第37話 老後のことは考えたくないけど

最近実家に一人で住んでいる母をよく訪問する。


もう歳で、パーキンソン病という病と、レビー小体認知症を患っている。


レビー小体認知症というのは、人や動物の幻覚が見える病で、母もさぞかし辛いだろうと推測する。


若い頃は、私とは色々精神的に確執のあった母だが、今は私も年だし、母もすっかりモウロクして、そんなことはお互い忘れてしまった。


最近、母の辛い涙を見た。


私が母と話をしている時、母は私が誰だか一瞬分からなくなり、私に妻も子もあることが、分からなくなったらしい。


まもなく母は正常に戻ったが、自分がこうしてひとつひとつ分からなくなっていく、自分の子供も認識できなくなり、孫も認識できなくなる、そのことを、とても悲しいことだと感じたらしい。

母は突然涙を流して泣いた。


老いとは悲しいものだ。


それは必ず誰にでもやってくるが、どんな形でやってくるか、それが問題なのだ。


よく老後のことを考えてとか、老後の備えとかいうが、母を見ていて怖いのは、歩けなくなること、認知症になること、そのへんかな、と思う。


それは老後を迎えたその先にあるものだが、私たち夫婦のように、充分な金もなく、面倒を見てくれる人もない夫婦は、どうなっていくのだろう。


母を見ていると、最近そんなことを思う。


母も、もう一人にしておけないだろう。

どうするか。


私にとっては、難問との闘いが、もう始まっている。

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