第38話 本格始動【2】
リズが使った魔法の、その続き。
ロベルトは記憶を辿る。
合っているか、だんだん自信がなくなってきた。
「火の魔法と雷の魔法は、密封空間で使えば酸素を大量に消費して我々は酸欠になります。まして炭化すっ飛ばして塵も残さず焼却したのなら、毒素も出ている。でも、我々が吸っている空気は魔法が使われる前と同じです。他にもあれだけの爆発のあとなので、建物自体に異常が出てもおかしくないのにそれがない。つまり」
「結界か?」
言い当てたのはヘルベルトだ。
彼もそれなりに頭がいい。
リズはにこりと微笑む。
「それだけではありません。結界は光魔法。建物の耐久性は元来のものであったとしても空気などはあの瞬間に消えている。それを即座に同じ量補充した。……風と光、水の属性もかけ合わされている……と、思いました……」
「うん。だいたい正解。でも少し違う」
しかしなかなかにいい線いっている。
なのでリズは上機嫌だ。
「ボクが使ったのは[空間結界]と[複写]の魔法。ちなみに一番最初に使った。ここの空間を一度複写して、その複写した空間をほんの数ミリずらし、その中に魔物や汚物や残骸を全部まとめてポイっと入れたの」
「!? そ、そんなことが……!?」
「でも空気は作ったよ。[環境複写]でね。そのあと残ってるこっちの空間は[清浄]で清めた」
「い、いったいいくつの魔法を使ったんだべさ……!?」
「数えてごらん」
「あぅっ」
モナが両手を使って数え始める。
これはダメそうだ。
ロベルトの方を見ると神妙な面持ちで——。
「七つ、ですよね。[探索][マーキング][空間結界][魔法複写][環境複写][
「そうだね。使ったね」
「…………」
ロベルト、天を仰ぐ。
フリードリヒが首を傾げながら「なにかすごいんですか?」と聞いてくる。
その質問に、表情が死んでるロベルトがグリン、と顔を向けた。
動きが怖い。
「フリードリヒは属性何個使える?」
「え? 地と火だけです!」
「それも同時には使えないよね?」
「はい!」
「それを同時に使ってるし、なんなら他の全属性を使ってるんですよ。この人。地、水、火、風、雷、氷、光、闇、全部使ってるという……」
「わー! ……すごいんですね!」
多分、ロベルトほど凄さを理解していない。
ただ、同じく多少魔法を齧っている者は唇を震わせ、目を見開いた。
モナですら。
……逆に理解していないのはフリードリヒだけだ。
「まぁでもロベルトは勉強して練習すれば、全部使えるようになれるよ」
「し、しかし、光と闇の属性は訓練すれば使えるようになるものではありませんよね?」
「ボクは生まれつき使えたからなー。でも闇と光の魔力を取り込むと使えるようになると思うよ。相反する魔力だから、適性が少しでもあれば一発で使えるようになるんじゃない?」
「…………。え?」
脳みそに理解が追いつかなかった様子のロベルトは、数秒間停止した。
そのあと半笑いで聞き返す。
相変わらず、さらりと大変とんでもないことを言っているような?
「モナは闇属性の才能ないからやるだけ無駄だけど、ロベルトは多分闇属性が使えるようになる。キミは【勇者候補】だからボクのようにすべての属性を使えるようになるんじゃないかな」
「え、な、なんでですかだべさ!? なんでうちは闇属性は使えねぇんだべす!?」
「治癒特化系の魔法使いって闇属性と死ぬほど相性が悪いからだよ」
「があーーーん! おんなじ魔法使いなのにー!?」
「……同じ、ではないかなぁ」
ロベルトは攻撃・補助・強化などが得意な魔法使い。
対するモナは治癒・補助・強化。
補助と強化もタイプが違う。
ロベルトの補助魔法は能力効果を敵に付与。
身体強化の魔法も仲間の筋力や武器の攻撃力を増強させたり、武器に敵の苦手属性を付与するもの。
モナの補助魔法は異常状態の快復。
身体強化魔法も、仲間の防御力を上昇させたり異常状態への耐性を与えたりする。
「あの、そういえば闇魔法ってどんなことができるんですか? やっぱり光魔法の逆だから……攻撃に特化している感じですか?」
聞いたのはマルレーネ。
彼女は弓士らしく風属性の身体強化や武器へ魔法付与ができる。
リズの見立てでは闇も光も適性はゼロだ。
なので彼女自身が使いたい、とかそういう意味の質問ではないのだろう。
単純な興味。
そのように見える。
「闇魔法は光属性の魔法とできることは同じなんだよ。主に防御と回復。ただ効果が違う、かな」
「効果?」
「そう。たとえば光魔法の結界は浄化も同時に行える。闇魔法の結界は精神安定が同時に行える。でも光魔法の結界の結界外に対しての効果は完全なる遮断で、不可侵なもの。闇魔法の結界の、結界外に対しての効果は精神汚染に近いもの。とまあこんな感じで同じものでも効果がまったく異なる。もっと言うと、光魔法と闇魔法は他の属性とは違い、使用者の精神状態などでも効果が異なったりするんだ。だからボクとモナが同じ[小治癒]の魔法を使っても、異なる結果になったりする」
「ほんげぇー! そうなんだべか!?」
そうなんだよ。
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