第8話 鬼狩りと、お股の治水工事をしましょう 後編
今のところ俺が使える戦闘スキルは一つしかない。
それはつまりブラックドラゴンをやっつけた風の魔法だけだ。
ってことで、実験的にオーガの集落に向かう途中にそれを使用することにした。
つまりは、道中で襲い掛かってきた狼に向けて風魔法を放った。
え? 結果がどうなったって?
ウィンドエッジを放つと同時に狼がミンチになったんだよ。
そこで俺が率直に思ったことは「いつの間にか俺TUEEEEになってるじゃん!」とか「いつの間にかチート能力きちゃった!?」とかそんなことではなかった。
そう、素直に思った感想は単純だ。
――え? 何これ怖い
いや、おっぱい丸出し仙人での謎の文字化けに始まり、ブラックドラゴンの件とかあったじゃん?
アレで俺も薄々とは気づいてはいたんだ。
だからこそ、試し打ちということで俺の実力を確かめたんだけどな。
で、結果はミンチだ。
異世界転生モノとかで物凄い力を手に入れた場合、実際にどういう感想になるかと言えば、俺の心境になる人が多いだろうと思うんだよなー。
それはさておき。俺はオーガ退治を安請け合いすることになったが、ここにきて後悔することになったわけだ。
というのも、この仕事では討伐の証拠としてオーガの角を持ち帰る必要があるんだよな。
まあ、いわゆる討伐部位による証明というやつだ。
オーガは狼よりも多少は頑丈だろう。が、なんといっても細切れのミンチだからな。
これをオーガにやったら、まず間違いなく討伐部位もバラバラになってしまうだろう。
風魔法の威力調整はできないみたいだし、さてどうするか。
そんな感じで色々と考えていたんだが、やるとしたらスマートにこんな感じかな?
腰の鞘からキラリと長剣を引き抜く。
遠距離攻撃でミンチになるなら、近接戦闘の剣でなんとかするしかなかろうよ。
正直な話、近接戦闘でオーガと戦うのは怖いと言えば怖い。
だけど、俺は既に自分が相当強いことは理解しているんだ。
ステータスは文字化けしてバグってる感じなんだが、論より証拠ということで大木を殴って見たら一発で殴り倒せたしな。
「ま、自分の力の確認がてら……オーガ相手に暴れさせてもらおうか」
「ええ。旦那様ほどの強者であればオーガなんて余裕ですよ。なんせ大木も一発でしたし!」
エリスはニコニコ笑顔でそう言った。
しかし、エリスの笑顔は本当に可愛いと思う。
と、そこで俺は鼻の下が伸びているであろうことに気が付いて、ゴホンと咳ばらいを一つ。
「いやいやエリス。そうは言っても俺は実戦経験は皆無だからな」
「大丈夫ですって。大木を一発なんて中々できることじゃありませんし、さすがは私の旦那様って思いましたもん!」
「で、エリス。アレがオーガの集落か?」
言葉の通りに遠くに原始的な集落が見えた。
知能が低いというだけあって、日本で言えば縄文時代……いや、それ以前くらいの文明レベルに見えるな。
「え!? サトルさんはあんなに遠くの集落が見えるんですか?」
「逆に言うがエリスには見えないのか?」
「猫耳族は狩猟民族なので、目は良いはずなんですけどね! 凄いですよサトルさん!」
そうして、オーガの集落まで接近した俺たちは、目立たないように街道沿いの森の中に入ったのだった。
その目的は単純だ。
敵に発見されずに集落に近づいて、奇襲をかけて連中を殲滅するためだ。
☆★☆★☆★
「ギャアアアアアっ!」
オーガの集落に、数多の悲鳴が木霊する。
俺がやったことは単純明快だ。
オーガの角を切り落とした。ただそれだけだ。
ちなみにオーガの魔力は角に集中していて、それを切り落とせば普通の成人男性よりも弱体化するらしい。
つまり悪さはできないようになる。
無駄に殺すのも嫌だし、最初の一匹とやりあった時点で俺が強いことは自覚してた。
っていうのも、さっき茂みから飛び出した俺は一匹のオーガと戦ったわけだ。
で、それはやはりというかなんというか、思いのほかに弱かったんだ。
悲鳴を聞きつけた敵の増援が5体ほどやってきて、それを切り伏せて、更に増援が現れて……。
あとは流れ作業かのごとくに簡単な仕事だった。
つまりは鬼の角を切り落としていく。ただそれだけ。
それで、そうこうしてる内に戦闘の舞台はオーガの集落の中に移っていくことになる。
確か、総数で50を切り捨てた辺りだったと思う。
その時になんかやたらデカい黒鬼が出てきたんだよ。
それで、それを切り伏せた途端に敵の動きが変わることになる。
なんというか一瞬で空気が変わったみたいなそんな感じ。
具体的にはオーガたちは逃げるという感じではなく、かといってこっちに攻撃してくるというわけでもなかった。
守るにしても攻めるにしても、中途半端なスタンスになったというか。
まあ、恐らくはボス格をやられて、ビビったんだと思う。
かといって、集落を攻められている関係上逃げるわけにもいかないと。
こちらとしても角を残したままに野に放つのもよろしくない。
ってことで、問答は無用。
俺はそのままオーガの群れに向けて突進し、剣を振って振って振りまくった。
言い換えるなら、狩って狩って狩りまくったってことだな。
しかし、その途中で俺はオーガの振り落とした棍棒をモロに受けることになる。
「オオオオオオオっ!」
雄叫びと共に繰り出された一撃。
肩口にモロに攻撃を受けてしまった。
「……ギッ!?」
しかし、一瞬だけ勝ち誇った表情のオーガの顔色は瞬時に変わった。
そう、その瞳には明確な怯えの色が走っていたのだ。
ま、要は今のはワザと受けたってことだ。
これまでのオーガたちとの立ち合いで、力の差も分かっていた。
なので、ある種の確信をもって攻撃を受けてみたんだ。
結果としては、やっぱり痛くない。
完全にノーダメージの状態だったので、お返しだとばかりに剣を振る。
ビュオンと風切り音と共にオーガがドサリと倒れた。
さて、後はこの単純作業を延々繰り返すだけだな。
「オーガの攻撃を受けて無傷……? 凄すぎますよサトルさん……っ!」
と、まあ、そんなこんなで。
トータル100を超えるオーガを狩った俺は猫耳族の里へと戻ることになったのだった。
☆★☆★☆★
里に戻って、討伐部位の証明であるオーガの角を渡すと族長が目を白黒させてこう言った。
「エリス! 絶対に婿殿を離してはならんぞ! 絶対に……ぜーったいにじゃ!」
その言葉を受けて、エリスはニコニコと応じる。
「言われなくても離しませんけどね。私は旦那様が大好きなので」
ここまでむき出しの好意と共に大好きと言われると、対応には困るけど悪い気はしない。
と、族長はリビングテーブルに並べられた戦利品の角を確認し始めたんだが、すぐにその手が止まった。
「エリス。本当に婿殿を手放してはならんぞ」
「え、どういうことですか、おばあ様?」
「こういうことじゃ」
「ん? どういうことですかおばあ様?」
「黒鬼王(オーガキング)じゃ」
その言葉を聞いて、見る間にエリスの顔色が青ざめたものになっていく。
「確かに黒い鬼はいましたが、サトルさんがあまりにもあっさり倒したもので……そこには考えが至りませんでしたよ。でも本当に黒鬼王(オーガキング)なのでしょうか?」
「うむ、間違いあるまい」
「と、すればこれは魔獣人王様から特別な褒美が出るかもしれませんね。それどころか、我が里の序列が上がってしまうかもしれません」
俺を完全に置いてけぼりにして話が進んでいるみたいだけど、一体全体どういうことなんだろう?
「どういうことなんだエリス? 黒鬼王(オーガキング)ってのは何なんだ?」
「めちゃくちゃ強いオーガってことですよ! 旦那様!」
その日の夜。
今朝の約束のとおりに、俺とエリスは別々の部屋で寝ることになった。
ただでさえ性生活に疲れていると言うのに、今日はオーガの集落への遠征でマジでクタクタだからな。
「ようやくこれでゆっくりと眠れる」
しかし、エリスのいない夜の部屋ってのも新鮮だな。
そんなことを思いつつ、ベッドに寝転んだ。
疲れた体は正直だったようで、すぐさまに睡魔が襲い掛かってきた。
そうしてウトウトと入眠状態に入ったその時、コンコンとドアを叩く音が聞こえてきたんだ。
「あの……旦那様?」
「ん? どうしたんだエリス?」
寝ぼけ眼で部屋に入ってきたエリスにそう問いかける。
すると、エリスはベッドにもぐりこんで来た。
「今日、私は切ない気分なのです」
「……切ないってどういうことだ?」
「獣人族全般に言えることなのですが……これは本能なのでしょうね。つまりは強き男の強き種を授かれという」
「すまん。何言ってるかサッパリ分からん」
「つまりは、単刀直入いうとサトルさんの精子が欲しいってことなんです」
だから単刀直入に過ぎるって!
そう思いつつ、困惑しながらも俺はエリスに抗弁した。
「おいおい待ってくれよ。今日はそういうことはしないって話だっただろ?」
「魔法でクレバーな感じで強いっていうよりも、肉体的に……近接戦闘が強いオスを感じてしまうと、より深く旦那様に魅力を感じてしまうものなのですよ」
「いや、しかし、俺もここ一週間ほとんど寝てないしな」
と、そこでエリスは猫耳をぴょこぴょこと震わして、涙目でこう言ったのだ。
「ですが……切ないのです。我慢ができないのです。エリスはお股が切ないのです。旦那様が欲しいのです。旦那様はこんな……はしたない娘は無理なのでしょうか?」
と、俺は息を大きく大きく吸い込み、ひと呼吸置いてからこう言った。
「全然無理じゃないです」
我慢ができないというなら仕方がない。
ちなみに、切ないというエリスの談は本当で、そこはマジで大洪水状態だった。
と、まあそんなこんなでエリスの治水作業は難航し、作業を完了したころには既に朝方になっていたのだった。
いや、俺は一体全体いつ寝ればいいんだ?
朝焼けの太陽が黄色く見えたあたりで我に返ってそう思ったが、時は既に遅しと言ったところだった。
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