第3話母と五本のナイフ

 アマリオは町内会のイベントを手伝っている、もちろん自分が魔術師であることは隠している。そんなイベントを手伝っていたある日、とても暗い顔をしている女性を見つけた。アマリオの感心が惹きつけられ、アマリオは後で声をかけることにした。

手伝いが終わり女性が帰ろうとしたタイミングで、アマリオは女性に話しかけた。

「お話してもいいですか?」

 女性はアマリオを見た、女性は絶望に打ちのめされた顔をしている。

「あの、どちらさんですか?」

「私はアマリオ、魔術師です。」

「・・・話を聞いてくれるの?」

「ええ、もちろん。」

「じゃあ、ついてきて。家に案内するわ。」

 女性はアマリオを自宅に連れて行った。アマリオが女性からお茶を貰うと、女性は自分の身に起きた不幸を話した。

「私は一人で暮らしていますが、かつてはマサという息子と夫がいました。私はある日、自分はいじめられているとマサに言われました。いじめているのは、マサの通っていた学校で同じクラスの四人組です。それで私はマサをいじめないでとあの四人組とその両親に言いましたが、それぞれの両親は私の話を信じてはくれず、四人組もマサへのいじめを止めませんでした。そしてある日、マサが死んだという事を知りました・・・。私からもらったペンダントをあの四人組が、池に投げ捨てたのです・・。マサはペンダントを拾おうと池に入って・・・、そのまま深みに・・・。」

 女性は号泣した、アマリオが女性の背中をさすった。

「悲しみに浸り過ぎる私に、夫は愛想が尽きたようで出ていってしまいました。そして私は、全てを失いました・・・。」

 アマリオは女性の表情を見た、涙をこぼしながら憤怒の表情を浮かべている。

「あなたはその四人組が憎いようですね・・・。」

「ええ、そうよ。かけがえのない私の息子をよくも・・・よくも!!」

「では、あなたにこれをあげましょう。」

 アマリオは五本のナイフを女性に渡した。

「これは・・・?」

「このナイフは不思議なナイフでして、刃先を向けた相手をナイフ自らが刺して殺してしまうのです。」

「そんなナイフが・・・。」

「これはあなたのものです、復讐するかしないかはあなた次第です。」

 そう言い残して、女性の家からアマリオは消えた。






 女性はアマリオの話を信じていなかったが、物は試しということでアマリオから貰ったナイフを使った。四人組それぞれの家を知っていた女性は、帰宅するのを待ち伏せることにした。最初は四人組のリーダーがターゲット、彼が家のドアを開ける直前んに物陰から飛び出して、彼には先を向けた。するとナイフがひとりでに女性の手から離れて・・・。

「ぎゃーーーっ!!」

 ナイフは彼の脳天に刺さり、彼は倒れた。

「やった・・・、このナイフは本物だ!!」

 女性は人を殺した衝撃と、憎い相手が死んだ喜びで笑った。






 女性は後の三人も同じ手口で殺し、復讐を果たした。

「やった、やったぞ!!これでマサも報われた、マサの仇を討ったんだ!!万歳、万歳!!」

 その日女性は復讐達成を記念して、レストランで晩餐を楽しんだ。そして帰宅すると、ナイフが一本残っていることに気が付いた。

「このナイフ・・・、アマリオに返そう。」

「その必要はありません。」

 突然背後からの声に振り向くと、アマリオがいた。

「どういう事・・・?」

「あなたが殺すべき人がもう一人います。」

「え?もうあの四人組はもう殺しましたよ・・・。」

「考えてみてください、あなたは何がきっかけで絶望に堕ちたのかを・・・。」

 そしてアマリオは女性に憎悪の魔術をかけた、そして女性は殺すべきもう一人に気が付いた。

「マサ・・・。そうよ、マサさえ死ななければ私が絶望に堕ちることはなかった。マサのせいで、私は苦しんだ!マサに復讐したい!!」

「ほう、ですがマサはあなたの可愛い息子ですよ?」

「どうせ死ぬ運命なら、私が殺したほうがいいわ!!」

 女性の心からマサを愛する気持ちが消え失せ、自分から離れたマサへの復讐心で満たされた。そしてアマリオは女性の表情に笑みを浮かべ、ナイフを持つと女性と一緒にタイムワープした。






 アマリオと女性は過去の公園に来た、そこには過去の女性と四歳のマサが遊んでいる姿があった。

「ここは・・・?」

「ここは過去です、あそこにマサがいます。」

 そしてアマリオは女性にナイフを渡した。

「さあ、これでマサを殺すのです。」

「ええ、分かったわ!!」

 女性はマサの方へ近寄るとナイフの刃先をマサに向けた、そしてナイフはマサの方へと飛んで行き・・・。

「うううっ!!」

 ナイフは刺さった、しかしマサではなく過去の女性に・・・。

「そんな・・・。」

「ママ、ママ!!ねえ、ママ!!ママーーーっ!!」

 過去のマサと女性はパニックになった、そして女性はパニックで自分の存在が消えようとしている事に気付いていない。

「なんで・・、なんでこんなことに・・・。」

「母の愛故か、単なる偶然か、私にはわかりません。」

「なんで、どうし・・・。」

 ここで女性は消えた。




 その後マサは父親に引き取られ、死ぬ事無く大人になった。しかし母親を殺したのが母親自身だという事は、知ることも無かった・・・。

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