主人公の友達ポジになりたいモブの俺に、正ヒロイン候補がフラグを立ててくる!

南雲 皋

第1話 入学式

 俺は影森かげもり創一そういち

 こんな名前だが、幼稚園時代には物語の主人公になれるレベルの人間だと思っていた。

 今でこそ分かるが、俺の両親は相当に親バカだった。

 俺が何をしても大喜びで褒めちぎり、多分あの頃の俺の鼻はめちゃくちゃ長かったことだろう。


 そんな俺も、小学校高学年くらいになると現実が見えてくる。

 世の中の人間は、俺にそれほど興味がない。

 そして中学校の卒業式で、俺は全てを受け入れた。

 すなわち、俺がモブであるということを。


 図書館で出会ったライトノベル。

 その主人公には、自分はなれない。

 せいぜい主人公の友達として、ヒロインの可愛さを羨ましがる程度だろう。

 そのポジションにだってなれないかもしれない。


 だから俺は、高校入学を機に一つの決心をした。

 ラノベのヒーローの友達ポジションを目指そうと。


 そうして一冊のメモ帳を手に、私立高校の入学式を迎えたのであった。





 学校の敷地内に入る前に、教師から名前を確認される。

 それから自分が何組なのか伝えられ、体育館へ向かうように指示されるのだ。


 俺はすぐに体育館に向かうことはせず、近くにあった大きな木と植え込みの陰に隠れて他の新入生たちを観察した。

 名前、クラスをメモした後は、とりあえず顔面偏差値を書き込んでいく。


 俺なんぞに判断されたくないかもしれないが、俺はモブであることを受け入れられなかった時期に、雑誌を買い漁っては芸能人やモデルの顔面を研究しまくった過去がある。 

 そのお陰で、目だけは肥えた。

 代わりに自分の顔を鏡で見ては絶望する日々になってしまったのだが。


 そんな俺が、思わずメモする手を止めてしまうくらいのイケメンがやってきたのは式が始まる十五分ほど前のことだった。


 マジでかっこいい。

 確実にスカウトされる。

 っていうか既にモデルか?


 顔の形と、その中に収まる各パーツのバランスが最強だ。

 少し甘めの目尻に、ゆるやかなパーマの黒髪が似合っている。

 骨ばった大きな手は爪の先まで整っているし、同じ制服を着ているとは思えないくらいに完成されていた。


 彼、和泉いずみ俊太郎しゅんたろうは、幸運なことに同じクラスだった。

 

 俺は彼に狙いを定めた。

 きっとこの学年、ヒーローになるのは彼だ。

 俺のその考えを裏付けるように、彼の後ろにはとんでもない美少女が付いてきたのである。

 彼らは同じ中学なのだろうか、既にかなり仲のいい様子だった。

 もしかしたら幼馴染というやつなのかもしれない。

 だったら彼女はヒロインだ。

 ライバルが現れるかもしれないし、正ヒロインではないかもしれないが、確実にヒーローの周囲を固めるヒロインの一角を担うだろう。


 笹岡ささおか杏里あんりと呼ばれた美少女は、イケメンの隣に並んでも見劣りしないどころか、お互いの良さを高め合うようだった。

 和泉くんの甘いマスクと対照的に涼しげな目元。

 ともすれば鋭すぎる瞳だが、それが凛とした雰囲気を醸すのに一役買っている。

 小さいのにしっかりとした鼻筋、薄い唇は色付きリップが塗られているのかと思うくらいに艶やかな桃色だが、たぶんあれは天然ものだろう。


 笹岡さんも同じクラスだ。

 うんうん、でしょうな。


 俺はメモ帳を閉じた。

 もうこれ以上、メモすることなどあるまい。


 彼らの後を追うように、俺は体育館へと向かった。





「あ、やべ、ビニール袋忘れた」


「え、わたし、自分の分しか持ってないよ」


「だよね」



 体育館の入り口、和泉くんは脱いだ外履きを入れるビニール袋を忘れたらしい。

 俺はカバンからビニール袋を取り出すと、そっと差し出した。



「良かったら、どうぞ」


「え、いいの!?」


「はい、何枚か、持ってきたので」


「うわー! ありがと、助かるー!」



 ああ、笑顔が眩しい。

 人懐っこい感じの笑顔が、同性の俺にも余裕で刺さる。

 流れで名乗り合い、同じクラスというところで更に距離が縮まった。

 ビニール袋一枚でヒーローと友達になれるなんて!

 幸先のいいスタートに、俺は、満足していた。

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