿者!」


 吹き飛ばされた身体を起き上がらせながら和也が言う。


「す、すみません……」


「あらあら」


 口元に手を当て驚く榛名。


「ブラコンもここまで来ると重傷ね」


 ボソッと爆弾発言をする遥。


「だからブラコンじゃありません!」


 顔を真っ赤にしてすぐさま否定する育枝。


「「へぇ~」」


 二人の意味ありげな言葉に育枝が黙る。


「と、とりあえずだ。見張りは俺がするから三人はここで寝てくれ。後は何とかするから。お前は最悪ソファーでも一日ぐらいならいいだろ。って事で頼む、大人しく今日は寝てくれ」


 そう言って和也は腰を擦りながら部屋を出て行く。

 扉のドアノブを手に取り締め直す直前で言う。


「扉の前にはいる。なんかあるならその時は直接呼んでくれ」


 と。それから三人の顔を見て「おやすみ」と言って和也は静かに扉を閉めた。



 外に出た和也はそのまま扉の隣に腰を下ろし座った。

 それから一人考え始める。

 アルトリア国の護衛二人の魔力は今王城内にしっかりと感知出来ている。

 不審な動きはない。

 だが今日和也が知るだけで二回不審な動きがあった。

 そしてそれに誰も気づかなかった。

 確かに感知系統に優れた魔術師ではないと気付くのは難しいと思うことは納得している。

 それでもだ、二回はリスクを取り過ぎている。

 そう考えるのが普通だろう。

 そもそもそれだけのリスクを背負ってでも動く理由がわからない。

 坂本総隊長の時は恐らく警戒してかそれはなかったのだと思う。

 もしあれば今頃そう言った話しを聞かされているに違いないからだ。


「……となると嫌な予感がするな」


 和也は自分に言い聞かせるようにしてボソッと呟いた。

 残り二日。

 何事も起きなければそれがいい。

 だけどもし起きた時は最悪の事態を想定しておく。

 もう何年振りかわからない。

 ここまで真剣に何かを考えたことは。

 それくらいにまで元とは言え大魔術師の異名までを持った和也に見えない圧をかけられる相手となると数は限られてくる。

 それは国内、国外問わず。


「父さん、母さん、まだそっちに行くつもりはないけどもしもの時は笑って受け入れてくれよな」


 天井をぼんやりと見つめ呟いた。

 その言葉が意味することは、ただ一つだった。


 そのまま一人色々と考えていると、気付けば朝日が王城の廊下に差し込んできた。


「もう朝か」


 大きく背伸びをして、立ち上がる。

 それから大きく深呼吸をして身体を軽く動かしていると三人が中から出てくる。


「「「おはよう」」」


「おう!」


「もしかして本当に一睡もしてないの?」


「いんや。ちょくちょく仮眠はとったよ」


 遥の言葉に対して和也は微笑みながら答えた。


「そっかぁ」


「なら良かった」


 安心する二人とは別に育枝だけが浮かない顔をしている。


「気にするな」


 和也は育枝にだけ聞こえる声でボソッと呟いた。

 流石に義妹だけは和也の嘘に気付いたみたいだ。

 それでも自分は雇われの身だし、後二日もすればゆっくり寝れると思いここは頑張る事にしたのだ。

 これは決して良心とかではない。

 ただ本当に裏表なくそう思っただけ。


「とりあえずお腹空いたんだけど朝ごはんまだ?」


「ちょっと待って。もうすぐしたら出来ると思うから」


「わかった」


「それにしても新鮮。朝から和也の姿が見れるなんて」


「確かに」


 遥と榛名はそう言って笑みを浮かべる。

 育枝からしたらこうして和也が朝早く起きている時点で寝てない事はすぐにわかったので色々と無理しているのだなと心の中で心配になってしまった。だけどここは和也の思いを組みなにも言わない事にした。

 そのまま四人で朝食が用意される第二プライベートルームへと向かった。


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