第3話 ちーちゃんと向き合って

「あっ……」


 その言葉にちーちゃんは反応した。教室の扉を出ると同時にこっちを見て止まる。

 声を出して、更には目も合っている。

 ちーちゃんは一度背を向けると、他の人かと確認をしてからこっちを向いた。そこで、目を向けられているのが自分だと気付いて、少し考える。

 隠すことなく「誰だっけ?」という表情だ。無垢な顔が母親に似ている。

 しかし、どうしてだろう。夢のはずなのに、失敗してもいいはずなのにこんなに緊張してしまうのだろうか。


「えっと……あの……」


 さっきまでの威勢と勢いが欠片も残っておらず縮こまっていくだけだ。中身は二十九歳のはずなのに、何故十五歳の子に緊張してるんだ。

 心の中で言い切るもなかなか行動に移せない。

 そんな中ホームルームを終えた生徒が続々と教室から出てくる。

 教室の前で人と話すのは何も問題がないのだが、それが冴えない男子で相手が可愛い女子であれば自然と目を惹いてしまうのだろう。

 入学初日に告白なのか、もしくは付き合ってるのか、など深くは考えないが小さな疑問の一つにはなってしまう。

 すると俺には十分以上に感じた十秒の間を切り開いてくれたのは、最初に声をかけた女子だった。


「ちー友達?」


 どうやらこの子はちーちゃんと友達だったらしい。

 その言葉に正気に戻った俺はそこで先手を打った。


「ちーちゃん、ちょっとだけいいかな?」


 ここで先にちーちゃんの回答を聞いてしまい、知らない人など言われればちーちゃんにもこの友達にも警戒されかねない。それだけはどうしても避けたい。

 おかしいな、夢だと思い込んでいるはずが、ずいぶんと慎重になってしまっている。


「え、うん。いいよ」


 俺の言葉に笑顔で頷いてくれたが、どうやら誰だかわかっていないようだった。


「ここだとちょっと通路だし、中庭でもいい?」


「うん」


 高校一年生ともなるとここまで無警戒についていくものなのだろうか。同級生というカテゴリーがそうさせているのか。

 夢なんだからこのまま告白なんてのもいいものだが、まるで現実かのような鼓動と緊張がそうさせてくれなかった。手が、身体が震えている。

 ちーちゃんは横にいた女子に小さく「後で」と伝えて、俺の後についてきてくれた。

 歩いて数秒もしないうちに隣の校舎の駆け道となる渡り廊下まで来た。

 通路の邪魔にならないように少し外に出て二人向き合う。


 

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