第2話 ステータスはむやみやたらと見せるものじゃありません!

「何をしていると、聞いている?」

 つり目で厳つい顔をした男が訊ねてくる。

「良かった。言葉が通じるみたいだ」

「なに? 同郷のものかな?」

 銀糸のような銀髪を肩口で切りそろえている。目は翠色で、くりくりとして可愛い。

「いや、違う。だがなまりが王都のそれと似ている」

「俺の言葉使いが気になるのか」

「そうだ。お主、名をなんと言う?」

「俺は神原かみはら冬弥とうや。小説家だ」

「ステータスを見せろ。確認する」

「へ? すてーたす?」

「ああ。声にだすといい」

「ステータス!」

 声を荒げると、目の前に半透明なウインドのようなものが広がる。

「うお!? なんだ?」

「ウインドには確かに〝小説家〟と書いてあるな。しかし、なぜそんなに驚く?」

「俺、いや自分。こっちの世界は初めてなんですよ」

「こっちの世界? 何を言っているんだ?」

「え?」

「ん?」

 どうやらこっちの世界では転移者など珍しいみたいだ。となると、隠していた方が無難かもしれない。

「とにかく怪しい者は連行する」

「連行!?」

「大丈夫よ。身元が分かればすぐに解放されるから」

 銀の髪のお姫様がそう言ってはいるが、身元が分かるはずもない。なにせ転移者だからな。

 ここで抵抗することもできるが、かえって怪しまれるか? となると大人しくついていき、無難に仕事でも探すか。

 ……しかし、仕事か。小説家になる前にはいくつかバイトを経験したが、集団行動が苦手なんだよな。

「ついてきたまえ」

「分かりました」

 俺は怖ず怖ずと彼らについていくことにした。

「ところで名前は?」

 俺からも質問してみることにした。

「おれの名はカーター=エリス。カーターだ。よろしく」

「わたしはカミラ=エリス。よろしくね!」

「カーターさんに、カミラさんですね。こちらからもよろしくお願いします」

 小説家とはいえ、相手への礼節は忘れてはならない。

 俺は幌馬車に乗せられると、そのまま移動することにした。

「さん付けはよしてくれ。おれたちには似合わない。それに敬語もやめてくれ。おれたちの方が年齢は下だ」

「分かった。カーター。それにカミラ」

 御者が馬を叩くとゆっくりと歩き出す。

「しかし、こんなところで出会うというのも不思議なものだな」

「そうね。あと少し遅れていたら大変だったのよ」

「え。どいうこと?」

「トーヤは年齢の割に詳しくないみたいだね。もしかしたら記憶喪失の一種?」

 カミラが疑問符を浮かべている。

「かもしれないな。この世界のことを知らなすぎる。もうじきダツの襲来だというのに」

「ダツ」

 確か唇が異様に尖った魚の名称のはず。

「ダツは海にいるはずだが? こんな草原にいるわけないだろ」

「え。ダツは空中を浮遊する上に、光りに向かって突撃してくる危険な存在だけど?」

「食べるとうまいけどな」

 どうやらこっちの世界ではダツという存在は危険になっているらしい。

 まあ、もといた世界でも危険ではあったが……。

「ダツは普段は雨雲に隠れているけど、この時期、雨雲は低い位置にあるの。だから必然的にダツも下に降りてきている、ってわけ」

「なるほど。そんな習性があるのか」

「お勉強タイム終了。トーヤは何者だ?」

「……どう応えていいのか分からない」

「やっぱり記憶喪失なのか……」

「いや、そうではないと思う」

 そう口に出してみたものはいいものの、異世界のことは言えないのだ。このまま成り行きに身を任せた方がいいのかもしれない。

「じゃあ、どこ出身だ?」

「日本、だ」

「ニホン? 聞いたことがないわね。どこの小国?」

 やっぱり知らないみたいだ。

「小説家だったよな?」

「ああ。そうだが」

「もしかしてフィクションと混同しているのかも。記憶喪失で」

 カーターは隣に座っていたカミラにこっそりと話しかける。全部筒抜けだけど。

「みたいですね。それにしてもニホン。どこかで聞いたことがあるような……」

 どこかで聞き覚えがあるのか。しかし、身のこなしが一般の人とは違うな。まるで戦士のようだ。いやこの世界なら戦士がいてもおかしくはないのか。

 いやしかし、遠いなだいぶ経つがまだ街には着かないのか? ところでどこを目指しているんだ?

「すまん。この馬車はどこいきだ?」

「今目指しているのは初心の街・エンドよ」

「へー」

 エンドって終わりって意味じゃね? それがなんで初心の街になっているのさ。ちゃんちゃらおかしいだろ? 不思議なこともあるもんだ。

「ステータスには他にどんなことが書いてあるんだ? トーヤ」

「ん。そうだな。ステータス!」

 ウインド画面が開き、端にあるスクロースで中身を確かめてみる。


――――――――――――

・職業:小説家

・攻撃力:10

・防御力:20

・精神力:500

・回避能力:10

・敏捷性:5


〇装備一覧

・Tシャツ――防御+2

・ジーパン――防御+3、敏捷性+2

・メガネ――視力+2、回避+3


〇特殊スキル

・小説家になろう! ~キャラ一覧~

 条件:登場シーンの再現


――――――――――――


 なんだ。これ?

 よく分からないが、かなりの貧弱装備に貧弱ステータスということだけは分かる。

「こんなんでよく生きてこれたな……」

「こら! カーター。ダメでしょ!」

 カミラが怒りにまかせて怒号を飛ばす。

「え?」

「ステータスを見せるのは相手が完全に味方になったとき。誰彼かまわずに見せるものではないわ」

「そ、そうなのか」

 でも確かに、こんなに弱いと知られると、敵に暴力で負けてしまう。

「しかし、この小説家になろう! のスキルは気になるな。覚えは?」

「ええと。分からない」

 条件、とあるが、これを達成すれば、その能力を手に入れることができるのだろうか。だったら最強勇者になるにはこの世界でトラックに轢かれて転生しなくてはならない。となれば、二番目に強いヒロイン3人の獲得か。これならそこまで難しくない。比較的、だが……。

 それにはラブコメの主人公がいいだろう。ラブコメの主人公は無条件でもらえるはず……。それとも夕暮れの教室にいなくてはならないのだろうか?

 うーむ。難しい。

「ステータスはむやみやたらと公開するものではないわ。自分しか見られないように、設定しておくものよ」

「どうやって?」

「右端の設定から選べるわよ」

「なるほど」

 俺は右端にある設定を選ぶ。そこから覗けるのは〝自分のみ〟にして設定を終える。

 これで他人から見られることはないだろう。

「わたしの〝千里眼〟で見えるけどね」

「マジか!」

「マジよ」

 うそーん。

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