思い出した話。1

 子供の頃、道端で奇妙な動物の死体を見つけた。

 お兄ちゃんと下校していたと思うから、多分小学校低学年の頃。

 自宅近くの土手の下り坂に、狼みたいな動物の死体があった。

 大型犬より少し大きい気がする。鋭い牙に、すらっとした脚。毛はゴワッとしていたような、束になった柔らかい毛のようなイメージが残っている。色は黒と薄い茶色が重なっていた。

 そういった獣が、舌をだらりとさせながら横たわっていた。

 

 「死んでいる」と直感したのか、私もお兄ちゃんもそんなに距離を取らず、普通に猫や鳥の死体を見つけた時の間隔で避けて帰った。

 「死体を『可哀想』と思うと幽霊が憑いてくる」なんて親かお兄ちゃんに脅されていたからか、じっくりは見なかった。

 

 家に帰って、「狼が死んでた」とお母さんに言った気がする。

 「そんなの居るわけないでしょ。見間違えよ」と直ぐに返された。

 すぐに確かめればよかったけど、結局同じ道を通ったのは次の日の登校時だ。

 もう流石に死体は残っていなかった。

 

 あとでお兄ちゃんにも「居たよね?」と聞いたけど、そんなの知らないと言われた。

 

 でも私は確かにあの日、狼らしき死体を見た。

 狸やアライグマや犬ではない、もっと大きくて野性味のあった死体。

 

 関東平野端っこの農業地帯の道であったが、あれは狼の死体だと今でも思っている。

 

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