村の少年、旅に出る

宮島友

第1話 少年、カイル

「またのご来店、お待ちしてます!」 


 元気な声が心地よく響く。

 彼の名前はカイル。とある小さな村で、昔からお世話になっているダグラスという老人の元で、店の手伝いをしている若者である。


 朝の掃除から始まり、お客さんへの接客、商品の補充などを終えると、道具の効果や装備の性能を勉強する日々だ。


 ある日のこと、閉店後の後片付けをしている最中、ダグラスが話しかけてきた。


「カイル、話があるのだが少しいいかい?」


「もちろんです。何かありましたか?」


「実は明日、遠出する用があっての。すまんが、わしの代わりに店番を頼めるか?」


「僕一人で店番なんて……務まるでしょうか?」


「まぁ―店番といっても、ここには常連しか来ないから、なんとかなるじゃろ。日が沈むまでには、戻るようにするから。」


「そういうことでしたら、出来る限り頑張ってみます。」


 店番を任されるというのは、カイルの中では予想していなかったことであった。しかし、ダグラスからの頼みごとは今までになかったので了承することにした。

 ダグラスとの話を終えると、作業の途中になっていた店の後片付けに戻った。


 しばらくして、作業を終えるとダグラスに挨拶をして家に帰った。

 カイルは一人で暮らしていて、家には誰もいない。カイルが赤ん坊だった頃、店の前に置き去りにされていたのを、ダグラスに助けてもらったのだ。


 数年前まではダグラスと一緒に暮らしていたのだが、カイルはダグラスに迷惑を掛けれないと思い別々に暮らし始めた。

 しかし、ダグラスもカイルのことが心配で使われていない隣の家の空き家を買い取って、暮らしてる。時々カイルの様子を見に来たり、食事を一緒にとることもある。


「明日は一人なのか……不安だな……。 でも、僕のことを信頼してくれているから頼んだんだよね。期待に応えれるように頑張ろう!」


 明日に備えて、カイルは眠りについた。

 次の日の朝、店に着いたカイルはダグラスに挨拶をした。


「おはようございます!」


「おはよう。それじゃあ昨日話した通り、店番を頼むよ……」


 ダグラスは、よそ行きの服を着ると杖をつきながら店をあとにした。

 カイルは店先でダグラスを見送った後、いつものように朝の掃除を始めた。


 そして、開店の時間になった。


「いらっしゃいませ!」


「おはようカイル。」


「おはようございます。」


 常連のお客さんが、店にやって来た。このお客さんは、手芸が趣味で様々な作品を作っている。この店には、材料を買いにきている。


「こちらでよろしかったですか?」


 お客さんは、ニッコリと笑う。


「よく覚えていたわね!これを頂くわ。今度、カイルにも何か作ってあげるわね!」


 その後も、常連のお客さんが大勢訪れた。日常生活で必要な食料品から、装備品まで求めるものは様々であった。


「ダグラスは、これを長い間続けているのか……凄いな。」


 時間は、昼になろうとしていた。


「そろそろ、休憩しよう。」


 お昼ご飯は、朝早く起きて作ったお弁当だ。今日は、午後の準備も自分一人だから、いつも以上に急ぐ必要があった。


「美味しかったな……午後も頑張ろう!」


 午後の営業が始まる。午前の時と同じく、常連さんが店に来てくれた。お客さんの接客をこなしていく中で、徐々に慣れていった。


 あっという間に時間は過ぎていく。


「そろそろ、営業が終わる時間だな。何のトラブルも無くて良かった!」


 その時、店のドアが開いた。入ってきたのは、布で顔を隠す怪しげな人物だった。


 次の瞬間、怪しげな男はカイルの元に、足早に駆け寄ってきた。


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