第4話 風評被害

 ミノタウロスの族長の娘・カウロアが魔王の招集を受け、城に上がってそば近く仕えている。


 このニュースは魔族の女たちに激震を起こした。


「なんで!? なんでよりによってミノタウロスなの!?」

「やっぱり胸!? 胸なの!?」

「デカけりゃいいってもんじゃないわ、ねえそうでしょ!?」

「乳だけ女に負けるなんて!!」


 魔国は魔族と呼ばれる多種多様な種族が集まった連邦国家だ。竜、吸血鬼、オークやゴブリン、コボルド、他諸々。人間種は彼らを魔物と呼び、人権を認めようとしない。


 能力的には人間種よりも優れていることが多いが、圧倒的な数の暴力には抗えず魔族は苦難の道を歩んできた。そこで強者が王となることで、力を合わせ人間という数に対抗しようとしたのが魔王国の始まりだ。


 つまり、魔王は魔族の最強。種族の存続のためにも女たちはその血を欲する。ハーレム? 当然だ。強き王を独占すれば他の種族を敵に回す。というわけで。


「ミノタウロス族に非難が集まっていると?」

「はい。娘については大変光栄なことですが、他の種族の姫たちにも機会を与えていただきたく……」


 ミノタウロスの族長が陳情に訪れていた。


「馬鹿を言うな。俺はカウロアに指一本も触れておらんぞ」

「えっ!?」


 触ったら結婚しなければならない。そんな強迫観念を植え付けられたヴァラルクストは、女性の手を取ることさえ慎重だった。ルーチェの時は油断していた。勇者といえば男だと思い込んでいたのだ。


「で、では一体娘は何用で城に召し上げられたので?」

「乳母だ。ザハルがそう説明したはずだが」


 ヴァラルクストはかたわらに立つザハルを見る。ザハルはうなづいた。ミノタウロスの族長は肩を落とした。


「そ……そういうプレイをご所望なのだと思っておりました」

「俺の風評は一体どうなっている!?」

「ま、まあ各種族きっての美女を片っ端から追い出しておりましたので、特殊な嗜好をお持ちなのではとは、まあ。……一時は私と噂が立ったこともあるくらいで」


 ザハルの説明に、魔王から表情が抜け落ちた。


 ヴァンパイアロードであるザハルは、吸血鬼のイメージ通りの貴族的な美形である。魔王と側近。妄想カップリングが大好物の人種にとっては、絶好の素材であった。


 ビリビリと城が揺れ出す。無意識の魔力が物理的エネルギーに変わる前にザハルが慌てて叫ぶ。


「もちろん全力で否定いたしました! 私も他人事ではありませんので!! ええ、そんなことを言う輩はもう残っておりません!!」


 振動はおさまった。ミノタウロスの族長は圧に押されて青息吐息。ザハルもほっと息をつく。実際には沸き続ける腐った人種を根絶する方法はないが、そう言わねば城が壊れてしまう。


「で、では恐れながら陛下。皆の誤解を解いていただきたく……」


 ミノタウロスの族長は息を整えて言った。娘が城に上がったのは事実。自分がいくら言ってもお手がついていないとは信じてもらえないだろう。


 ザハルが言う。


「陛下、姫様との婚約を発表なされては?」

「さすがに早すぎるだろう」


 ヴァラルクストは渋面で答える。ルーチェを妻に迎えるつもりではいるが、それは彼女が成長してからだ。


 今、婚約者などと言い出したら、間違いなく幼児性愛嗜好者ヘンタイという悪評が立つに決まっている。


「怒りのあまりあまり国を吹き飛ばすかもしれんぞ」

「やめてください。マジで」


 ザハルは真顔で言った。実際に吹き飛ばせるから困る。


「陛下、ではこういう形で持っていくのはどうでしょうか?」


 ザハルはヴァラルクストに一計を囁いた。

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