第10話 買っちゃった。

 智佐は手にした東京マルイのPX4を買う気満々であった。


 色々と麗奈の講釈はあったが、購入の決め手になったのは持った時のフィーリングだ。


 元になったのはベレッタのPX4ではあるが、商標権の関係で刻印はベレッタでは無いらしい。だが、現状でPX4をモデルアップしているトイガンメーカーは東京マルイと海外メーカーしかないので選択肢としてはこれしか無いらしい。


 東京マルイのガスブロを選ぶ利点は予備マガジンが安い事だと麗奈から言われる。東京マルイのマガジンは3000円前後、他のメーカーが4000円から5000円だとすると確かに安い。本体とマガジン2本を合わせても2万円以下で買えた。他のメーカーだとどうしても2万円は超えてしまうそうだ。


 麗奈に店の中にあるシューティングレンジに連れていかれる智佐。本当は買う前に試し撃ちをさせて貰ったりするためにあるレンジだが、智佐はすでに購入を決めた銃を片手にレンジに入る。備え付けのシューティンググラスを装着する。目の前には5メートルのレンジがあった。設置されているのは大き目のマンターゲット。これは人型に描かれた標的である。


 まずはマガジンキャッチを押して、マガジンを引き抜く。このマガジンキャッチは左右を入れ替える事が出来るそうだ。この点は前作であるクーガーから引き継がれているらしい。この辺は麗奈の講釈を聞きながら、進める。


 取り出したマガジンの前面にはスリットが入っており、バネが丸見えになっている。バネ先端にあるツマミを爪で引っ掛けるようにして、下に引き下げる。BB弾を上から一発づつ、入れる。ローダーを使うと一気に入れれるそうだ。


 装弾数は23発。入れ終わったら、今度はガスを注入する。


 ガスボンベを逆さにするようにして、マガジン底部の注入口にノズルを挿し込む。そのまま、グイッと押し込むと、ブシューと言う音と共にマガジン内に液が注入される。それで満タンになると生ガスが漏れ出す。


 智佐は真っ白いガスが噴き出して慌てる。そんな智佐の様子に麗奈も郁美も店員まで笑っている。


 マガジンの準備が終わったら、それを銃本体に装着する。この時、麗奈に銃の持ち方についてのレクチャーが入る。以前、撃つ時にも教わったが、改めて、教わる。


 ・ サバイバルゲーム時以外では、銃口を他人に向けない。


 ・ 射撃する時以外は安全装置は外さない。


 ・ 射撃する直前まで引き金に指を掛けない。


 ・ エアガンを持つ前にシューティンググラスなどの安全装備を必ず装着する。


 ・ 射撃する時は周囲の安全を確認する。


 最低限、これだけを守る事と麗奈に厳しく言われる。安全に楽しむ事がエアガンにとって、必要な事らしい。


 シューティンググラスを掛けて、レンジの前で銃を持つ。構え方は銃を持った右手を左手で包み込むように構える。


 狙い方は銃先端上にある照星と後端上にある照門の間を合わせる。


 スライド後端上部にある安全装置のレバーを親指で上に跳ね上げる。これが思ったよりも堅い。


 カシャンと跳ね上がってから、しっかりと握り直し、的を狙う。


 ゆっくりと人差し指を引いた。


 バシュンとガスが抜ける音と共にガシャンと強い衝撃と共にスライドが後退した。


 あまりの迫力に智佐は茫然とする。エアガンを撃つのはこれが二度目だ。


 智佐はあの時も凄いと思った。だけど、これはそれ以上だと思った。


 「だ、代表・・・凄い」


 「そ・・・そう」


 智佐のあまりの感動ぶりに麗奈の方がひくという。


 「楽しそうですね」


 御厨は隣に立つ郁子に言う。それを聞いた郁子は反射的に返す。


 「ミクリンも買いに来たんじゃないの?」


 「いや・・・見学です」


 「買っちゃえばいいじゃない」


 郁子は軽く言うので、御厨は動揺する。


 「そんな軽い感じなんですか?」


 「別にハンドガンぐらい邪魔になるものじゃないし」


 郁子の態度に御厨は少し考える。


 「私に合う拳銃ってどれですかね?」


 「ワルサーP38」


 郁子が即答する。それを聞いた麗奈がツッコむ。


 「そいつの意見は無視しなさい。大抵はドイツよりになるだけだから」


 麗奈にツッコまれて、郁子が反論する。


 「酷い。でもワルサーP38は良い銃よ。個人的には細部をちゃんと直して、P-1にして欲しいのだけど・・・」


 そんな郁子を無視して、麗奈は御厨に話し掛ける。


 「ミクリンなんかは手も大きいし、普通のサイズの銃でも良いんじゃない?ハイキャパとか」


 麗奈は御厨に近付いて、その手を見る。彼女の手は指がとても細くて長かった。


 「はぁ、ハイキャパって何ですか?」


 御厨がそう言っている間にも店員が東京マルイのハイキャパとウェスタンアームズのSVI、KSCのSTIが用意された。


 「殆どはレースガンって言って、競技用に使われる事が多いけど、45APC弾をダブルカアラムにした事で定番のガバメントの操作性をそのままに攻撃力を高めたモデルよ。問題はダブルカアラムにした事でグリップが太くなった事だけど、あなたの手ならしっかり握れそうね」


 麗奈に言われて、御厨はそれらを手に取った。


 「確かに・・・ところで、この三丁ってどれが一番良いんですか?」


 御厨の質問に一瞬、場が凍る。


 「定番は・・・昔ならウェスタンアームズだけど、今は東京マルイかしらねぇ・・・KSCは余程の好き者って感じだけど・・・まぁ、金額的な問題なら東京マルイじゃない?」


 麗奈は少し考えた上でそんな風に言うだけだった。あまりの熱量の無さに御厨は尋ねる。


 「思った以上に・・・興味無いんですか?」


 御厨に尋ねられて、麗奈は即座に答える。


 「私、あまりハイキャパみたいなダブルカアラムのガバメントカスタムは嫌いなのよ」


 「そ、そうなんですね。他には・・・」


 「大きい銃なら、デザートイーグルがあるわよ。昔はウェスタンアームズもあったけど、今はカタログ落ちしているから東京マルイだけね。あんまりお勧めはしないけど・・・マンガやアニメとかでは昔、流行った時代があったわね」


 前から見ると三角形に見える大きな銃を店員が出してきた。


 「大きいですね。威力も凄いんですか?」


 「だったら、良いけどね。まぁ、手軽に威力を上げれて逮捕者を続出させたメーカーのもこのモデルだったわね。エアガンは銃刀法の絡みがあるから、基本的にどれも同じパワーよ。だから、無駄に大きな銃は色々な意味で不利になるだけなの。でも大きい事で良い事もあるわよ」


 「へぇ・・・なんですか?」


 「銃自体に重さがあってバランスもとり易いから、ブローバックしても射撃姿勢による命中精度の低下が少ない事かしらね」


 「なるほど・・・でも、持っていると・・・だんだん、重く感じてきましたけど」


 御厨はそう言って、銃を机に置く。


 「じゃあ、定番の物でいく?東京マルイの新製品のグロッグ19とか?」


 「グロッグ?」


 「オーストリアの銃器メーカーよ。特殊部隊からの要請で片手で扱える拳銃を開発した所から始まっているわ。特にこの手の樹脂部品を多用した銃器の先駆けでもあり、世界中の公的機関で採用された実績があるのが特徴ね。エアガンでもその特徴はしっかりと再現されていて、片手で扱えて、性能が良いのが特徴よ。モデルとしては東京マルイとKSC、海外メーカーなどが出しているわ」


 その間に店員が東京マルイのグロッグ19サードジェネレーションを出してきた。


 「グロッグは数字でモデルが分かれているの。17が一番、オーソドックスなモデルで9ミリ口径でフルサイズの拳銃。19はそれをコンパクトにしたモデル。コンパクトって言うからに携帯性とかが高いわ。元々はコンシールドを狙ったモデルだしね。エアガンの場合は大きさのそれはあまり不利にならないから、むしろ、これを選ぶべきね」


 御厨はグロッグ19を手にした。


 「なんか・・・凄く扱いやすいですね」


 「大抵の人はそんな事を言うのがグロッグね。どう?それにする?」


 「うーん・・・そうですねぇ」


 御厨が悩んでいると、隣のシューティングレンジから智佐が笑いながらパスパスとエアガンを撃つ姿が見えた。それは本当に楽しそうに見えた。


 「よし!買います!」


 御厨は財布の中から、クレジットカードを取り出した。

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