第6話 童貞を卒業しました。嫁曰く「重婚可」とのことです。






 族長の家では大宴会が行われていた。

 なんせ里をこれまで苦しめていたブラックドラゴンの討伐記念ってコトだ。

 七面鳥の丸焼きやらワインやらが並んでいて、この里で今まで見たこともないようなほどの豪勢な食事だった。

「サトル殿は里を救った英雄じゃ!」

 そんでもって、リビングのテーブルに並べられた超豪華な料理を前にし、族長は俺の肩をバシバシと叩いてきたわけだ。

「ささ、どうぞどうぞ! 遠慮せずに飲んでくだされ!」

 エール酒をジョッキになみなみと注がれた俺は曖昧な微笑を浮かべる。

 っていうか、調子良いなこの人。

 まあ、元々悪い人ではなかったけど、さっきまでとはうって変わってのニコニコ笑顔だ。

「時にサトル殿よ?」

「はい、何ですか族長?」

「エリスとの祝言はいつなのじゃ!?」

 ブーっとばかりに俺はお酒を吐き出してしまった。

「ゲホっ。ゲホっ……しゅ、祝言って結婚のことですよねっ!?」

「エリスはお主のことを好いておるのじゃ。そしてお主は勇敢な強者じゃ……なんせブラックドラゴンを倒しちゃったんじゃもんのっ! 猫耳族は強者と祝言をあげることが誉れなのじゃ!」

 倒しちゃったもんの! と、嬉しそうに言われても正直困る。

「いやいや、話が早過ぎでしょ!? そもそもエリスが俺のことを好きってのも勝手な決めつけでしょうし――」

 と、エリスに視線を送ってみる。

 すると、彼女は顔を真っ赤にして「……」とモジモジしていた。

 うーん。やっぱり決めつけじゃなかったのね。でも、この場合はそれはそれで困る。

 なんせ、結婚の話だからな。

「でも、おばあ様? あんまりそういうことはサトルさんに言わない方が良いと思うんです」

「どうしてじゃエリスよ?」

「サトルさんみたいな凄い人が私なんかを相手にしてくれるはずがないというか……何というか……」

「ふーむ。サトル殿よ、単刀直入に聞くがお主はエリスが嫌なのか?」

 単刀直入に過ぎる質問だった。

 いや、こんなのどう答えたら良いんだ?

 そう思いつつ、やっぱりここは素直に回答するしかないんだろう。

 なので、思ったとおりの言葉を出してみた。

「嫌ってことはないですけどね」

 と、その言葉でエリスは目を真ん丸とさせ、その尻尾がピンと立った。

「はにゃっ!? 今……嫌ではないとおっしゃいましたか!?」

「ふふ、エリスよ、サトル殿もまんざらでもないご様子じゃ」

 エリスは顔を真っ赤にして尻尾をゆっさゆっさと振っている。

 何だか嬉しそうなんだけど、それはそれでやっぱり困ると言うか何と言うか。

「族長……話を聞いてくださいよ。いくらなんでも早すぎますって、出会って数日ですよ?」

「そ、そうですよ、おばあ様。サトルさんの言う通りです」

「ふーむ、しかしエリスよ。このような強者じゃぞ? 早く手を付けねば他の誰かに取られてしまうとは思わんのか? 迅速こそが猫耳族の誉れ……ムラっと来たら直結希望という諺を知らぬお主ではあるまい」

 どんな諺なんだよと思いつつ、エリスに顔を向けてみる。

「他の誰かに取られる……? うぅ……それは嫌です。いや、そもそもサトルさんは私のモノではないんですけれども……」

 と、エリスの猫耳と尻尾がへなっとしおれてしまった。

「そうであればエリスよ。好きだとハッキリ言ってしまえば良いのじゃ。さすれば、あとはサトル殿がどうするかは決めてくれよう」

 えーっと、何だか話がすっごいアホな方向にいってるな。

 と、そこでエリスは「キリっ」とした表情を作り、覚悟を決めたように俺の顔をジッと見据えてきた。

「あ、あの……サトルさん!」

「は、はい……何でしょうエリスさん?」

 なんだかすっごいマジな感じなので、俺は思わず敬語になってしまった。

 ってか、こうやって見つめ合ってみるとエリスの美少女加減が良く分かるな。

 猫耳だし、尻尾もフリフリだし。

 お目めもパッチリだしスレンダーで小柄な体に小ぶりで形の良い胸が良く似合っている。

 あと、まつげがすっごい長い。

「あの……わ、わた……私は、サトルさんのことが……す、す、す……」

 見ていて気の毒になる感じに顔が真っ赤だ。

 ってか、すっげえ勇気を振り絞っている感じだな。

 いかん、マジな告白の空気みたいだし何だか俺もドキドキしてきたぞ。

「わたしは、サトルさんのことがす、す、す……す……」

 と、そこでエリスは踵を返して駆け出し始めた。

 そうして、彼女は半泣きになって玄関へと走り去っていったのだ。

「好きなんだけど、好きなんて――言えましぇんっ!」

 あ、噛んじゃった。

 っていうか、思いっきり好きって言ってるんだけど……。

 まあ、これはよほどパニクってるってことなんだろう。



 ☆★☆★☆★



 その日の夜――。

 ドラゴン討伐の宴会で、しこたまに飲まされた俺は離れの部屋に戻った。

「あー飲み過ぎた……頭痛ぇ……」

 頭痛を堪え、倒れ込むようにベッドに転がり込む。

 すると布団に潜り込んだ瞬間に違和感を感じた。

「……どうもです」

「あ、はい。どうもですエリスさん」

 エリスの挨拶に思わず俺は敬語で答えてしまった。

「えーっと、これはどういう状況なんでしょうかエリスさん?」

「あの、その……つまりですね。おばあ様が既成事実を作れとおっしゃいまして」

「なるほど。既成事実ですか」

「……理解が早くて助かります」

 と、そこでエリスは俺に絡み付いてきた。

 そのまま彼女の顔が近づいてきて、このままだと本当に既成事実を作られる状態になったしまったのだ。

 仕方が無いので、俺は腕に力を込めて遠ざける。

「……え? サトルさん……?」

「だから、そういうことは早すぎるだろ? 出会って数日だぜ?」

「でも、私はサトルさんが……しゅきです! あっ……!?」

 やっぱり噛んじゃう辺りは可愛らしい。

 そして、噛んじゃって顔を真っ赤に恥ずかしがってるのも可愛いとは思う。

 だがしかし、これはこれでソレはソレだ。

「俺もエリスのことは可愛いと思うけど、好きとか嫌いってこんなに簡単に数日で決めてしまっていいもんなのか?」

「でも、私は大好きですよ?」

「好きって俺の何が好きなんだ?」

「サトルさんは子供にも好かれていますし、私は優しい人は大好きです。ブラックドラゴン相手にも勇敢でしたしね」

「うーん……」

「それに猫耳族は種族的に男性が少ないんですよ。ですから、昔から他の種族から種を貰って子供を授かると言うことは普通にあったんです」

「ふむふむ」

「もう単刀直入に言いますね。私はサトルさんの精子が欲しいんです」

 単刀直入過ぎるだろ!?

 が、驚いている俺にはお構いなしでエリスは言葉を続けてきた

「サトルさん。猫耳族の男は重婚が普通なんです。ですので、他にお嫁さんを貰っても問題ありません」

「……え? マジで? そういうノリなの?」

 いくらエロゲの世界とはいえ都合よすぎる設定だろ。

 いや、でも、そもそものこの状況が都合が良いもんなー。

 この状況にしてもエロゲの世界だからこそ、出会って数日でこういうことになっているんだとも思う。

「あの、その……あと、サトルさん?」

「ん? 何だ?」

「私だって……女の子……です。女の子にここまで言わせて……酷い……です。後生ですから……抱いて下さい」

「いや、でもなァ……それはやっぱり不味いというかなんというか」

 と、そこでエリスは何かに気が付いたように「はっ!」と息を呑んだ。

「もしかしてサトルさんは……亜人が……無理なのですか?」

 ここまで言われては仕方ない。

 と、俺は息を大きく吸い込み、ひと呼吸置いてこう言ったのだ。


「全然無理じゃないです」


 いや、俺もここまで言われたらさすがに覚悟は決めるけどさ。

 でも、渋ってたのには実は他にも理由があるんだ。

 と、いうのも、俺は素人童貞だ。

 無論、そっち系の技術には自信がない。上手くできるかどうかも分からんし、やはり即答しかねる部分はあったんだ。

「それではサトルさん。初めてなので優しくしてもらえたら嬉しいです」

 ええいままよ!

 と、俺は覚悟を決めてエリスを抱き寄せる。

 するとエリスの心臓がバクンバクンと鳴っているのが良くわかった。

 どうやら彼女は本当に勇気を出して、俺のベッドに忍び込んできたみたいだな。

 そう言う風に思うと、たまらなくエリスがいとおしく思えてくるから不思議なもんだ。

 だがしかし、緊張してるのは俺も一緒だ。

 なんせ素人とは初めてだからな。

 俺に上手にできるもんだろうか? と、そんなことを思っていると――


 ――スキル:老師が発動しました


 ――太公望からラーニングしたスキルが発動します


 ――スキル:108手が発動しました


 ――スキル:ゴールデンフィンガーが発動しました


 良し、そういうことなら安心だ。

 ゲームでも太公望は床上手で有名だったからな。ここは素直に老師に感謝しておこう。

 と、まあ、そんなこんなで――。

 俺とエリスは情熱の一晩を過ごしたのだった。



 ☆★☆★☆★



 そして翌朝。

「おはようございます」

 目覚めのキスだとばかりに、俺の腕に絡みつくエリスがほっぺたにキスをしてきた。

「うん、おはよう。それとな……エリス?」

「はい、何でしょうか私の旦那様」

「お前の服さ、片方の胸が丸出しだから隠した方が良いな」

「え? それはどうしてですか?」

「他の男に見られるのが嫌だから」

 前々からいつツッコミを入れようと思っていたことではあるんだけどさ。

 俺はエリスとはちゃんと向き合っていきたいし、こうなってしまえば恋人だと断言してもいい状況だろう。

 っていうか、もう俺としても責任を取って結婚する気マンマンだ。

 言葉の通り、他の男に胸を見られるのはどうかとも思うし、やっぱりそこはちゃんとしてもらいたいんだよな。

 で、俺の言葉を聞いて、エリスはそこで初めて何かに気づいたように「あっ!」と息を呑んだ。

 そして頬を赤らめて、恥ずかしそうにこう言ったのだ。

「私はどうして今までこんな恥ずかしい恰好をっ!? は……恥ずかしいでううう!」」

 今まで自覚なかったのっ!?

 まあ、どうしてあんな恰好と言われると、その理由に俺には心当たりはあるにはある。

 そうなのだ。誰が悪いと言うならばそれは――


 ――キャラクターデザインした人が悪いんだと思うよ


 いや、バカゲーのノリのエロゲとしては正解のデザインかもしれないし、キャラデザ担当さんも会社にやらされただけかもしれんけどな。

 だがしかし、年頃の女の子としてはやっぱり片方の乳が丸出しだというのも問題だろう。

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